第13話 コロッセオに舞い降りた二人の戦士①
「さて、またお金儲けを始めましょう」
アリスの領主生活も2期目に突入し、ビリーとともに過ごす3ヵ月が、再び始まった。
灰の買い取り代金は、まだバルゲートから入金されないので、アリスはお菓子などを買うお金をどうするか考えなければならなかった。
「お金儲けって、また10万リア紙幣を作るんじゃないだろうね……」
「あれはもう、完全にパチモンだから、やめておきます。
証拠隠滅のために消せる仕様にしましたけど、それがバルゲートにバレたら今度こそ怒られちゃいます」
「まぁね……。
……それでさ、アリス。アリス自身をもっと有名にしない?」
「え? 領主っていう肩書きだけで、十分有名じゃない?
しかも、アレマ領じゃなくて、アレマ領主を有名にするってことですか?」
アリスは腕を組んで、ビリーを見つめた。
「そう。アリスはバカだけで有名になっちゃったじゃん。
領民は失礼だからそんな言わないけど、バカという認識で広まっているのは間違いないんじゃないかな」
「あぁ、間違いないですね……」
1期目は、じゃんけん大会で子供を「誘拐」したり、飛んでいったお金を取ろうと水路に落ちて「全裸」になったりと、バルゲートにこそ「アリスが領主でないと困る」と言われたものの、今やアリスの人間的な評価は最悪と言っても過言ではなかった。
「だからこそ、アリスを別の意味で有名にしなきゃいけないと思ったんだ。
次の領主替えまで、まだ3ヵ月あるだろ。
その3ヵ月で、アリスがバカ以外の別の肩書きを手に入れれば、アレマ領の雰囲気もだいぶ変わってくるよ」
「バカ以外の、私の肩書き……。
例えば、なんでも召喚できる、召喚のエキスパートとか……?」
ビリーが一瞬うなずきかけたが、「ちょっと違うんだよな」と言いたそうな目をしており、表情は暗かった。
「アリスは、僕を召喚したし、この前も動物を召喚したけど、持ってる魔力自体はそこまで高くないと思う。
自分の魔力に自信があるなら、この前の領主替えの日も、動物たちと一緒にトライブも召喚してたはず」
「あぁ……、たしかにソードマスターは、いつでも呼べるような人じゃないですものね……」
今のところ、正確には計っていないが、アリスがトライブを召喚できるのは10分に満たない。
トライブを本物の「女王」としてアレマ領につなぎとどめることは、現実的に不可能だった。
そこまで気付いたアリスは、ビリーに体を近づけ、目を覗き込んだ。
「ソードマスターを目立たせる方法なら、ありますよ!」
「アリス、なんか思いついたの?
こんなすぐ考えるってことは、嫌な予感しかしないけど……」
「私がそんな手っ取り早いこと考えると思いますか?」
「いや、アリスだから考えるだろ」
アリスは、両手の拳を丸め、悔しそうな声で唸りながらビリーに顔を突き出した。
「私、ちゃんと考えましたよー!
ヒーローショーをやって、人を集めるんです!」
「ヒーローショー?
そもそもトライブだとヒロインショーにならない?」
「ソードマスターは、女っぽくないのでヒーローですよー!
バトルさせたら男顔負けって、ビリーも見たじゃないですか」
「分かった分かった。
で、トライブをショーの中で戦わせるってことなんだよね?」
アリスは、ビリーが戸惑う中で、机から紙を取り出し、上の方に大きく「アレマ・コロッセオ」と書いた。
「コロッセ」あたりまで書いたところで、ビリーが息を飲み込んだ。
「げっ……! ショーというか、マジモノのバトルじゃん!」
「うちのソードマスター、こういう真剣勝負になると燃えますから。
むしろ、ショーと分かってて、台本がある中で戦わせられるの、性格的に嫌がります」
「で、トライブの対戦相手はどうやって持ってくるんだよ。
まさか、召喚とか……?」
アリスが、ビリーの質問に苦笑いを浮かべる。
「私は、ソードマスターを呼ぶのに精一杯ですし、
ビリーもキングブレイジオンを呼ぶのに精一杯ですよね。
だから、外から敵を募集します!
あなたの街にお住まいの人間、動物、モンスター、ノミ、シラミ、ゴ○ブリ、何でも構いません!」
アリスはその紙の上に、太いペンで「領主の呼ぶヒーローとの対戦相手募集中!」と書き入れた。
「ノミ、シラミ、ゴキ○リを呼んでどうすんだよ……!
というか、今しれっと『キングブレイジオン』って言わなかったか?」
「もう決まりです。
ソードマスターだけだったら、倒すのが難しい敵もやって来ますよ?」
「それはそうだけど……、僕がまだ何も言ってないのに、僕がキングブレイジオンを呼ぶ前提なんだ」
「領主のビジネスとして始める以上、ビリーだって仕事したほうがいいじゃないですか。
物理攻撃のクイーンと、魔術攻撃のキング。二人並べば怖いものなしですよ!」
ビリーの表情から、戸惑いと迷いの表情が消えない。
そこに、アリスが追い打ちをかけるように告げる。
「それにキングブレイジオンは、ピンチの時に現れるヒーローだと思いませんか?
ヒーローショーに一番ぴったりな戦士だと思いますし、見た人はみなヒーローだと思いますよ……」
「そうだけどさ……、見世物のために召喚するの、まずくない?」
「過去のトラウマから逃げたくないって言ってましたよね、ビリー?
いまキングブレイジオンを呼べるの、たぶんビリーしかいないと思います。
魔力の面でも、それに思い入れの面でも」
ビリーが呆然と立ち尽くし、アリスにうつろな目を見せた。
自信たっぷりに説明を続けるアリスとは雲泥の差だった。
「……分かった。
でも、それなら街の人から募集するとかはやめてさ……。
アレマ領がピンチになるような相手とか呼んだほうがよくないか?」
「私たちが戦う敵は、ほぼそれですよ。
見た目が弱そうな敵だったら、来た人同士で戦って帰ってもらいますから。
じゃないと、召喚される側も嫌がると思います」
「どう考えても、見た目弱いものが書いてあるけどな。
てか、もし強敵が出てくるなら、フレイム・ヴァリアントが客席に当たるとか、コロッセオが燃えるとか、そういうリスクを考えないといけない気がするんだ……」
「あ……」
アリスは、この期に及んでキングブレイジオンのバトル中に領主の館の中に引っ込んでいたことを思い出した。
間近でバトルを見られないのであれば、せっかく作ったコロッセオも、遠くてバトルが見えないなど、不満の嵐に包まれたハコモノになってしまう。
「分かりました! じゃあ、動画配信サービスで!」
ビリーは、アリスの思い付きに何も答えなかった。
文明の進んだ「オメガピース」の世界にはあっても、ここにそういうものは存在しなかった。
「ダメかぁ……。
人を呼べないショーなんて、ショーじゃないです……」
「まぁ、そもそもハコモノを一から作らなきゃいけない時点で終わってるけどさ。
それに、アリスはヒーローショーを見たいのと、キングブレイジオンに会いたい、の二つだけで動いたよね」
「あぁ……、バレてしまいました……」
アリスが頭を撫でると、ビリーがアリスの撫でる手に被せるように手を乗せた。
「あ、ビリー、重いです!」
「アリスは体重があるから大丈夫だよ。
少しぽっちゃりしてるのも、お菓子食べ過ぎました、で説明つくところがまた面白い……」
ビリーのツッコミにアリスは薄笑いを浮かべた。
「たとえ実現できなそうな夢でも、アリスはいろいろ考えていると思うよ。
ヒーローショーの方向性は間違ってないと思うよ」
「ありがとうございます!」
ビリーに言われるなり、アリスはもう一度頭を撫でた。
それから、一度「アレマ・コロッセオ」の案を書いた紙を裏返して、その上に肘をついた。
「でも、どうやったらバトルでお金儲けができるんだろう……」
今回から第2期!
サブタイトルも変わりましたが、「ロイヤルナイツ」の意味は13話のラストにて。
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