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追放兵士、領主になる  作者: セフィ
第1期 自分の方が偉いので元上司の最強女剣士を召喚することにしました
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第12話 領主替えを台無しにする それがアリス⑤

「さぁ、領主と中佐の腕相撲! はじめ!」


 アリスは、ウェリス中佐の腕を食い止めるように力を入れる。

 対するウェリス中佐も、食べ物によって肉付けされたアリスの体重を打ち破るように、懸命に力を入れる。

 お互い、全く動かない。


 この勝負、アリスが勝っても負けてもアレマからバルゲートにモノが行くとは言え、勝負を告げられた以上、アリスは負けるわけにいかなかった。


「強い……」


 「オメガピース」では、剣士ではなく銃使いだったこともあり、アリスは体重こそあっても腕や手をそれほど鍛えていない。

 対するウェリス中佐は、普段どういった武器を扱っているかは分からないものの、腕に力を入れることになれている様子だ。


 だが、30秒経過したとき、突然ウェリス中佐の腕から力が抜けていくように、アリスには感じられた。


「よし、いけるっ!」


 机の上で手が軽く触れる音がして、勝負がついた。

 アリスの勝ちだ。……が。


「さぁ、お約束のフラミンゴをもらっていくとしよう。

 気付いてないと思うが……、この勝負、領主が勝てば絶望的な苦しみを味わうことになるんだがな……」


「な、なんでですか……?

 たしかに、このかわいい動物たちと会えなくなるのは辛いですけど……、それ以上の絶望って……」


 そこでようやく、ビリーがウェリス中佐の言葉の意味に気付いた。

 アリスの肩を何度か叩いて、「まずいよまずいよ」と小声で伝えたのだった。


「何がまずいんですか……。この召喚したフラミンゴたちがいなくなるだけですよ?」


「あのさ。

 アリスのもとを離れたら、どうやってこのフラミンゴたちを元の場所に連れ戻すんだよ」


 ビリーの低い声がアリスの耳を貫いたとき、ウェリス中佐も一緒になって笑った。

 アリスは呆然と立ち尽くすしかなかった。



「そうだああああああ!

 手放しちゃったら、私、ずっと精神力を使い続けることになるんだー……」


 既に手元から離れているのに、そのまま召喚し続けなければならない。

 バルゲートのことだから、アレマの珍しい動物と宣伝して、末永く飼い回すのだろう。

 そうなれば、たとえ今の世界から召喚したとは言え、アリスの精神力はどんどん消耗されていくのだ。


 そこで、アリスはウェリス中佐に訴えるような表情を見せた。


「あの……、ウェリス中佐さん、いいですか……?」


「なんだ、領主。決着がついたのに、ルール変更なんてないからな」


「ルール変更なんて、考えてないです!

 でも、今の勝負はどう考えても自分から負けに行ったような気がするんです。

 私も考えなかった結末に、わざと持って行くように……!」


「だが、これはこっちの作戦だ。

 バカ領主のことだから、まんまとその作戦に乗ってくると思ったがな……。

 な、バカ?」


 アリスは、両手の拳を握りしめてウェリス中佐に体を突き出した。



「私は、バカです。でも、決して卑怯者ではないです。

 それだけは、分かって下さい」



 アリスは重くうなずきながらウェリス中佐に告げる。

 そして、もうすぐアリスの手から離れることが決まったフラミンゴを追いかけた。


「おい、領主! 何をする!

 まだ話は終わってないだろ!」


 アリスは、バルゲート兵たちの言葉に振り向くことなく、フラミンゴに「おすわり!」と叫んだ。

 そして、フラミンゴが動かなくなると「3……、2……、1……」と声を掛け、消したのだった。


「アリス、あんないいこと言ったのに、自分から卑怯な真似に走ってなくない?」


「いーの、いーの! ビリーも私の性格分かりますよね?

 卑怯なことをされたら、卑怯なことをネタにするって」


「ネタに……って、アリス見ろよ! バルゲート兵たち、あっけに取られてるぞ?」


 アリスは、ビリーに言われて初めて、野生動物を待つバルゲート兵を見つめた。

 それでもアリスは、野生動物を追いかける手を全く止めない。

 まるで、モグラ叩きでもやっているかのように、応接室の中を逃げ続ける野生動物を捕まえては、元の世界に戻していくのだった。


「オイオイ……、バルゲートによこす前に、全部なくそうと言うんじゃ……」


「全部はなくなりませんよー?」


 アリスは、ツッコミを入れたバルゲート兵を見つめながら、最後に残ったガチョウ2体の前に立ち、そこにバルゲート兵たちを呼んだ。

 ウェリス中佐は、奇襲とも言えるアリスの召喚解除にすっかり呆れている様子だった。


「さて、このAとB、そっくりさんのガチョウがいます。

 なんと、どちらかが召喚で連れてきたもの、片方は昨日の夜に領主の館の裏から連れてきたものです。

 正解すれば、ガチョウを1頭差し上げます!」


「分かった、分かった! もうガチョウだけもらえればいいよ!」


「分かりました」


 アリスは、2頭のガチョウの中間に立ち、左手と右手を同時に開いた。


「どうぞ、正解だと思う方を選んで下さい」


 アリスは、どこに用意してあったのか、AとBの札をウェリス中佐に渡し、にやけながらバルゲート兵たちを見つめる。

 そこに、ビリーが耳打ちでアリスに告げた。


「アリス。

 ここまで召喚したものを消しておいて、最後に召喚で持ってきたものを渡しちゃったら意味ないだろ?」


 アリスは、ビリーだけに向けて、首を横に振った。


「私の言った言葉、よーく思い出して下さい。

 私がよくやるような、卑怯な手段の一種です」


 ビリーが「あ……」と言いたそうな表情を見せると、アリスはバルゲート兵たちに「そこまでー!」と告げる。


「さ、AとB、どちらを選びますか?」


 アリスは、3人に一歩ずつ近づき、答えを迫る。

 3人は「どうする?」とだけ相談しつつ、一歩引き下がることなく、Aの札を出した。


「Aが……、裏庭にいそうな、ちょっと汚れたダチョウぽく見える!」


「よし、Aですね! じゃあ、答えを発表します!」


 ここでアリスは、迷うことなく2頭のガチョウに手を向けた。

 そして、「3……、2……、1……」と告げ、そのうちの1頭を元の世界に戻した。

 消えたのは、Aだった。


「はい、正解はA! Aが召喚で連れてきた野生動物でしたー!」



「???????」


 3人は、Aが消えた瞬間から10秒間に起きたことを、全く飲み込めていない様子だ。

 アリスは、相手があっけに取られている中で、残ったガチョウを引き渡す。

 だが、そこにウェリス中佐がかみついた。


「ちょっと待った。

 こっちは、Aが裏庭にいると告げたはずだが、Aが召喚で連れてきたのだろう。

 召喚してないダチョウをもらう理由が分からないのだが……」


「はい……。私は、この問題、正解が召喚したものとは何も言ってないですよ。

 単に、正解したらダチョウを1頭差し上げます、と」


 アリスは、バルゲート兵にダチョウを引き渡すと、応接室のドアを勢いよく開き、その出口で頭を下げた。


「さ、もう、このアレマ領がいかにどうしようもない場所であり、

 そこの領主がいかにバカに満ちあふれているか、分かって頂けましたか?」


「よーく分かりました……。バカすぎて疲れたが……」


 3人のバルゲート兵は、肩を落としながら、先日疾風神が貫通させたバルゲートへのトンネルに入った。


「あの……、灰のお買い上げ代金、お待ちしてますので!」


 ウェリス中佐は、重くうなずくだけだった。



~~~~~~~~



 アリスが思っていた以上にあっけなかった領主替えが終わった。

 新しい領主に変わることなく、今までと同じアレマ領が始まることになってから、1時間が経つ。

 アリスとビリーは、領主の館の裏庭にあるベンチに並んで座っていた。


「アリスは、本当の意味でバカなんだよな。

 いろいろ考えてバカをやっているというか……」


「そうですよ! じゃなきゃ、人生楽しくないですもの!」


 アリスはその腕で、ビリーの肩を掴んだ。


「だから、ビリーもバカやりません?

 キングブレイジオンを召喚するという、過去のトラウマを消し去るくらいのバカを」


「キ……、キングブレイジオンの召喚はバカじゃないよ!

 僕の使命と言うなら分かるけど、バカはないし、バカなのはバージルのトラウマを引っ張っている僕なのかも知れない……」


 ビリーが静かにうなずくと、アリスは空に手を伸ばした。


「じゃあ、これからも私たちで、素敵なアレマ領を召喚しましょう! ねっ」


「うん! ……って、何かおかしくない?」


「あはは、気付いちゃいましたか!」



 領主の館からは、この日も笑い声が絶えなかった。

 だが、永久転送という運命を背負ったアリスとビリーの「時計の針」は、それとは関係なく回っていたのだった。

はい、これで第1期終了です。

無事に領主替えを乗り切ったアリスには、この後第2期が待っています。お楽しみに。


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