第13話 コロッセオに舞い降りた二人の戦士②
アリスが、トライブとキングブレイジオンのヒーローショーを思いついてから数日が経った。
「久しぶりだね、領土の巡回でも行くの……。
たぶん、アリスが領主になって初めてなんじゃない?」
「あー、言われてみればそうかも知れないです。
私、人から言われないと何も動かないような気がするんで……」
「まぁ、いろんなことから逃げてる僕もそうだけどさ……」
領主生活1期目のアリスは、イオリ草ビジネスや10万リア紙幣ビジネスでもなければ、特段領主の館が見えないところに足を運ばなかった。
だが、領民が食料や衣料など、様々なものを領主の館に持ってくるのに領主が全く動かないのは申し訳ないと、アリスが朝になって突然思いついたのだった。
「で、久しぶりのビリーと二人のラブラブタイムなので、お仕事のお話をし~ましょ!」
アリスが、やや背の高いビリーの体に寄り添う。
ビリーは軽く体を震わせながらも、アリスを優しく見下ろした。
「なんで、ラブラブタイムで仕事の話なんだよ……。
まぁ、僕たち二人は、どんな時もこのアレマ領のことを考えなきゃいけない立場だけどさ」
「ホントそれなんですよねぇ……。
私たちには、プライベートなんかないのかも知れないです……」
アリスは、大きく背伸びをして、アレマ領の新鮮な空気を大きく吸い込んだ。
それから、ビリーの顔色を伺った。
「で、ビリーはこの前思いついたヒーローショーのこと、何か考えましたか?」
「あれ、ヒーローは呼ぶけど、ショーはボツになったんじゃなくて……?」
「まだ私、イベント関係は諦めてないですよー!
普通のバトルにしちゃったら、領主にお金が入って来なくなります」
「そこなんだよなぁ……。
僕たち、操る戦士が結構強いから、逆に危なくて人に見せられないというか……」
ビリーがため息をつきながら、アリスに残念そうな口調で話す。
ビリーの中では、特にそれ以上の進展はなかったようだ。
そこに、アリスが何かを思い出したように、ビリーをギラギラした目で見つめる。
「バトル料ってどうですか?」
「バトル料……?
なんか、アリスのことだから、またおかしなシステムを考えてるんじゃないでしょうね」
「えっ、これ普通にいいと思うんですけど……?
だって、普通、人はケンカしちゃダメって教わるじゃないですか。
それでもケンカとかバトルするんだったら、仕掛けてきた方がお金を払うと」
「ほう……」
アリスの説明を、ビリーは真剣な表情を見せて聞いている。
「ソードマスターと戦いたければ、バトル料として1回100リアとか。
キングブレイジオンと戦いたければ、バトル料として1回300リアとか、そんな感じでお金を取るんです」
「それは、いい案だね。
でも、私たちを倒したいと言ってる相手が、バトルにお金を払うかな……」
ビリーが、アリスの言葉が終わるなりツッコミを入れる。
アリスは、目を丸くしてビリーの目を見つめる。
「金で解決するんだったら、バトルっていらないと思う……」
「あー……、ビリーの言う通りかもしれませんね……」
またボツだ。そうアリスは心の中で呟いた。
アリスの単純な思い付きが、再び暗礁に乗り上げていく。
だが、ほぼ同時にアリスは正面から吹きつけてくる強い風を感じた。
「砂埃が強い……! 砂が目に入ってくるんだけど……!」
「なんで、こんな天気の悪い日に外に出ようとしたんですか……、もうーっ!」
「アリスが、今日から領土の巡回に行こうっていったんじゃーん!」
ビリーの苦し紛れの声が、風に乗って遠くに消えていったとき、風をよけるために前かがみになっていたアリスが、ようやく顔を上げた。
その瞬間、アリスの視界が突然見えなくなった。
「なんか、顔にまとわりついてます……!
ビリー、もしかしてパイでもぶつけたんですか?」
「こんなところに、パイなんか持ってくるかよ!
そもそも、パイを顔にぶつけるの、かなり古典的なギャグじゃないの?」
アリスは、ビリーの声が聞こえる方に顔だけ向け、そこで顔についたものを振り払った。
「ビリー、これ、なんか紙のようですね……」
「紙……。
そりゃ、強風で飛んでくることもあるけど、このあたりに街なんかないだろ……」
近場にあるミッドハンドの街を除けば、領主の館から歩いて1時間ほどのどころに何もない。
風向きを考えても、ミッドハンドからやって来た紙でないことは明らかだった。
とりあえず、アリスは飛んできた紙を広げて、目を近づけた。
そこには何も書いていなかったが、そこでビリーに突っ込まれる。
「アリス、それはたぶん裏面だと思う……」
「じゃあ、もしかして私の鼻息が付いたほうが表なんですね……」
アリスは、紙を裏返した。
その1秒後、アリスは目に飛び込んできた文字に息を飲み込んだ。
「これ……、『アレマ・コロッセオ』って書いてます……。
今夜かな……? バトルをするので、出場者募集しています、って……」
「ええええ? アレマ・コロッセオ?
ひょっとして、アリスのメモが勝手に飛んできたとかじゃないの?」
「ビリー、これ、私が書いた覚えがないし、筆跡も絶対私じゃないですよ」
アリスは、風で飛んでいかないように、紙の上と下を持ちながらビリーに見せた。
風で細かく揺れる紙は見づらいようで、ビリーは目を近づける。
「あー……。
これは、逆に僕たちが参加することになるバトルじゃなんじゃない……?」
アリスは、ビリーに言われるなり、もう一度その紙を見た。
そして、唸った。
「これ……、パクリですね。私たちの案の」
「それはない!
そもそも、僕たちの『アレマ・コロッセオ』はボツになったんだから……!」
「でも、『私たちも正義のヒーローを取り揃えてお待ちしています』って書いてますよ。
つまり、向こうもヒーローと戦わせたい相手を待ってるんですよ!」
アリスは、得意げになってビリーを説得しようとする。
ビリーが「は、はぁ」としか返事が出来ない中、アリスはさらに言葉を続ける。
「それに、領主の考えは、テレパシーで分かりませんか?
だって、こんなおバカさんが領主をやってるアレマ領ですよ。
アレマ領のために、私が何を考えているか、領民はちゃんと分かるはずです!」
ビリーが小さく口を開けたまま、何も言えない。
凍り付いた空気を感じたのか、アリスも口を開いた。
「バカ。
人間の考えがテレパシーで分かるわけないだろ」
「えー? 忖度っていう素晴らしい言葉があるのに、それを無視するんですかー?」
「いや、アリスは領主であって、それ以上でもそれ以下でもない。分かるな」
「えー、それだけですか?
領主の他に、食いしん坊、ぽっちゃり、デブ、メタボ。あと、女剣士の召喚をしてます。アリスですっ!」
いつの間にか自己紹介になっていることも気付かず、アリスは決め顔をビリーに見せた。
ビリーは、手を左右に振って「違う違う」と言いたい素振りを見せた。
「とりあえず、僕たちのビジネスの参考になるかも知れないから、行ってみてもいいんじゃない?」
「もし、私たちの召喚するヒーローと戦いたいとか言ったら、私たちも召喚しましょう!」
「それ、いいかも知れない!」
アリスがビリーの提案に即乗ると、アリスは「アレマ・コロッセオ」の場所を地図で確かめた。
グリーンオアシスという草原地帯で、ここから北に歩くこと2時間ほどで着けるようだ。
「地図を見た感じ、意外と近いです。
そんな近いところで、バトルができるなんて、思ってもいませんでした!」
アリスは、時折スキップをしながら歩き続けた。
だが、アリスもビリーも、その紙に書かれていた一番大事なことを見落としていたのだった。
やったね、アリス!
バトルの場所が見つかったよ!?
応援よろしくお願いします!




