第14話 アリスのコロッセオひとりじめ計画③
「さすがに僕、この展開は読んでなかったよ……。
アリスの脳内がそこまでバカだったなんてね……」
「この展開って……、どの展開ですか?
というか、何分前に私が言った言葉ですか?」
グリーンオアシスから一旦領主の館に戻る二人の足取りは、ビリーだけが重かった。
これから夜遅くまで歩き続けることが決まっている中で、アリスが「ネオ・アレマ解放戦線」と勝手に決めてしまった取引を、未だにビリーは信じることが出来ないようだ。
「だから……、向こうが負けたらコロッセオを僕たちのものにするってこと。
たしかに、領主の命令は絶対だけど、あんな楽しい施設を占領しちゃうんでしょ」
「ビリー、分かってないですね。
私たち、というか私は、お菓子のため、そしてお菓子を買うためのお金を稼ぎたいんです」
「ということは、あのコロッセオをアリスと僕で運営して、それでお客さんを呼んでってこと……?
それでできるの?」
「スタッフはそのままです。
私たちに手出しできず、それでもコロッセオのために働き続けなきゃいけない。
向こうにとっては、最大の屈辱だと思いませんか?」
アリスは、笑いながらビリーに告げ、それから手だけでお金を数えるジェスチャーを見せた。
「分かった分かった。
稼いだお金、全部アリスのお腹に行くとかしなきゃいいけどさ……」
ビリーは、むすっとした表情のまま歩き続けた。
夕闇が迫る中、二人は新しい「アレマ・コロッセオ」に対して別々のビジョンを抱いているかのようだった。
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夜遅くに領主の館に着いたアリスたちは、着いて1時間もしないうちにベッドに入った。
久しぶりに長い時間歩き通したアリスは、ベッドに入った瞬間に寝てしまったが、外が明るくなり始めた頃、突然の轟音がアリスの耳に鳴り響いた。
ガガガガガガガガ……!
「ん??????」
音と地響きが、領主の館を襲う。
2階で寝ているため、地上の振動が余計に耳に入って、アリスは寝起きの目をこするしかなかった。
そして、次の瞬間に下からドンと突き上げられる衝撃を感じ、その勢いで片足がベッドから出てしまった。
「何ですか、も――っ!」
時計を見ると、まだ寝てから5時間ぐらいしか経っていない。
体はもう少し寝ていたいと訴えているにもかかわらず、再び始まった振動がそれを許してくれない。
隣の部屋で寝ているビリーも、未だかつて領主の館で受けたことのない振動に起きてしまったようだ。
「これはもう、何が起きてるか見るしかない……!」
アリスは、生まれたての光がカーテンの隙間から差し込もうとする東の窓に向かい、身を乗り出した。
そこで、息を飲み込んだ。
「うわあああああああ! 領主の館の前で工事が始まってるううううううう!」
先日、バルゲートを出ようとする疾風神が勝手に掘り進めた、アレマ領の領主の館とバルゲートとを結ぶトンネルに、アスファルトを埋め込んでいる。
でこぼこになっている道を平坦にするために、領主の館の前まで重機がやって来て、道を作っているのだった。
そこに、ビリーがドアをノックした。
外がうるさいため、アリスはかすかに聞き取ることしかできなかったが、ゆっくりとドアを開けた。
ビリーの腕は、1階を向いていた。
「さっきから、鐘が鳴ってる。お客さんだよ」
「お客さん……。分かりました、すっぴんで行きます!」
アリスは、すっぴんどころかパジャマのままで階段を駆け下り、最後3段まで降りたところでその足を止めた。
「これはこれは、アレマ領の領主さま。お金をお支払いに参りました」
「あ……、はい……」
バルゲート兵のトップに近い存在であるかのような、黒いスーツを着た男性が玄関に立っていた。
かたや、アリスは寝起きで、すっぴんで、パジャマ。
こう見えても、バルゲートの属領となった場所のトップだ。
「このお金、とりあえず迷惑料ということで……」
そう言うと、バルゲートからの使者はアリスに封筒を渡し、そのまま玄関から外に出て行った。
出て行くとき、トンネルの工事をしている作業員たちに「領主の館はこちら」と言わんばかりのジェスチャーをするのが、アリスの目に見えた。
「工事は嫌だけど、私の提案が形になってる……。
そして、灰のお金が、もう来たんだ!」
アリスは、封筒を開けずに2階に上がる。
持った感じは、札束が50枚くらい入っているような重さだった。
疾風神の襲来の後に見積もられた灰の額は、たしか10万リアだったはずだ。
「さぁ、朝一番にお金が入ってきました……!
灰の代金、10万リアです……! ジャカジャン!」
アリスは、封筒に手を突っ込んで、中にあるもの全てを引っ張った。
その瞬間、アリスは背筋が凍るような文字を見てしまった。
「これ、お札じゃないです……。
お札です……」
「な、なんだって……?」
ビリーが、思わずアリスの手元を覗き込む。
輪ゴムで止められていた紙の束の1枚目にあったのは、怪しい文字が書き連なったお札だった。
それどころか、2枚目、3枚目も同じ文字が書かれたお札があった。
「これ……、どういうこと……?」
中に入っているはずのお金が、一向に出てこない。
アリスは、震えることすら忘れ、紙の束を持ったままその場に座り込んだ。
「約束が違うじゃん……」
「どれどれ……」
ビリーは、アリスが中身を見る気を失ってしまった束を手に持って、上から1枚ずつ見始めた。
そして、お札だったものをズボンのポケットにしまう。
「これ、紙のすかしとか、本物のお金に似せて作ってるよ……。
お札とお札、完全に区別がつかないって……」
「漢字にしたら、ルビ振らないと全く同じですからね……」
ビリーは、アリスの落ち込んだ声でのツッコミに苦笑いした。
それから、11枚目から再び数え始めた。
「あれ……、これ……?」
ビリーの手が止まった。
ここまで、全て同じ文字が描かれたお札しか見てこなかっただけに、これもまたお札なのかと流してしまいかけたとき、ポケットにしまいかけた紙をビリーが顔の前に戻す。
「お金だ……」
「お金入ってましたか! あぁ、よかった……。騙されるところでした……」
「まぁ、お金と言って渡してる時点で、十分僕たち騙されてるけどさ……」
「まぁ、そう言われちゃ、そうなりますよね……」
アリスは、ビリーの手元から紙の束を半分受け取って、1枚1枚丁寧に数え始めた。
だが、アリスが感じた希望の光も空しく、アリスの取った紙の中から本物のお札は出てこなかった。
「はい、こっち1枚もないです……」
「僕は、トータルで100リア紙幣7枚……。700リアか……」
ビリーも、残り何十枚ものお札に囲まれ、ため息しか出てこなかった。
アリスとビリーをあざ笑うかのように、再び舗装工事の音が領主の館を襲う。
「というか、アリスさ。これ、灰のお金と言って渡された?」
「……だったような気がします」
「バルゲートからお金をもらっただけで、途中で思い込んだとかないよね。
僕だって、10万リアと聞いたのは覚えてるよ」
「あ……。もしかしたら思い込みかも知れませんね……」
アリスは、ビリーに言われて初めて「迷惑料かも知れない」と気付いた。
「ほら、やっぱりね。
お代は、たぶんもっと先になるんじゃないかな。
お札の束にお札を入れるバルゲートのことだから、だいぶ後になると思うよ。
気を取り直してさ、僕たちはコロッセオに集中しよう」
ビリーがうなずくと、アリスもさらに大きくうなずいた。
「とにかく、明後日が勝負ですね!」
二人の目は既に、明後日戦うであろうコロッセオからの最強の刺客に向けられていた。
「おさつ」と「おふだ」が同じ漢字という、前代未聞のルビ合戦になってすみません。
応援よろしくお願いします。




