第15話 バージルとの思い出①
「アリスがさっき、コロッセオを手に入れたわ」
「えっ……?」
召喚から戻ってきたトライブの言葉に、ソフィアは固まった。
「コロッセオって、トライブが剣術大会で戦うような場所でしょ。
それを、アリスが手に入れたってこと……?」
「そうね。
もともとは、アリスと敵対する勢力が運営していたみたいだけど……。
アリスはたぶんお金欲しさに、領主のものにしたと思うの」
「たぶん、どころかお金目当てで間違いない。
お金を手に入れたら、アリスはもっと自堕落になっていきそうな気がする。
それか、またお菓子食べ放題の生活をやっちゃうんじゃないかな……」
「否定はしないわ」
トライブは、ソフィアに苦笑いを浮かべた。
「オメガピース」の救護室の窓から突然強い日差しが差し込み、眠ったままのアリスを眩しく照らした。
「トライブ。
やっぱり永久転送って、本当にこのままこっちの世界で眠ったまま戻ってこないってことかな……」
トライブは、首を横に振った。
「その形の永久転送は、あまり信じたくない。
アリスはアリスで、向こうの世界でのびのびとやっているのに、戻れないと決まったらショックを受けそう」
「アリスの性格を考えれば、そうなるかも知れないけどね……」
その時、光がソフィアの背後に回り、眠るアリスに影を作った。
その目から見られる光景が、数分前ではとても考えられないものになっていたことを、ソフィアは悟った。
「ソフィア、何見つめてるの?」
「ジルが顔を見せたときから、アリスの姿がちょっとおかしいと思った。
で、今、単に外の光が眩しいからじゃないって気付いたの……。
嘘だと思うなら、私の隣に立って、外の光を隠してごらん」
「ホントに……?」
トライブは、言われるがまま、ソフィアの隣に立った。
これまではっきりと見えていた右腕の輪郭が、少しぼやけて見えた。
「ソフィア。それ、たぶん目の錯覚よ。
ずっとアリスの看病をしていたら、アリスの姿が焼き付くわけだし、そうでなくてもソフィアは霊感が……」
「霊感……。
でも、私の霊感は、結構当たることが多いって……、トライブが一番知ってるじゃない」
「まぁね」
やがて、トライブとソフィアの間から、アリスに向かって光が差し込み、ぼやけて見える右腕の輪郭をさらに見づらくしていった。
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「さ、早速コロッセオで王室騎士団をコキ使い、コキ使い!」
「アレマ・コロッセオ」から領主の館に戻った翌日から、アリスは紙の上にトライブやキングブレイジオンのイラストを描き、チラシ作りに取り組んでいた。
執務室のドアが開き、アリスの後ろからビリーが迫っていたことも気付かないまま、アリスはおまじないのように「コキ使い」という言葉を連呼していたのだった。
「アリス!」
「あいたたたた……。ビリー、急にほっぺたつねらないで下さいよーっ!」
アリスは、執務室の椅子を回してビリーに振り返ると、ビリーはさらにアリスの頬をつねるしぐさを見せた。
「なんでつねったか、分かるよね。アリス」
「コキ使~い、と言ってた声がビリーに耳障りだったからですか?」
「あの二人は、アレマを外敵から守るための戦士であって、本当はコロッセオでコキ使うような人たちじゃない」
アリスは、口を開けたまま閉じることができなかった。
「ロイヤルナイツ」という名前を、単にキングの名を持つ戦士と、クイーンの肩書きを持つ戦士がいたから、という単純な理由で決めてしまったアリスは、集めた二人が本来どういう目的だったかも忘れていたのだった。
「例えば、コロッセオに僕たちを倒して領土を乗っ取るような連中が現れれば、僕たちはあの二人を文句なしに呼ぶけどさ、そうじゃないときは、なるべく出さない方がいいじゃん……」
「でも……、あのキングやクイーンと戦いたいって思ってる戦士、たくさんいると思うんです。
私が考えていたのは、そういう戦士たちに対して、王室騎士団が無双するとか……」
「だから、無双はダメだって! 本来の目的が消えちゃうから!」
ついに、ビリーは執務室の机を強く叩き、アリスに訴えかけるような表情で覗き込んだ。
「こういう最強の戦士たちを手に入れたんだから、逆に僕たちは二人に頼らなくても強いんだってところ、見せたほうがいいんじゃないかな。つまり……」
「つまり……?」
「僕たちが生身で戦って、どれだけ勝てるかを競う大会をコロッセオで開くとか」
アリスが、固まった。
「あの……。ビリーも、私に影響されてバカになってしまいましたか……?」
「バカじゃないよ……。せっかくだからって提案しただけなのに……」
「私は、一応『オメガピース』で銃を使っていましたよ。
でも、ビリーはたしか紹介屋をしてるだけで、ビリーは自分で敵を倒したこと、ないんですよね」
ビリーの表情が凍り付くのが、アリスの目にはっきりと見えた。
「そりゃ、ないけどさ。
僕は、せっかくこういう場所が手に入ったんだから、僕も熱中できる大会に参加したいんだよ」
ビリーの声は、完全にやる気と自信に満ちていた。
今や、紅炎の王者に最も近い人間だけあって、その影響も受けているようなトーンの声だ。
「リアル・キングブレイジオンですね、今のビリーは……」
アリスは、そう言い残すとビリーから目を反らし、執務室の机から真っ白な紙を1枚取り出し、文字を書いた。
それを、ビリーの目の前に突き出した。
「うわ、やめろ! 近すぎるだろ……、って、え――――っ?」
体をのけぞって、何とか文字を読もうとしたビリーは、紙から1歩下がった瞬間に真っ青になった。
体は震えていた。
「はい、ビリーの一言でビリー・エバーラスト無双大会が決定しました!」
「僕が無双? じゃあ、アリスは?」
「ビリーがリアル・キングブレイジオンになったんだから、私は召喚に徹します。
もちろん、相手はコロッセオの入口で募集しますし、もしビリーが倒れても私がヒールかけますから」
「アリス、次の大会で敵になるんだか味方になるんだか、分からない存在だな……。
てか、アリスは召喚ってズルくね?」
ビリーが再びアリスを覗き込むと、アリスはビリーの腕を掴んで立ち上がった。
そして、ビリーを執務室のドアに向けて引っ張っていった。
「というわけで、ビリーが知ったらまずい大会になりますので、ビリーは関係者として立入禁止です」
「分かったけど、お願いだから、ワクワクするような大会を考えてね」
~~~~~~~~
「アレマ・コロッセオ」の次の大会のポスターが出来上がったのは、その日の夜だった。
アリスは、早々に部屋を追い出したビリーを部屋まで出迎えに行き、後ろ向きにしたポスターをまず見せた。
「これが、僕無双の大会のポスターだよね……?」
「そういうことです! 見ますか? 見ませんか?」
「そりゃ、見るに決まってるよ。僕の出場する大会なんだしさ」
「分かりました。というわけで、ポスターをオ~プンっ!」
アリスがポスターを大きく回した瞬間、ビリーがアリスを睨みつけた。
「僕だけ棒人間なの、なに……?」
ポスターの四隅で、これまで遭遇した相手をアリスが思い出して細かく描かれている。
アリスにしては丁寧なイラストであるにもかかわらず、その中心に立つビリーだけは、何故か丸と線だけで作られた棒人間だったのだ。
「ビリーは、領主の召使いだから、顔は描かなくても分かるでしょ。
てか、近くにいないからビリーの顔を描けなかったんです」
「もう4ヵ月も一緒にいるのに、なんで僕の顔を描けないんだよ……!」
ビリーが入れるツッコミに、アリスは確信犯的に笑っていた。
15話はビリーメインのお話です。
途中、過去の話が入ります。
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