第15話 バージルとの思い出④
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バージルの「居場所」が紹介屋の世界に周知されるまでに、そう日数はかからなかった。
一つも依頼のなかったビリーの店も、翌日には「これをバージルさんに倒して欲しい」と、隣町で略奪行為を繰り返す男たちの依頼が舞い込んできたのだった。
その男たちの紹介は、数年前からいろいろな紹介屋に出されているものの、人間どうしのバトルながら誰も勝利する者が現れず、今やどこの紹介屋も諦めてしまったものだ。
だが、ステルスドラゴンを一瞬で焼き尽くす「ヒーロー」がビリーの店に「加入した」と分かり、依頼を持ち掛けてきた年配の女性が「バージルならできる」と付け加えつつ、ビリーの店に改めて依頼したのだった。
そして、その依頼は、その日のうちにバージルの知るところとなった。
「紹介屋界隈だと、かなり有名な強敵らしいけど、大丈夫ですか……?」
ビリーがイラストつきの依頼書をバージルに渡すと、またもバージルが何も躊躇することなくうなずいた。
「なんか、魔術を使ってきそうな手をしている。
手の関節が、どう見ても剣士に向いていないから……」
「そこまで分かるんですね……。
この前言ってた、言われるほど戦ってない、っていうの、本当は間違ってるんじゃないですか?」
「いや……。
俺はバトルに集中してるから、どうやって炎を放っていいか知るのに、そういうところまで全部見るんだ」
「なるほどね……。
とりあえず、今回の賞金は1万リア。
今回は、バージルさんを指名してきたから、このお金、最初から金庫には入れないでおきますね」
ビリーは、100リア紙幣100枚がとめられた札束を、カウンターに置いた。
バージルの目は、特にお金には向いていないようだ。
その代わり、バージルはビリーに右の人差し指を伸ばし、ビリーのおでこに当てた。
「俺の力、信じてくれよ。
俺も、この世界で生きていくことを認めたお前を信じるから……」
「分かった」
ビリーがそう言うと、バージルは静かに店を出た。
誰にも頼んでいない賞金首が店に1件もなくなったが、それから数分後には次の依頼が舞い込んできた。
それもまた、バージルを指名してきたものだった。
「信じる……、かぁ……」
ビリーは、バージルの時折後ろ姿を思い返しては、その強さと人間性を頼りにし始めていた。
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それから2ヵ月、バージルはほぼ毎日ビリーの店を訪れては、その時点で店にある依頼を引き受けていった。
中には、普通の冒険者が軽く倒してしまうような依頼もあったが、バージルは「戦ってみないと分からない」と言いつつ、そのような依頼も軽く引き受けていった。
そして、バージルはそれらを一日、二日で全てやってのけるのだった。
ある日のこと、ビリーはいつも通りバージルを送り出してからため息をついた。
「やっぱり、バージルが来てから、僕の店、商売にならないよ……」
依頼を引き受けた冒険者たちが賞金首を倒せないまま、依頼を店から取り下げた時点で、店側はある程度の賞金をもらうことはできた。
だが、バージルがこの店に来ては賞金を持って帰るので、事実上収入ゼロになってしまったのだ。
空っぽに近い金庫を開け、ビリーはもう一度ため息をついた。
「僕、バージルを助けるために生きているのかな……。
というか、このままじゃバージルに何かがあったら、全部僕のせいになってしまう……」
ビリーは、そのことだけを恐れていた。
どんな強敵もあっさりと焼き尽くしてしまう炎使いだけあって、この2ヵ月間全く心配することなくバージルを送り出してきたものの、逆に言えばその存在が消えてしまった時、一気にこの紹介屋が元に戻ってしまう。
「バージルは、店を大きくしようと言ってくれた……。
たしかに、今まで引き受けもしなかった依頼を引き受けられて、依頼の幅は増えたし、バージルの知名度だってかなり上がった。
でも、店自体はそれほど変わってないし、やって来る冒険者の総数はむしろ減ったかな……」
その時、店周辺の空気が変わるのをビリーは感じた。
まだ、バージルを送り出して10分も経っていないのに、すぐそこにバージルがいるかのようだった。
そして、その近くには「まだ生きている」賞金首の気配がする。
ビリーは、ドアを開けた。そこで立ち止まった。
「なんでバートレクスが、街を襲ってるんだよ……!」
歩いて半日はかかるはずの鉱山を食い尽くした、猛獣バートレクスがノーザンクロスの街の入口で睨み付けている。
それこそが、ビリーがつい先ほど、バージルに狙わせた賞金首に他ならなかった。
「くっ……、もう一度くらえっ!」
街の人々がうろたえる中、バージルがバートレクスに右手を伸ばし、激しい炎を宿していた。
ビリーにとって、これが初めて見るバージルの炎だ。
「バージル……!」
ビリーは、街の人々の間をかいくぐってバージルの後ろに行った。
だが、バージルまで10mほどに迫り、その後ろ姿がはっきりと見えた瞬間、ビリーの足が止まった。
「う゛っ……」
バージルの体が震え、苦しそうな声を上げている。
バージルが何度か炎を放ったものの、なかなかバートレクスには効かない様子だ。
そして、さらに燃え上がろうとするも、火力を考えればそれが限界であるかのように苦しんでいた。
それどころか、バージルのショルダーアーマーが赤く燃え、そこから炎が全身に広がっていく。
『水だ! バージルに水を!』
「どういうことだよ……」
より激しく燃え上がろうとバージルが、炎そのものをコントロールできなくなってしまった。
炎は、それを放ったはずのバージルの身を次々と焦がし、バージルの体は炎に呑まれていた。
そして、その場に倒れ込む。
「なっ……!」
街の人々が懸命に水を掛けるも、バージルが起き上がることはなかった。
バージルの首から下は、ほとんど肌の色の原型をとどめていなかった。
「バージルぅ……!」
ビリーは、バージルに向かって走り出そうとした。
だが、後ろから服を掴まれ、それ以上先に進むことは出来なかった。
「な、何をするんだ……!」
ビリーが振り向くと、そこにはノーザンクロス最大手の紹介屋の店長、ダスタのにやけた顔があった。
「いずれはそうなると思ってたぜ……。
どんな強敵にも怯まずに炎を放つ時点で、奴は炎に消える運命だったんだ」
「そんなことないよ……!
バージルは……、正義と平和を愛したバージルは、そんな失敗をするような人間なんかじゃない!」
「現実に、燃えちまったけどな……。
さぁ、バージルがいなくなった時点で、バージルをこんな目に遭わせたお前の紹介屋も終わりだな。
ただ一人大切にしていた人間を裏切った、今の気持ちはどうだ?
お前が大切にしなければ、バージルだって死ぬことはなかった」
ビリーは、ダスタに何も言い返すことが出来なかった。
いくら反論しても、バートレクスの依頼を渡したのはビリー自身であることを変えられなかった。
ビリーは、その場で崩れ落ちた。
「言う通り、僕のせいだよ……。
僕のせいで、バージルがこんな目に遭ってしまったんだから……」
悔しそうな声が何であるかも分からないまま、ビリーは悔し紛れの声をダスタに向けた。
嫌な予感が当たり、紹介屋として全てを失ってしまったビリーに、それ以外の言い訳をするだけの力もない。
「僕のせいで……か。
炎の戦士の生命を奪った責任は、そんな一言で取れるもんか!」
ダスタの足が、うずくまるビリーのすぐ前で砂埃を上げた。
顔を上げるまでもなく、ビリーの周りに複数の紹介屋が立ち、ビリーを見下しているのが分かった。
「みんな、こいつは最弱の紹介屋のくせに、今までバージルをかくまって、お金を渡していたとんでもない奴だ。
そして、こいつは今や、人殺しだ。
はっきりと認めた以上、誰もお前のところに紹介を渡さない……」
ようやく手にしたはずの、信頼関係。
数多くの強敵を倒してきた偉大な戦士と、それを支えてきた小さな紹介屋は、揃って笑いものにされてしまったのだった。
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⑤は元の世界(アレマ領)に戻ります。
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