第15話 バージルとの思い出⑤
「バージルさんが死んじゃったの、ビリーのせいじゃないと思います……。
自分をそんなに責める必要なんか、ないです……」
アリスは、ビリーが話し終わった瞬間に小さな声で呟いた。
「ホントにそう思う……?
たぶん、それはアリスが今まで上に立ったことがないからじゃないかな……」
「と、申しますと……?」
「例えば、アリスは『オメガピース』を追い出されたわけじゃん。
その時、アリスの面倒を見てくれたクイーンは、悲しい顔を浮かべなかった?」
「そう言えば……」
――アリスは、頑張ってるわよ……!
アリスは、ビリーに言われるがまま、「オメガピース」を追放された日のことを思い出した。
トライブが、懸命にアリスを擁護していたことだけは、はっきりと思い出せた。
「クイーンは、人前では決して弱さを見せない女性です。
だから、悲しい顔もしなかったですが……、追い出される私を止めはしました」
「じゃあ、いざ追放されると分かった時、自分を責めたりもしてなかった?」
「してないんじゃないですか? あのポーカーフェイスですよ?」
アリスは、「オメガピース」の救護室にもその姿があることすら知らなかった。
その時点で、そこでトライブがソフィアに気持ちを打ち明けていることすらも知る由がなかった。
「結構タフな人間だね、『剣の女王』は……。
バルゲート兵が領主だと錯覚するのも、無理はないかな……」
「それでも……、私とクイーンの関係って、ビリーとバージルさんの関係とは別だと思うんです」
「僕が面倒見てるんだから、同じじゃない?」
アリスは、ビリーに首を横に振った。
「きっとバージルは、自分の意思でビリーについて行こうって決めたんです。
ここに来るまでの間に、『賞金がかかった敵を勝手に倒すな』なんてことも言われたと思うんです。
ノーザンクロスでは紹介屋と一緒に生きていくことしか、ヒーローへの道を描けなかったんじゃないですか」
「あ……」
ビリーが、何もない夜の草原地帯で突然歩くスピードを落とし、アリスにうなずいた。
小さな声で「ごめん、何でもない」と告げるものの、夜空からの光に映ったビリーの表情は重かった。
「たしかに、そうだよね……。
バージルは、紹介屋に所属したかったんじゃなくて、ノーザンクロスの街を守りたかったはずだものね……」
「そうですよ……。
だから、バージルさんは街を守るために、もっと燃えたかったんだと思うんです……。
でも、想いに体が付いていかなかったんです……」
アリスは、ビリーの肩を軽く叩いた。
「アリス、見てないのによく気付くね……」
ビリーが再び歩き出すと、アリスは首を横に振ってそっと笑う。
「そこまで言われるほど、私は人間出来てないです……。バカですもん」
「アリスは、バカと言うよりも、頭の回転が速すぎていろいろなことを考えてくれる人だと、僕は思うよ。
で、どうしてそう思ったんだい」
「はい……。
バージルをキングブレイジオンに置き換えてみましょう。それだけです」
ビリーの表情が固まった。
小声で「そっかー」と呟き、アリスに向かってため息をつく。
「そりゃ、置き換えれば簡単に分かるよね……」
「です。
ハイトさんと一緒に戦っていた時、最後は『もっと燃え上がれ!』って叫んでるようでしたもの……」
「そうそう。
なんか、そう言ってたようにも見えたし、召喚してくれたハイトをかばってたよ」
ビリーの硬い表情はすっかり鳴りを潜め、いつの間にか普段と同じテンポで歩くようになっていた。
そして、アリスの横まで近づいたところでアリスの顔を覗き込んだ。
「アリスさ、念のため聞くけどさ……。
アリスの中では、バージルがキングブレイジオンだと思ってる?」
「イメージはそうです。
言ってしまえば、バージルの顔写真に『これはイメージです。本人と関係ありません』って注釈が付く感じ」
「どっちだよ!」
「えへへ……。しばらくバカなこと言ってなかったので、つい……」
アリスは頭を撫でながらビリーに伝えたが、すぐにため息をついた。
「本当に、同一人物なんでしょうかね……」
オレンジ色の髪であること、炎を使うこと、そして正義のヒーローを意識していること。
これら三つは、バージルとキングブレイジオンで完全に共通している。
だが、髪型は違っており、首から下も通常の人間と金属スーツとで異なっている。
そして何より、名前が完全に違う上、何度かビリーを見ているキングブレイジオンの口から、「あの時の」ビリーだと言われていない。
「アリスさ……。
この問題、プランテラの街で最初に見たときから、ずっと僕を迷わせてるんだ」
「ですよね……。
あれだけバージルの面倒を見たんですから……」
「そうだよね。
だからこそ、逆に同一人物かどうかで、下手すると接し方が真逆になってしまうんだよ……。それが怖い」
ビリーは、無意識のうちに笑っていた。
それを見て、アリスは右手を空に伸ばした。
「ん? 敵がいないのに召喚するの?」
「はい……」
ビリーが困惑した表情を浮かべる中で、アリスは先に召喚する対象のイメージを固めた。
「一緒に働きたいか働きたくないかを見定める、鋭い眼力の持ち主よ。
接し方に困る青年を助けたまえ……。
召喚! 『オメガピース』面接官のお姉さん!」
青白い光が浮かび上がるその向こうで、ビリーが口をポカンと開けていた。
「オメガピース」本部棟から呼び出しを食らっているとき、アリスがたびたび会っていた茶髪の女性が、アリスの声に応えるように青白い光の中で動き始めていた。
「アリス、いったい何を始めようとしてるんだよ……」
「はい。
キングブレイジオンにどう接していいか分からない大人のための、性格別接し方講座――っ!」
アリスが叫んだときには、既に「オメガピース」の面接官が、突然転送された世界に戸惑いながら、呼んだアリスに近づいてきていた。
「ということで、人間との付き合い方に大切な、ロールプレイです。
いまは、目の前にいる面接官は、実はビリーの幼馴染でした。
そのことをビリーが思い出すところから、スタート!」
「オイオイオイ、勝手にスタートするんじゃない!」
だが、面接官のほうはアリスに軽く名前と性格を確認し、うなずいてロールプレイを始めてしまった。
「ビリーさん……、私のこと、覚えてますか?」
「覚えてな……、いや、ちゃんとロールプレイしよう。
なんか……、思い出したような気がします。
幼馴染……ですね。今まで、全くの他人にしか見てなくて、本当にすいませんでした」
「はい、カーット!」
アリスが、ビリーと面接官の間に入って、近づこうとする二人を止めた。
「何の芝居をさせようとしてるんだよ、アリス」
「え? 今のビリー、完全にアドリブですよね?」
ビリーは、アリスのツッコミに苦笑いするしかなかった。
アリスは面接官の横に行き、「呼び出してすいませんでした」と頭を下げ、元の世界に戻そうとしたが、それをビリーがジェスチャーで止めた。
「これ……、僕を試してるんじゃないよね?」
「試してますよ。
というか、幼馴染と気付いたときにビリーがどう感じるかを見ただけです」
「あのさ……。
せっかく、面接関係のプロを召喚したんだからさ、10分ぐらい僕のさっきの相談を聞いて欲しいんだ。
クイーンのいる世界から持ってきたんだから、10分ぐらい大丈夫だろ……」
「たぶん、私との信頼関係的に、10分は厳しいと思いますよ。
ビリーが教えてくれたじゃないですか」
「じゃあ、召喚が続く限り!」
ビリーは、アリスと面接官の両方に向かって、バージルの話を打ち明けた。
そう簡単に解決するような問題ではないものの、その時のビリーはいつになく真剣だった。
なんかとりとめのない話になってしまいましたが、バージルとキングブレイジオンの謎はこれからも付いて回ります。
次から16話です。応援よろしくお願いします。




