第14話 アリスのコロッセオひとりじめ計画①
「さぁ、王室騎士団でどこに行きましょうか!
森にします? 荒野にします?
そ・れ・と・も……?」
「いてて……。アリス、僕に寄り添ってこないでよ!」
二人の「強い戦士」を手に入れたアレマ領主に、もはや敵などいないと言わんばかりのアリスが、執務室のソファで隣同士に座っていたビリーに突然寄り添った。
「えー、だって私たちも、ロイヤルナイツの一員ですよ。召喚術師として」
「それは分かるけど……、アリスはそもそも領主だからね。
僕は、召使い兼キングブレイジオンの担当! それだけ」
「担当……。なんか、出版社みたいですね」
「……出版社とは違うけどさ」
ビリーは、ため息をついてからアリスを元の姿勢に戻した。
アリスは、つまらなそうな声で、さらに言葉を続ける。
「せっかくロイヤルナイツ作ったんだから、バトルしに行きません?
また、この前のコロッセオでもいいんですけど、できればアレマ領の外とか……。
あ、そうだ! お金を持って来いと言ってたロッジ食品を占領しちゃうとか」
「それはダメ!
あの社長、お金を持って来いとは言ってないだろ。
それに、そもそも問題を起こしたのは社長と話した後、工員に絡まれる前なんだから……」
「え――っ……。
占領したら、ノーギャラでお菓子工場が手に入るのに……」
アリスは、ビリーに顔を突き出して、じっと目を見つめた。
それでもビリーは、アリスのわがままに折れる気配を見せない。
「あのさ、アリス。
僕たちは、正義のヒーローだからね。
他の人たちが守っているものを勝手に奪うとか、そんなことは、まず僕が許さないから。
それに、あまり僕を怒らせると、召喚禁止、アンド、アリス一人で戦ってもらうことにするからね」
「はぁい……」
そこまで言われてしまった以上、アリスは次の作戦を一から組み立てなければならなかった。
「どうしよう……。
このままじゃ、運動不足で太っちゃう……」
アリスは、思い立ったように執務室から出て、玄関まで続く階段を駆け足で下り始めた。
それから、「1、2、3、4……!」と声を上げながら階段を上り始めた。
「おっ! アリス、やることを見つけたみたいだね」
「いや……、飽きるまでの期間限定イベントでーす!」
ビリーの苦笑いを、アリスは耳でスルーする。
階段の上り下りは、早くも3往復目に入ろうとしていた。
そこでアリスは、玄関から光が差し込むような気配と、新鮮な野菜がありそうな匂いを感じた。
「もしかして……! 久しぶりにグロサリさんがやって来たとか……!」
アリスは、階段の途中で玄関に振り返った。
その時、振り返ったはずみでアリスの左足が、階段から浮いてしまった。
「あ……」
ドタドタドタドタ……、ドスン!
「領主さん、大丈夫?」
グロサリが、持ってきた野菜を玄関に置いて、階段の下で尻餅をついたアリスのところに駆け寄った。
ほぼ同時に、ビリーが階段の上から駆けてくる音もアリスの耳に響いたが、アリスはグロサリの目だけを見て、小さくうなずいた。
「すいません……。私、こういうの日常茶飯事なんです……。
いつもなんか、ドジをやっちゃうんで……」
「やっちゃったことはしょうがない。
立てる? 痛かったら、しばらく座ってていいけど」
「立ちます……。
野菜貰えるのに、座ったままじゃ申し訳ないです」
アリスは、グロサリに手を差し伸べられて、ゆっくりと立ち上がった。
グロサリに引っ張られなかった左腕に少し痛みはあるものの、二本足で立つ分には特に問題なさそうだ。
「あとケガとか……、頭とかぶつけてない?
もしケガしてたら、絆創膏を持ってるわよ……」
「本当に、大丈夫ですって。ありがとうございます……」
そう言うと、アリスは自力で玄関の前に置かれた袋に向かっていった。
3袋あるということが分かる前に、ビリーも一緒になって袋に向かう。
「今日は、久しぶりにイオリ草を持ってきたのと、あと、夏が近いからナスを持ってきたのよ。
ナスはいろいろと使えるから、100個ぐらいすぐ食べられると思う」
「ありがとうございます……。
なんかいつも、私が何も作れないのに、頂いてばかりで……」
「いいのいいの。
領主さんは、いろんなところで頑張ってるって聞くし、そんな情報が入ってくるだけで嬉しくなるから」
グロサリが、そっと笑いながらアリスに顔を近づける。
アリスは、まだ何か持っているかも知れないと思いながら、グロサリから視線を反らさない。
「例えば……、この前のコロッセオね……。
領主さんがあれだけの女剣士出せるって、噂になってるわよ」
「えっ、グロサリさんはあの『アレマ・コロッセオ』、見に行かれたんですか」
「私は行ってないけど、私のところに野菜を買いに来てくれる人が領主さんのこと、伝えてくれたの」
「そんなことまで伝わるんですね……」
グロサリの家は、プランテラの街に近いものの、周囲には全く集落がない。
その家にすら情報が回っていることに、アリスは違和感を覚えずにいられなかった。
だが、そこまで話し終えたグロサリの表情が、突然真面目になった。
「でもねぇ……。
あのコロッセオ、ちょっとよくない噂が立ってるから、領主さんがどうして行ったのか分からないの」
「よくない噂って……、グロサリさん、それ何ですか?」
「てっきり、その噂をかぎつけて領主さんが行ったと思ったの。
ということは、その噂、まだ伝わってないのね……」
念のため、同じくコロッセオで勝負に挑んだビリーにも確かめるが、首を横に振るだけだった。
アリスが顔の向きをグロサリに戻した時、グロサリの口が小さく開いた。
「あの『アレマ・コロッセオ』、どうも入場料が『ネオ・アレマ解放戦線』の資金源になってるみたいなのよ……」
アリスとビリーは、お互いの顔を見合わせた。
そして、アリスが重苦しく唸った。
「えー……。そんなこと、全然思わなかった……。
解放戦線の人だっていなかったし……、普通の人がコロッセオを運営してるかと思ったのに……」
「そういうことなの。
だから、解放戦線の一端を担いでしまったんじゃないかと、心配できたというのもあるわ」
グロサリが、下をやや下を向く。
その表情を見つめながら、アリスは声を掛けた。
「大丈夫です。私は、解放戦線に染まってないですし……。
それに、アレマの秩序を守るって言いながら悪さするなんて許せないです」
「あら、そう……。それならよかった」
グロサリは、アリスたちに普段通りの微笑みを見せて、頭を下げた。
それから「また来るわね」と言葉を残して、領主の館を後にした。
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「どうしよう……。あのコロッセオ、解放戦線が絡んでた……」
アリスは震えながら、もう一度ビリーの表情を伺った。
ビリーは、深く考えるしぐさを浮かべているようだ。
「アリスさ……。たぶん、予兆はあったよ。
トライブと戦ったホワイトソーディアン、やたらトライブのことを意識してただろ……?
絶対、解放戦線から名前聞いてるよ」
「私も、ものすごく違和感を覚えました」
「でしょ……。
だから、『ネオ・アレマ解放戦線』の直接のメンバーじゃなくても、その息がかかった召喚術師って可能性があると思うんだけど、違う……?」
「そうかも知れないです……。
でも、それだったらビリーの相手と同じように、召喚する人も中に入りませんか?」
アリスは、頭を撫でながらビリーに尋ねた。
「あえてバレないように、召喚した人は出なかったんじゃないかな……」
ビリーが静かに告げると、アリスは深くうなずいた。
「とにかく、『ネオ・アレマ解放戦線』にお金が行っちゃうのは、私たちとしてもまずいです!
だから、もう一度コロッセオに行きましょう。
それでそのコロッセオを……、何でもありません!」
「……?」
ビリーは、アリスの提案の最後だけが引っかかったものの、単なる言い間違いだと捉えた。
だがこの時、アリスの中では、早くも次のビジネスプランが出来上がっていたのだった。
なんつータイトルだ、と思わないで下さい。
アリス、とんでもないこと考えてますので。
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