第16話 ビリー、男を魅せる②
「よし、僕の攻撃を受けてみろ!」
ビリーの声がコロッセオに響くと、集まった観客の目がいよいよビリーに向けられる。
ビリーの手には一切の武器を持っていない。それでも、ビリーには勝算があった。
ビリーが、一人の大男の足の上に乗る。
大男は思わず足を上げようとしたが、ビリーはすかさず足をくすぐった。
「こ――ちょこちょこちょこちょこちょ!
あ――、くすぐったいでしょ――? 大男さぁん?」
大男の足が震え上がる。
踏まれてしまうので、人間のツボがある足の裏に手を伸ばすことはできないものの、ビリーが指の間をくすぐると、大男はさらに震え上がった。
「さらに、上を目指そう!」
ビリーは大男の太い足にしがみつき、足の毛を掴んだ。
通常のサイズの人間であれば、毛を引っ張っても支えることはできないが、大男の場合、体が太い分だけ毛も太くなっているようだ。
それでも、ビリーの目指す場所までは、高さにして4mほどはある。
公園で見るような登り棒とは全く違う幅を上がっていかなければならないため、ビリーは大男の毛を掴みながら、少しずつ登っていった。
だが、重力の関係で、必然的にその時はやってきた。
――ブチッ!
「あっ……!」
ビリーは、大男の毛を引っ張って、そのまま抜いてしまった。
体が、大男の右足の上に真っ逆さまに落ちていく。
だが、それすらも大男にはダメージになるのだった。
『いたっ……! すごく重いものが落ちてきやがった……!』
ビリーの体の衝撃で、大男はたまらずビリーを乗せたまま膝を上げた。
ビリーは足にしがみつき、腰のあたりまで上がったところで目指すべき場所を見つめた。
「ジャンプすれば……、届く!」
そこでビリーは、もう一度大男の毛を掴んだ。
今度は、比較的長い毛を掴んでブラブラさせたのだった。
「ビリー、いっきま~す!」
ブチッという音が聞こえたと同時に、ビリーは勢いで狙った場所にしがみついた。
狙った場所とは、平たく言えば、男の生殖器。
そこを叩けばどうなるか、ビリーは男性であるがゆえに知っていたのだった。
『いたあああああああああっ!』
ビリーからパンチを食らった場所から、大男の全身に痛みが回り始めた。
その衝撃で大男は飛び跳ねるものの、隣にいたもう一人の大男にぶつかりその場でうずくまるどころか、もう一人の大男もその巻き添えを食らう形でバトルフィールドの端によろけた。
大男の攻撃に備え、観客席との間に10mものガラスの壁が立っていたのも災いし、もう一人の大男も結局はガラスに激突して頭をぶつけ、バトルフィールドに倒れ込んだ。
――勝者、ビリー・エバーラスト!
なお、この後、大男の撤収作業がございます。Battle2の開始まで、しばらくお待ちください。
武器を持たない体で狙った作戦とは言え、このような結末まで予想していなかったような目で、バトルを終えたビリーはその場を見つめた。
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「僕、ホントにバカだ……。
アリスと4ヵ月過ごして、なんか僕までバカな作戦を考えるようになっちゃったよ……」
一度控室に戻ったビリーは、一緒に入っていったアリスに振り向くことなく、首を振りながら言い散らした、
「大男こちょこちょ大作戦ですか? それとも、大男金の玉コキーン作戦ですか?」
「どっちも。
てか、武器を持たない時点でそれしか勝ち目ないでしょうに!」
苦笑いするビリーを、アリスは舌を出して見つめた。
そもそも、ビリーが体を張って戦うということを最初に考えたアリスが悪いわけだが。
「あのさぁ、アリス。
せめて、僕に武器をくれ。そうじゃなきゃ、次のバトルでは絶対負けちゃうよ」
「えーっ?
そんなこと言っても、私は領主だから特に武器は持ってないですよ?
『オメガピース』でも、レベルの低い兵士が使うような銃しか持ってませんでしたから」
「その銃、この世界に持ってきたっけ?」
「あー、そうですねぇ。この世界にやってくる前に『オメガピース』クビになっちゃいましたからねぇ」
「ダメだこりゃ……」
ビリーは、アリスから我先にと目を反らし、控室にたまたま置いてあるような、忘れ物の武器を探し始めた。
だが、経営がアリスに代わろうが、「アレマ・コロッセオ」のスタッフは毎回イベントが終わると片付けており、ビリーしか戦わないこの日のために、武器になるようなものを一切残していなかった。
ビリーは、ため息をついて言い放った。
「アリスさぁ……。
今まで僕たち、素手で勝ってきたこと、一度もないんだよな……」
「王室騎士団がいなかったら、私たち、とっくの昔にオリの中に入れられてましたものね」
「てか、僕対何か、ということは、召喚すらできないってことだよね……」
「あ……」
アリスは、ビリーの何気ない一言で固まった。
生身の体で戦うということは、それすらもできない。
以前、このコロッセオで戦った時には、予め本人が戦うのか召喚して戦うのかを聞いていたはずだ。
だが、ビリーがこのルールを呑んだ時点で、最後までビリー一人で戦わなければならないわけだった。
「ビリー……、ごめんなさい……。
今日で、私、領主クビですね……」
「アリス。諦めてどうするんだよ……。
キングブレイジオンにだって、力強い言葉を掛けてたのに、自分自身のことになるとそんな弱気になるの?」
「だって、領主クビのルールは、ビリーにハメられたと思ってますもの」
「ハメたって……?
単に僕がコロッセオを盛り上げるために出した案が、あの会議で通っただけじゃん!
僕は諦めないよ! あんなルールにしちゃった身として!」
ビリーは、アリスに背を向けて、幕が開きかけたバトルフィールドへの入口に歩き出した。
バトルフィールドに入る直前、ビリーは少しだけアリスに振り返ったが、その時には胸を手で押さえていた。
「頑張ってください。
私は、バトルフィールドの片隅で、ビリーを応援することしかできませんから」
ビリーが、アリスの声でかすかにうなずくと、2戦目の舞台へと足を踏み入れた。
そこから10mほど離れつつ、アリスもバトルフィールドの中に入る。
――さぁ、お待たせいたしました!
本日のBattle2は、聖獣クリムゾンウイングのお出ましです!
自由自在に空を駆ける相手に、ビリーはどのように戦うでしょうか!
「まずい……。
今回はガチのバトルになりそう……」
アリスが、既に空を舞っているクリムゾンウイングに目をやる隙に、アリスの横をスタッフが駆け抜けた。
アリスには、そのスタッフが光るものを持っていると、一瞬だけ見えた。
「あ……、もしかして武器を持って来てくれた……?」
控室での会話を聞いて気まずくなったのか、スタッフが急遽、モンスターが暴走したときのために用意していたロングブレードをビリーに手渡したのだ。
だが、相手は空を飛ぶ獣。
トライブの持つアルフェイオスと違い、空を操ることはできない剣だった。
『ビリーの墓場は、ここでいいのかぁ?』
クリムゾンウイングの翼が大きく開く。
その翼から生えていたものは、無数の棘だった。
翼を巧みに動かして上空から棘を落とすのか、それともビリーの間近に迫り、その棘で頭から串刺しにするかまでは、ビリーには分からない。
だが、ビリーにとってまだ勝ち目があるのは、後者だった。
「どうすればいい……。
僕は、どうやって勝てばいいんだ……!」
本当に初めてとなる、本格的なバトルに放り出されたビリーは、クリムゾンウイングを見つめたまま動くことができなかった。
いよいよ、クリムゾンウイングの翼が羽ばたきだし、ビリーに向けて急降下する。
「危ない! ビリー!」
アリスが叫ぶか叫ばないかのうちに、ビリーは反射神経で体を右に反らした。
そこにクリムゾンウイングが着地した。
「えっ……、着地するの……? またザコなんじゃ……?」
ビリーは、体を後ろにのけ反りながら、思ってもいなかった展開に驚くしかなかった。
ガチモンのバトル、ビリーは耐えられるのか!
応援よろしくお願いします!




