第12話 領主替えを台無しにする それがアリス④
アリスは、応接室のドアを勢いよく開ける。
すると、そこから「ガーガー」「ギャーギャー」という鳴き声が次々と外に漏れだし、中からは野生の生き物のにおいが漂ってくる。
「これ、本当に応接室か?」
「なんか、鼻がそう感じないんだが……、もしかしてあのバカの策略か……?」
アリスは、バルゲートからの客の声を、聴いているしぐさを見せずに聞き取り、心の中でにやけた。
そして、中に通すと、たちまちバルゲート兵たちが息を飲み込んだ。
「ガチョウとか……、フラミンゴとか……?」
「はい、よく当たりました。花丸っと」
得意げになって話すアリスでさえも不気味に思えたのか、バルゲート兵たちが身を後ろに傾ける。
特に、アリスが何者かも知らなかったほうのバルゲート兵は、舌を出しながら近づいてくる野生生物たちを見続けて、失神してしまった。
「ど、ど……、どうして室内でそんなもの飼ってるんだ!」
「飼ってませんよー。
こんな素敵な日のために、私がほとんど精神力を使わずに召喚したんです!」
「ちょっと待った、アリス!」
ビリーが、3人の来客の横を通ってアリスの前に立つ。
ビリーの目は、フラミンゴとアリスを交互で見つつも、表情から「何が起きてるんだ」と訴えそうな様子だ。
「僕も知らないぞ、応接室がこんなことになってるなんて……!」
「そりゃ、私が領主になってから一度も使ってない応接室を、
今日この日のために改造するのは領主の勝手です」
「真顔で言うな。
応接室というのは、大事な大事なお客さんを出迎えるための、すごーく真面目な部屋っていうのは分かるよな」
「それは、どこかの偉い会社のトップが考えたような一般常識です。
でも、私アリスの常識だと、応接室は嘔吐と排泄と失礼の略ですから……!」
ビリーは、呆れてものが言えない様子だ。
「もう勝手にしろ」と突っぱねることもできず、一人首を下げて、「アリスって奴は」と呟いた。
そこに、バルゲート兵の一人がアリスの前に出る。
「いま、召喚って言ってたが、どうやって召喚したんだ、この動物たちを」
「あの、知ってる人もいるかも知れませんが、私は召喚の魔術が使えます。
今の時代から呼び出せば、ほとんど魔力は使いませんから、近くの湖に行って名前を付けて、今朝呼びました」
アリスが勝ち誇ったように告げると、バルゲート兵は疲れ切ったようにため息をついた。
「ウェリス中佐、どうします。
これ、噂以上に常識のない領主ですよ……?」
「やばっ、いま中佐と言った……」
スーツの男性がウェリス中佐だと分かったアリスは、ビリーの耳元に口を近づけた。
「アリス……、ここでささやいても、たぶん向こうに筒抜けだと思うけど……」
「別に聞こえてもいいんです。
相手が中佐でちょっと強いかも知れないんですよ。
だから、ビリーに私の女剣士を呼んでもらうかも知れないって、伝えたかったんです」
「ぼ……、僕がトライブを呼ぶの……?
たぶん、僕だと部外者になるんじゃない?」
ビリーは、普段と同じトーンで言ってしまった。
それは、バルゲートからの来客にもはっきりと聞こえたのだった。
「もしかして、もう一人呼ぼうという気か? あの女剣士を」
「えぇ、あの女剣士ですよ……。バルゲアの入口で戦った」
「で、それは何の目的で呼ぶんだ?」
「それはですねぇ……」
アリスは、バルゲート兵たちに向けて腕を大きく広げた。
それから、半月ほど前に領主替えを告げたバルゲート兵のことを思い出して、口を開いた。
「私が形だけの領主で、あの女剣士が人間的に完成した本物の領主ってことをしょうめ……」
「領主が他にいるだと? ……んなバカあるか!
さっきまで、領主は自分だって言ってたじゃないか……!」
「言ってましたよ。
でも、私が領主になっちゃったから、アレマ領は自由奔放で、バカをやっても笑って済ませられる場所になったのも、間違いないことです」
アリスは、「ね、ビリー」と言いながら目線をバルゲート兵たちから反らすと、ビリーが困惑した表情を見せた。
むろん、それ以上に困惑しているのはバルゲート兵たちだった。
3人の来客が小声で言い合った後、スーツを着たウェリス中佐がアリスの前に立った。
「まぁ、3ヵ月かけてそんな領土にしてしまったことは、もう疑いようのないことだ。
君は、今までの領主と違って、目障りにならない領主なのかも知れん」
「うちはうちで自由にやってますもん。
いろいろ制約はあるみたいですけどね……」
「ただ、こちらとしては、アレマ領主がバカという判断をするしかない。
このままバカが領主を続ければ、こちらはますますアレマを見下すことができる。
なぁ、これはどうだ……?」
ウェリス中佐の関節がポキポキ鳴り始める。
そして、この応接室の中で数少ないまともなセットである机にアリスを呼び寄せた。
「何を始めるんですか?
ホントにホントに、今からが真面目な会議なんですね……?」
「いや、もうこの領土とは真面目な会議を行っても意味がないことは分かった」
すると、ビリーがアリスの後から追いかけて、周りに聞こえないほどのトーンでアリスに耳打ちを始めた。
「アリスは、バカって呼ばれて本望だと思うかも知れない。
でも、あの言い方だと、もうアレマ領そのものがバカに染まったとしか思えないぞ」
「ふぇ……」
アリスは、気の抜けた声でビリーに告げる。
「アリスのせいで、グロサリさんとかシラオさんとか、それにレギンズさんとか、
そういうアレマ領にいる人までバカって思われちゃうんだからな」
すると、アリスはビリーに耳打ちで返した。
「だから、さっきも言ったじゃないですか。
アレマ領がどうしようもない場所だと思わせるんです。
野生生物の召喚だって、かなりそれを意識していますし」
「あ……」
ビリーは静かにうなずいて、アリスの前から去った。
立ち代わりに、ウェリス中佐がアリスの前に立ち、再び関節を鳴らした。
「とりあえず、こんなバカが領主でなくなったら、今度こそバルゲートが危ない。
それに、この前、うちまでの地下トンネルを提案した人間だと聞く。
それに免じて、命だけは助けてやろう……」
「あ、命は大丈夫なんですね。
じゃあ、そのポキポキ鳴らしてたのは、何ですか……?」
「あぁ、これか……?」
すると、ウェリス中佐はスーツを脱いで机の端に置き、アリスに右腕を見せた。
「腕相撲だ!」
真っ先に凍り付いたのは、ビリーだった。
ビリーが、うつろな目をしながら、アリスとウェリス中佐を交互に見る。
その後、二人のバルゲート兵も、一瞬何が起こったのか分からず、お互いの顔を見合わせた。
その中で、アリスとウェリス中佐だけがやる気になっていた。
「あの……、ウェリス中佐様……。
この大切な場で腕相撲をなさるというのは、本気でしょうか……」
ビリーが、ウェリス中佐の顔色を気にしながら尋ねたが、うなずくだけだった。
「バカ領主には、バカな方法で処分を下さなければならない。
とりあえず、腕相撲1本勝負をして、領主が負けたら、館の金庫にあるお金を全て持っていく。
そして、領主が勝ったら、この応接室にはとても似合わないフラミンゴをバルゲートに差し出せ」
「はい、分かりました!」
アリスは、ウェリス中佐の言葉が終わって1秒もしないうちに返事をして、机の上に腕を出す。
そこに、ビリーがまた小声で告げに来た。
「アリス。これ、財産取られちゃうってことだぞ……」
「ビリー、それは分かってます」
アリスとウェリス中佐の腕が、机の上で肘を立てた。
勝負が始まる。
さぁ、明日でアリスの運命が決まります!
応援よろしくお願いします!




