第14話 アリスのコロッセオひとりじめ計画②
アリスとビリーの体は、その日の夕方近くにはグリーンオアシスにある「アレマ・コロッセオ」の前にあった。
先日、コロッセオでのバトルに参加した時に入ったガラス戸を、アリスは懸命に叩く。
ドン・ドン・ドン!
「お届け物に上がりましたーっ!」
「バカっ! 横にチャイムあるのに、そんな呼び出し方ないだろ!」
アリスが、ビリーのツッコミに舌を出しながら振り返ると、ちょうど入口のドアが開いた。
アリスの目と、モヒカンの男性の目が一直線になる。
「武器の差し入れかと思ったら、この前出場した領主じゃないか」
「あ……、はい……。ちょっと話があって、ここに……」
「どういう話だ? まさか、ここを摘発しようなんてことは考えてないよなぁ」
「あっ……」
いきなり先制攻撃を食らった形になったアリスは、狂ったように首をビリーに回した。
ビリーも、いきなり振られても困る様子しか見せられない。
「何も言えないってことは、領主としてこの無許可営業を取り締まろうってか。
残念だが、前の領主から営業許可証は取ってるからな」
モヒカンの男性の手が、ドアのすぐ脇に掲げられた額縁を指差す。
アリスのいる場所からもその字がはっきり読めるほど、この場所での営業を許可する旨の言葉が書いてある。
「ここは、そんな簡単に追い出せる場所じゃないよ、アリス……」
ビリーが、アリスに向けて静かな声で伝えるも、アリスはビリーの口元を右手で押さえ、男性を睨みつける。
「あの……、アレマ領は私の治める国です。
『ネオ・アレマ解放戦線』の好き勝手にはさせたくないのです。
だから、その資金源になっているこの場所をですね……」
「あー、そこまで知られてるのか。いい度胸だ。こっち来い!」
「……うわっ!」
モヒカンの男性の後ろに、もう一人体格のいい茶髪の男性の姿が見えたかと思えば、その男性の腕が突然アリスに伸びてきて、アリスの腕を力強く掴んだ。
ぽっちゃりとした体ゆえの太い腕など何のその、茶髪の男性がアリスを力ずくで引き寄せる。
「やめてくださいっ! 離してっ!」
「やだね。俺たちの秘密をそこまで知ってる時点で、何かしらの罰は受けてもらわなきゃならない」
アリスがじたばたと手足を動かすが、モヒカンの男性がアリスの左腕を掴み、ちょうどアリスをカゴのように持ち上げる。
二人の男性はどちらともビリーを掴もうとはしないが、ビリーも二人に手を出す勇気はなく、心配そうな表情でアリスの後を追っていくことしかできなかった。
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「はい、とりあえず、ここが領主の処刑場所!
どうして処刑されるかは、分かるよね」
「えっと……、詐欺っぽい演出でコロッセオの人を呼んでしまったからですか?」
「このコロッセオと、『ネオ・アレマ解放戦線』との関係を掴んでるからだ!
この、どこまでバカなのか分からないバカ領主!」
冗談すら通じない場だと分かったのか、アリスはその場で震え上がった。
ここはどうやら、事務室の奥のようで、アリスとビリーはパイプ椅子に座らされている。
アリスの両腕を掴んだ二人の他にも、何人もの人間がアリスたちを取り囲んでおり、先日コロッセオで案内係をしていた男性など、アリスの見覚えのある人間も一斉にアリスを睨みつけていた。
「ごめんなさい……」
「ごめんで済むと思うか?
俺たちの作戦を、この前からさんざん邪魔してくれた落とし前を、どうつけてくれるんだ? あ?」
じゃんけん大会はともかく、それ以後のシーショアやミッドハンドでは、アリスの召喚した戦士が解放戦線の作戦を止めていることに間違いなかった。
だが、召喚もできずビリーと二人だけになっている現状では、何をすることもできなかった。
そこに、ビリーが落ち着いた声で相手に尋ねる。
「いま、俺たちの作戦、っていう言葉を使いませんでしたか?」
「使ったけど、それがいったいどうしたって言うんだ?」
モヒカンの男性がビリーを睨みつけるが、ビリーは決して怯むことなく、まるでアリスにツッコミを入れる時のように、体をやや前に出す。
「つまり、『ネオ・アレマ解放戦線』と関係があるどころか、解放戦線そのものっていうことでいいんですね」
「しまった……。その通りだ」
だが、今度はアリスの体がビリーの言葉で立ち止まった。
「でも、『ネオ・アレマ解放戦線』の皆さんって、3人じゃなかったでしたっけ。
前に、ジェイドさんが3戦士の一人だって言ってたじゃないですか」
――我らの計画を邪魔する者を討伐する、3戦士の一人だ。
すると、モヒカンの男性がアリスに顔を近づけ、目を大きく開いてアリスの顔を覗き込んだ。
「俺たちの正義を貫く同志が3人だけだと思ったのか?
たしかに精鋭部隊は3人だが、解放戦線に賛同し、そこに属した人間は俺たちのように数多くいる!」
「だから、そうなっちゃダメなんですよ。
アレマ領の平和を守り、時としてバルゲートに立ち向かっていかなきゃいけないのは、私たちなんです!」
「まぁ、お前らもいい戦士を召喚出来てるが、今のところ2人だけだろ。
女剣士と、炎の魔術師。どっちも計画を邪魔した存在だがな」
モヒカンの男性の言葉を合図に、アリスたちを取り囲んでいた人が全員にやついた表情でアリスを見つめる。
アリスは、その視線に向けて、机をドンと叩いた。
「……腕を上げれば、私たちだってもっと召喚できます!」
「そうか……。
よっぽど、俺たちの邪魔をする自信があるってことだな……!
もしなんだったら、解放戦線のメンバー一丸となって、勝負に付き合ってやろうじゃないか!」
モヒカンの男性がアリスにそう告げた瞬間、アリスの口元がかすかに動き、笑った。
「はい、その言葉待ってましたーっ!」
「急に、何を思いついたんだ。
また、噂に聞くような、バカ領主のバカな企てか?」
「はい、バカな企てと言われてもおかしくないことをしようとしてます!
せっかくコロッセオがあるんですから、私たち王室騎士団とコロッセオで戦いませんか?」
「何を言い出すんだ……」
モヒカンの男性をはじめとした何人もの表情が、アリスの一言で曇り始める。
「ここは、正々堂々と勝負をするための場所です。
ここで働く以上は、そのことを忘れてはいけませんよね」
「オイオイオイ、アリス……。
こんな時に、真面目なことをしゃべるなって……」
ビリーですらアリスの提案に引く中で、アリスはさらに畳みかける。
「そして、こんな楽しいバトルパラダイス、私たちだって楽しみたいんです。
だから、もしこんな私たちに負けたら、ここを領主営のコロッセオにしますからね!」
「言ったなぁ……!」
モヒカンの男性がアリスに体を近づけようとするものの、震えて何もできない。
「どうします……?
こんなバカ領主のために、コロッセオを開きますか?」
アリスの腕を最初に掴んだ、大会のいい茶髪の男性が、モヒカンの男性に小声で確認する。
モヒカンの男性は静かにうなずき、それからアリスに人差し指を向けた。
「なら、どちらかを選べ。
選択肢A、俺たち解放戦線のトップに立つ3戦士と一斉に戦う。
選択肢B、俺たち解放戦線が召喚し、100戦以上戦い、一度も負けたことのない『闇の超獣』と戦うか」
「はい、これに決めました!
選択肢C、私たちの召喚した剣士や魔術師と、生身の皆さんが戦う!」
「バカっ!」
話がまとまりかけてから、突然バカに戻ってしまったアリスを、ビリーは丸い目で見つめた。
そして、アリスの前に体を傾けた。
「3戦士を倒したら、解放戦線そのものが終わっちゃうから、領主の本心としては、たぶんBかな」
「分かった。
なら、3日後の夕方、またここに来い。
詳しいルールは、そこで伝える」
アリスたちの「処刑」は、一旦保留となった。
コロッセオのドアを出る時、ビリーがコロッセオの事務員に深々と頭を下げたのは、言うまでもなかった。
これ、悪いのはどっちなんでしょうかね(書いていて不安になった)
こんなアリスでも、応援よろしくお願いします!




