第13話 コロッセオに舞い降りた二人の戦士④
――さぁ、やってきたのは召喚術使いの少女にして、アレマ領主!
今宵はどんな剣士を召喚するのでしょうか!
Battle17、アリス・ガーデンス vs ホワイトソーディアン!
「ソーディアン……。
やっぱり、女剣士と言ったから、対戦相手も剣士になるんだ……」
半径100mはゆうにあるようなバトルフィールドに入り、ひとりぼっちになったアリスが、かすかに呟く。
普段アリスの横にいるビリーが、初めていないバトルになる。
周囲からは数多くの声援が湧き上がっているが、アナウンスはその声援をさらに高めるほど力強く、これから本当に一戦が始まる雰囲気をアリスにも伝えていた。
「さぁ……、こんなかわいい少女が、私に跪く瞬間が、迫ってきたようだな……」
反対側の入口から、白の甲冑を纏り、がっしりとした体格の男性が一歩ずつアリスに近づいた。
先が鋭く、真っ白に塗られている剣を持っている。
あれだけトライブのバトルを見たアリスでも、この武器自体を初めて見たのだった。
「私は、負けないです。
強敵にたくさん打ち勝ってきた、女剣士がいますから……」
「女剣士? もしかして、『オメガピース』のソードマスター、トライブか?」
「当たりです。もう96年前の話なのに、どうして知ってるんですか……?」
「さぁな……。
女剣士のイメージを大きく変え、史上最強の女剣士とも言われたことは、俺たちの時代にもよく知られている……」
ホワイトソーディアンが、首を小さく横に振る。
アリスは、ホワイトソーディアンも誰かに召喚されたのではないかと、心の中で悟った。
「さぁ、出せ。
私は、トライブと直接戦えることが何より幸せで、それを打ち負かす自信もあるからな」
「自信がある……」
アリスは、ホワイトソーディアンの鋭い声に、息を飲み込んだ。
そして、空に右手を伸ばした。
「不可能を斬り裂く風を呼び、未来へと導く光を纏う、誇り高き女剣士よ。
我が大地の命運を、いまその腕に託す。
その魂が許すなら、我が声に応え、凛々しくも勇ましき一撃を下せ。
そして、この地にもたらせ! 穢れなき、正義の輝きを!」
アリスの手に、少しずつ力が集まってくるような感触が伝わってくる。
領土のピンチではなく、単に強い剣士と戦うだけなのだが、そのほうがトライブにとってより戦闘意欲が高まるのも、また事実だった。
その意思をはっきりと感じながら、アリスは最後の祈りを叫んだ。
「降臨! 剣の女王、トライブ・ランスロット!」
「ほぅ、来たか。私の憧れの女剣士……!」
アリスの目の前に青白い光が集まり始め、その中に長身のトライブがシルエットで映り始めると、ホワイトソーディアンが低い声で笑った。
手に持っている純白の剣が、コロッセオの照明を受けてかすかに輝く。
それを睨み付けるかのような目で、トライブが光の中から現れた。
「敵は、この剣士ね」
トライブの分かりきったような確認に、アリスは小さくうなずく。
「ここは、闘技場のようね。
目の前に強そうな剣士もいるし、戦い甲斐があるわ」
すると、ホワイトソーディアンがトライブに真っ直ぐ剣を向けながら、口を開く。
「よく強そうだと言ってくれたな、トライブ。
最強の女剣士なりの、紳士的な対応なこと……。
ただ、その力は、私に屈することになるけどな」
「やってみなきゃ分からないわ」
トライブは、アリスが何度も聞いてきたような強い口調で、挑発を跳ね返す。
アルフェイオスを勢いよく手に取り、剣先を相手に一直線に向けた。
そこに、ホワイトソーディアンの声が響いた。
「さぁ、来い!」
その声に誘われるように、トライブがホワイトソーディアンに向かって走り出す。
アルフェイオスを正面で立たせると、相手も真っ直ぐ向けていた剣を垂直に立たせて、重心を前に傾けた。
キィン、という鋭い音が二人の剣士の間に鳴り響いた。
「ぐっ……!」
押し込んだのは、トライブのほうだ。
ホワイトソーディアンも、手前に傾けられた剣を戻そうと力を入れるが、右足を後ろに引きずらせることしかできなかった。
そして、間髪入れることなく、トライブがホワイトソーディアンの剣を下から叩きつけ、横に流していく。
「くそっ……!」
ホワイトソーディアンが、すぐさまアルフェイオスに向かって剣を振るものの、その軌跡をはっきりと読んだトライブが、力強く剣を振り下ろす。
「はああああっ!」
雄叫びにも近いようなトライブのシャウトが、コロッセオに響き渡る。
女王のパワーが、ホワイトソーディアンの剣を土の上に叩き落としていった。
――勝者、アリス・ガーデンス!
クイーンの名に恥じない圧倒ぶりを、女剣士が見せました!
こんなにも早く勝敗が決したと告げられたとき、武器を失ったホワイトソーディアンが膝から崩れ落ち、膝と両手を大地につけた。
それから顔だけを上げ、力が遠く及ばなかったトライブを見つめた。
「トライブ……。女なのに強いという噂は本当だったな……」
「えぇ……。
押されても私に食らいつこうとしてただけ、あなたとはまだ戦い甲斐があったわ」
「だな……。今はまだ、力の差歴然だけどな……」
そう言うと、ホワイトソーディアンは立ち上がり、トライブに握手を求めた。
トライブは、アルフェイオスを鞘に収め、同じ剣士としてそっと手を出した。
「あなたのその気力、いずれ私を苦しめることになりそうね」
ホワイトソーディアンが剣を取って出口へと引き返すと、トライブはようやくアリスに向き直った。
「ソードマスター、シビれました……。
なんか、クイーン・オブ・ソードって、そのまま言いたいくらい強かったです……」
「まだまだよ。私の死闘を、アリスは覚えてるでしょ」
「まぁ、覚えてますけど……」
アリスは、照れくさそうな声でトライブに告げた。
ほぼ同時に、正面から整備員が出て、アリスに向かって出口の方角をジェスチャーされたので、二人は一緒に歩き始めた。
出口は、入口とは90度離れた場所にあるようだ。
「あの剣士、結構自信あったから、私も最初から飛ばしていっただけよ。
もし向こうにもパワーがあったら、今の勝負で私の死闘が見られたかも知れないわ」
トライブの死闘。
それは、アリスの目の前でも何度も繰り広げられた、力と力、意地と意地のバトルだ。
戦う前こそ美しささえにじみ出しているトライブが、見るからにボロボロになり、しかしそれでも相手に打ち勝っていく。
それでこそ、トライブが本当の意味で「剣の女王」と呼べる瞬間だと、アリスは知らず知らずに感じていたのだった。
「あの、ソードマスター……。
私……、この世界でソードマスターのこと……、『クイーン』って言っていいですか……?」
「この世界だと、『オメガピース』にいる時のような階級がないから?」
「まぁ、それもあるんですけど……。
実は、連れのビリーが、これからたぶん『キング』を召喚するので……」
「なんか、偶然ね。
その戦士もまた、私と同じくらいの実力を持っているわけでしょ」
アリスが後ろを振り向くと、既に場内整備が終わっており、ビリーが入口に姿を見せた。
「そうです!
私のお姉ちゃんと同じで、炎を使うんです。
キングブレイジオンって言うんですけどね……」
アリスがトライブを召喚してから、既に6分ほどの時間が経過している。
領主のもう一人の「仲間」キングブレイジオンのバトルがいつ始まるか、アリスは気が気でならなかった。
そもそも、ビリーがそれを呼べるかどうかも含めて。
アリスの目の前で、ビリーと対戦相手がゆっくりと中央に迫ってきた。
たぶん、今までで一番圧倒したバトルじゃないかな、と作者的には思っています。
日曜日は、ついにビリーがあのイケメン炎戦士を呼び出せる……?
応援よろしくお願いします!




