第13話 コロッセオに舞い降りた二人の戦士③
特に砂漠地帯ではない場所に、突然現れた広い草原、グリーンオアシス。
人々が生活していると言っても、せいぜい数十人ほどで、みな自給自足の生活をしているようだ。
そんな小さな集落に建つ、草と草の間から異様に目立つ建物に、アリスたちは吸い込まれていく。
「たぶん、あれがコロッセオです。めちゃめちゃ広いです。
こんな建物、ビリーは見たことあります?」
「あったかなぁ……。
アリスが領主になってから、こっち方面には一度も行ったことがないからな……」
「骨組みとか作ってたのも見ませんでしたか……?」
「分からないなぁ……。
でも、あんな建物、アレマ領の技術だと簡単に作れるわけないのに……」
ビリーが考え始めるのを見て、アリスは一つの仮説を思いついた。
「もしかして、大工さんを召喚で連れてきたんじゃないですかね」
「あぁ、なるほどね……。
僕たちがやろうとしてたことを、工事業者は既にやっていたと……。
材料も、カバンなどに入れれば大丈夫だものね」
「そういうことです。
やっぱりこの世の中、召喚でいろいろ悪いことを考える人、多いですよね!」
アリスは笑いながら「ね、ビリー」と言い、その顔を覗き込んだ。
ビリーは、後ろに体を反らし、首を横に振った。
「そ、そんな悪いこと考えるの、アリスだけだからね……!
たぶん、あっちは召喚術をうまく使える人がいると思うんだ!」
そうこうしているうちに、アリスたちの足元は土でできた大地から、突然アスファルトの床に変わった。
いよいよ、ここからが「アレマ・コロッセオ」の敷地だ。
今夜開催される、と紙に書いてあるものの、まだ日の高いうちから人々がコロッセオの客席に向かってなだれ込んでいく。
グリーンオアシスで生活している何十倍もの人がこの場所に集い、バトルを楽しみにしているようだ。
「さ、着きましたよ! 私の案をパクったコロッセオに!」
「だから、パクったことになってないじゃん……!」
アリスが、ビリーのツッコミに苦笑いを浮かべると、前から帽子にスーツ姿の男性がやって来た。
「これはこれは、領主様ですね。
今回は視察ですか? それとも、参戦ですか?」
その男性は帽子を取り、丁寧に頭を下げた。
名前も告げていないのに、見た目で領主と判断されたようだ。
他の人々には聞いておらず、アリスにだけ声を掛けたことに、逆にアリスは戸惑った。
「えっと……。ちょっと……、気になってきたんです。
たまたま、風に運ばれてきたチラシも見たんで」
すると、目の前の男性は「ほぅ」と感心したように呟き、小さく両手を広げてアリスをまじまじと見つめた。
「お客様は、二人とも素晴らしい召喚術を使えるようなオーラを漂わせています!
どうでしょう! 今日は、この素敵な一夜、召喚バトルにお力をお貸しいただけませんでしょうか」
「ちょっと待ってください……?
これって、私が召喚術で、コロッセオの敵を持ってくるとかそういう感じですか?」
目の前の男性の表情が、一瞬強張った。
嫌な予感に気付いたのか、少なくともアリスを一目置いたような表情で見つめた。
そこに、ビリーが小声でアリスに告げた。
「アリスさ……。
今の、遠回しに『アリスがヒーロー使ってます』と言ったようなものだぞ」
「あっ……」
アリスは、そこまで考えていなかった。
普通におもてなしされたにもかかわらず、アリスの一言で話をこじらせてしまったことに気付いた。
そこで、アリスはビリーに小さくうなずいて、決断した。
「私、参戦します。女剣士で」
「そうこなくちゃ。
何と言っても、いまコロッセオには、モンスターばかり揃ってしまったから、それと戦う戦士が欲しいんだ」
「なるほど。だから、出場者募集とかあったんですね」
男性は、ここでようやく帽子をかぶり、アリスとビリーを案内した。
小さな文字で「出場者受付」と書かれた看板がいたるところに立っており、男性がそれに従って二人を連れて行く。
「アリス、やっぱり戦いたいんだ」
「勿論ですよ。だって、私が欲しいのは……」
ビリーに聞こえるか聞こえないかの声でアリスがささやくと、ビリーの表情が曇った。
「それはさ、実際に戦った戦士にあげたほうがいいと思う。
僕たちがファイトマネーを持っていっちゃうの、ダメだと思うけど……」
「せめて、手数料は取りましょうよ。
ファイトマネーの99%は、私たちが取るようにします!」
「あのさ……。バカ!」
1%しかトライブの手元に入ってこないと分かって、アリスが提案したことは、既にビリーに見透かされているのだった。
そもそも、道中でたまたま見かけた紙にはファイトマネーの話は一切なかったが。
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アリスとビリーは、ガラス戸を入った先にある参加者受付に通されて、そこで受付担当から簡単なエントリーシートを渡された。
「では、お二人様。ご参加ということで……」
「えっ……?」
これには、ビリーが真っ先に戸惑った。
話の成り行きで、いつの間にかビリーも見物側ではなく参加者として、このコロッセオで戦うことになってしまったからだ。
「いや……、あのー……、戦うのはこのぽっちゃり系の女の子でして……」
すると、アリスがビリーの表情をじっと見つめる。
「ビリーも戦うんです。
私たちは、二人で一つの存在ですから!」
「二人で一つ……? 今更になって言うなよ」
ビリーは、もう逃げられないと悟ったのか、自分の名前を書いた。
さらに、その横にあった「召喚しますか? はい/いいえ」の項目で、「はい」に〇をつけた。
「アリス様は、女剣士を召喚されるということで構いませんね?
でしたら、マッチメイクも武器攻撃をするモンスターと組ませていただきます」
「はいっ! なんか楽しみです!」
アリスは、自信たっぷりの声で受付担当に答えた。
対して、ビリーは、未だに召喚する存在を決めかねている様子だった。
「ビリー様は、召喚する存在を迷ってらっしゃいますね」
「はい……。ちょっと、出せるか出せないか分からないのを出そうとしてまして……」
アリスは、ビリーの小さな声を聞き逃さなかった。
その「出せるか出せないか分からない」存在が何であるかは、アリスにはおおよそ想像がついた。
「せっかく、自由に戦える場所なんだから、出しましょうよ。
私がクイーン出すんですから、ビリーもキングを出せばいいじゃないですか」
「そ……、そうだね……」
アリスの一押しで、ビリーは召喚する存在に「魔術を使うヒーロー」と書いた。
それを見て、受付担当は一言、小さな声でビリーに告げた。
「もし召喚に失敗された場合には、ビリー様が直接戦っていただくことになります」
ビリーにプレッシャーがかかる一言を、アリスも気にせざるを得なかった。
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「バトルの順番、アリスが最後から2番目、僕が最後みたい」
今宵「アレマ・コロッセオ」に挑戦する18名の戦士が、一斉に舞台袖に集められ、そこで順番が告げられる。
この時点では、対戦相手の名前が告げられないようだ。
「ビリー。これ、いろいろな大会を渡り歩いてきたようなマッチョとかいますよ……」
「マッチョもそうだし、鋭い剣を持ってる人もいるね……。
何の武器も持ってないように見えるのは、僕たちだけかもしれない……」
ビリーは、そこまで言った直後に表情が曇った。
「というか、アリス。
どうしていろんな大会に出ている戦士なんかよりも、全くの初心者の僕たちのほうが後の方に戦うの?」
「先着順じゃないですか?
それとも……、バトル慣れをしてない私たちに対する配慮なのかも知れませんよ?」
「ならいいんだけどさ……」
ビリーの表情が浮かない。
このコロッセオそのものに何か不思議が隠されている、とビリーが疑っているようにさえアリスには見えた。
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興行は順調に進み、アリスたちのいる控室から一人ずつ消えていく。
そして、ついに17番目、アリスの出番だ。
「ビリー、どういう敵が出るか分からないけど、行ってきます」
「幸運を祈るよ」
アリスは、ビリーの声に押されるようにバトルフィールドに足を踏み出した。
「剣の女王」が、その力を見せつけると信じて。
次回、女剣士トライブがコロッセオでその力を見せつける!
応援よろしくお願いします!




