第14話 アリスのコロッセオひとりじめ計画④
突然開催されることになったバトルだったが、グリーンオアシスは人で賑わっていた。
短い時間で作ったと思われる貼り紙も、コロッセオへの一本道にいくつか貼ってあった。
その貼り紙に出迎えられながら、アリスとビリーは進む。
「すごいですね……。
解放戦線さんが、私たちと勝負しようと言ってからたった3日なのに、こんなに人が集まりましたね」
「そりゃ、そうでしょ。
アレマ領の領主が、100戦無敗の超獣と戦うと聞いたら、それはみんな集まってくるよ」
グリーンオアシスの集落を通り抜ける二人の目には、過去2回訪れたときには二人とも気付かなかった住居がいくつか見えた。
コロッセオ見物が目当てなのかは分からないが、とりあえずは定住者がいるようだ。
「てか、本当にコロッセオをアリスのものにしたら、どうするつもりだよ。
運営してる人が近くに住んでないと、ちょっとまずいような気がするけど……」
「もしなんだったら、領主の館ごとここに引っ越しちゃいますか?」
「それはそれで、いろんな人に知らせないといけないから大変なんじゃないかな……。
僕たちが行けない分、解放戦線の息のかかった現地スタッフに任せるしかないかな……」
アレマ領にとって絶好のビジネスは、新たな問題を生み出す。
アリスも、ビリーの声だけで何となくそれを理解するのだった。
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ドン・ドン・ドン!
「お届け物に上がりましたーっ!」
再び詐欺まがいの呼び出し方で、アリスは「アレマ・コロッセオ」のドアを叩いた。
今回は、特に一般の挑戦者を受け付けていないため、受付が開放されていなかったのだ。
「やっぱり、そう来たか。バカ領主……。
とりあえず、今日は絶対に倒せない強敵を用意したから、せいぜい楽しんでおきな」
ドアを開けたのは、3日前のモヒカンの男性だった。
今回はアリスの腕を掴むわけではなく、先日と同様挑戦者の控室へと二人を先導していく。
「で、今日のルールを後で伝えると言ったはずだな」
モヒカンの男性の、耳にかすかに響くような靴音に合わせるように、低い声がアリスたちに向けて流れる。
アリスとビリーは、ほぼ同時に首を縦に振った。
「たしか、100回召喚して負けたことのない成虫でしたっけ」
「成虫……、って、昆虫を召喚するわけじゃない。
体長10mはあるブラッドフェンリルと戦ってもらう……」
「フェンリルって……、どこかの神話に出てきそうな生き物じゃないですか。
そういうのを、解放戦線さんは操れるのですね」
「操ってどこが悪いか?
こっちは、アレマの秩序を保つために、あの手この手で強き者を召喚していくからな」
モヒカンの男性の声が、笑っている。
心の中で笑いが止まらないようだ。
「解放戦線さん、壊れましたね。
どこか具合でも悪くなったんですか?」
「いや……、このルールを聞いたときに、バカ領主たちがどんな顔になるか楽しみでしょうがないからな」
そこで、モヒカンの男性が二人に振り向いた。
表情は笑っていた。
「まさか、不公平なルールとか、ハンデ戦とかですか……?」
「いや、公平は公平だ。
黒髪の召使いも連れてきた時点で、戦うのは女剣士と、炎の魔術師ということになるな……。
間違いないか」
「間違いないです」
アリスが短く答えると、モヒカンの男性がにやつきながらうなずいた。
「そっちが2体出すのなら、こっちも2体召喚する。
つまり、絶対に勝てない相手を2体倒してもらう。
どうだ? これが、このコロッセオにおける平等、公平、フェアってもんだ!」
「たしかに、公平ですね……」
突然告げられたルールに、アリスが息を飲み込む。
対戦が決まった時、向こうが「1体」と指定してこなかったことを、アリスは今更になって思い出した。
それでも、それを飲み込んだアリスは、モヒカンの男性の横まで小走りに進んで、見上げるような目で告げる。
「念のため、確認です。
1対1が2回ですか? 2対2が1回ですか?」
「好きな方でいい。こちらは、2対1にさえならなければいいが」
「分かりました」
アリスは、モヒカンの男性から少しずつ離れ、ビリーの横に戻る。
「アリス。
どうしてそんなこと聞いたんだよ」
「いや、この勝負……、絶対に不利なのはクイーンが同時に2体を相手にしなきゃいけなくなることです。
逆に有利なのは……、もうビリーは分かりますね? テストです」
「こんなところでテストをやって、どうするんだよ」
そう言いながらも、ビリーは納得したようにうなずいた。
アリスのやりたいことを、なるべくでも理解するかのように。
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「それでは、時間ですので、アリス様とビリー様は、バトルフィールドにお入りください」
控室に入ってきた係員の声で、向かい合わせに座っていたアリスとビリーは立ち上がり、腕を交差させた。
「アリスとの領主生活4ヵ月目、初めて一緒にバトルすることになるね」
「はい! 私も、今日は特別な気持ちでバトルに臨みます!
勝てば、私たちは大金持ちになるかも知れません!」
二人は、係員に案内され、バトル会場に出た。
キングブレイジオンを召喚する以前に、今回解放戦線側が召喚する超獣のサイズが10mクラスとなるため、客席を覆う透明なガラスが、先日のバトルよりもはるかに高い位置まで突き上がっていた。
その外には、数日前に告知されたとは思えないほど、多数の観客がバトルを見つめている。
「緊張しますね」
「アリス。僕たち、大丈夫だから」
アリスとビリーが同時にバトルフィールドに出た瞬間、反対側の入口から黒いスーツを着た男性が2人同時に出てくる。
そして、解放戦線の側が二人揃って手を空に伸ばし、何かしら詠唱を始めた。
「私たちも、もう呼んでいいのかも知れませんね」
アリスたちは、二人同時に空に手を伸ばし、召喚の体勢に入った。
「不可能を斬り裂く風を呼び、未来へと導く光を纏う、誇り高き女剣士よ。
我が大地の命運を、いまその腕に託す。
その魂が許すなら、我が声に応え、凛々しくも勇ましき一撃を下せ。
そして、この地にもたらせ! 穢れなき、正義の輝きを!」
「その体に纏うは、正義を貫く一途な情熱。
その体が解き放つは、邪悪を焼き尽くす勇ましき炎。
熱き心を授かりし紅炎の王者よ、いま汝の力を大地が欲するとき。
いま、永久に燃える汝の生命力で、この地を絶望から解き放て!」
こちらに二つ、あちらに二つの生命が、召喚に挑む手の中に集まり出す。
アリスたちがそれをはっきりと感じたとき、二人がお互いの顔を見てうなずいた。
「降臨! 剣の女王、トライブ・ランスロット!」
「降臨! キングブレイジオン!」
二人それぞれの目の前に青白い光が現れ、領主に従う戦士たちのシルエットが浮かび上がる。
湧き上がるような力を、アリスたちは早くも感じ始めていた。
バトルフィールドの向こう側でも、巨大なシルエットが2体浮かび上がっているが、こちら側に浮かんだ戦士たちは早くもそれを見つめているようだった。
「初めての2対2……。
なんか、すごいバトルになりそう……」
震え上がるアリスの前で、この世界に降り立ったトライブとキングブレイジオンが並ぶ。
アリスがトライブの横に、ビリーがキングブレイジオンの横に立った。
それから、アリスとビリーは、その姿をはっきりと見せたブラッドフェンリルたちに聞こえるように、二人同時に叫んだ。
「「アレマ領を守る、正義の力!
王室騎士団、ここに見参っ!」」
「てか、アリスの作戦、二人に伝わっていないんだよな……」
ビリーが小声で呟いたとき、コロッセオのアナウンスがバトルの開始を告げた。
次回、13年ぶり(たぶん)に複数キャラ同時の戦闘シーンを書きました。
応援よろしくお願いします!




