第12話 領主替えを台無しにする それがアリス③
「おはよーございます! 朝です! 朝が来ました!」
ビリーは、メガホンから響く声に飛び起きた。
案の定、そこにはアリスがいた。
「う……、うるさいわ……っ!
なんで、領主替え当日なのに、領主がいつもの感じでバカやってるんだ!」
「バカですもん。
最後だけ真面目になったら、それはそれでアリスってキャラがいなくなっちゃいますから」
「自分で自分をアリスって言うんじゃない……!」
ビリーはパジャマのまま、試着室に走り出した。
「ビリー、いつもの服だったらここにありますよー!」
「違う、違う!
今日は僕たち、正装でバルゲートを迎えなきゃいけないんだ。
そんな下手な服で出迎えるわけにはいかないんだよ」
当のアリスは、たまたま執務室の奥にあったダメージズボンに、黒いTシャツと、かなりカジュアルな上下でその時を迎えようとしていた。
そんなアリスを、ビリーが試着室の前で手招きする。
「アリスも着替えるの!
中身がバカなんだから、せめて外見だけでも領主ぽく見せようよ!」
「はぁい……」
~~~~~~~~
アリスとビリーが着替えを済ませ、同時に試着室から出た。
アリスは就任式の時に使った男性用のタキシードを着ている。
だが、ビリーも全く同じ衣装で出てきたのだった。
「アリス、まさか被るとはね……」
「だって、ビリー、私たち就任式以来、フォーマルなこと何もやってないですから」
「そりゃ、そうだけだどさ……。
見た目どっちが領主だか、初見じゃ分からなくなるかもね」
そもそも、半月ほど前に来たバルゲート兵に、領主がトライブだと思われた二人である。
領主が分からなくなる可能性は、アリスも認めざるを得ない。
だが、アリスは数秒考えた後、ゆっくりと口を開いた。
「こうしません?
今日だけ、領主ビリー」
「……あ?」
ビリーは、アリスの口にした言葉を何度も思い返すしぐさを見せた。
一度だけ、アリスの顔を覗き込むようなしぐさも見せた。
だが、アリスのあまりに真面目な表情に吹き出すしかなかった。
「は……? 何それ……?」
「だから、今日だけビリーが領主で、命か財産をバルゲートに狙われる。
衣装被せるんだから、それくらいのバカをやっていいと思います」
アリスが舌を出すと、ビリーは「何を真面目に考えていたんだろう」と言いたそうに、頭をポンポンと軽く叩いた。
「あのさ……。
僕が、領主になりたくない理由……、言おうか?
もう、僕とアリスのコンビも最後なんだからさ」
「何となく聞きたいです……」
「じゃあ、言うよ……」
ビリーは、息を飲み込んでアリスの前に立った。
そして、ビリーの肩に手を当てて、やや前かがみになって告げた。
「僕、責任を取りたくないんだ。
僕が、紹介屋でやってしまった失敗のせいで……、あれから僕は責任なんか取りたくなくなったんだ」
「やっぱり。うっすら、そう思ってましたー」
アリスがビリーを見上げながら、気の抜けた表情を見せる。
「その原因、もしかしてバージルさんですか……?」
「ま……、まぁね……。
僕のせいで、バージルは死んじゃったから……」
「それ、本当にビリーのせいで、なんですか……?
詳しく説明してもらわないと、名探偵アリスが気にしちゃいます」
「そりゃ、気になるよね……。
でも、僕としてはあまり思い出したくない。それに……」
ビリーがゆっくりと試着室の出口に向かって歩き出す。
アリスは、後ろ姿を見ることしかできなかった。
「僕は、キングブレイジオンの存在が……、バージルに重なるんだ。
あいつも、なりふり構わず炎で立ち向かっていく。
だから、この前からあの姿を見るたびに、バージルのことを思い出して……」
「そうなんだ……」
アリスは、ビリーに聞こえないように呟いた。
脳裏にキングブレイジオンの姿と思い出し、
その後にまだビリーの言葉でしか聞いたことのないバージルの顔の形を、勝手に頭の中で思い浮かべる。
その二つが、アリスの脳内で重なり出した。
「でも、そっくりなら逆に親近感沸きませんか?
バージルさんを、紹介屋で冒険に送り出してたんですよね……」
「たしかに……」
ビリーは立ち止まって、アリスを見つめた。
アリスの目をまじまじと見つつも、しばらくうつむいて、悩んでいるような表情をアリスに見せた。
その目線を感じながら、アリスは静かに告げた。
「だから、ビリーは、ハイトさんの代わりにキングブレイジオンを召喚していいと思うんです。
紹介屋をやってた時のように、頑張れって送り出しましょうよ。
召喚術、使えるんですよね」
「えぇ……?」
ビリーが、呆然とした表情に変わる。
そこにアリスがゆっくりと近づき、その横を通り過ぎて、止まった。
「私がキングブレイジオンと会いたいからだろ、って言わないんですか……?」
「いや……。
アリスがこの世界に来てまでも、自分を追い出したはずの『オメガピース』からトライブを呼んでいるんだ。
もしかしたら、僕も過去から逃げちゃいけないのかも知れないって……」
「そうですよ!
キングブレイジオンを召喚できるのは、私なんかよりもビリーです!」
アリスは、軽くうなずいてビリーの表情を伺う。
ビリーの表情は、思った以上に前向きだった。
「というわけで、ビリーがキングブレイジオンを召喚して欲しいから、私はまだ領主でいます!
それに、バルゲートのこととか永久召喚のこととか、何も分からないから、それも知りたいです。
このまま領主クビになりたくないです!」
「でも……、今日で終わりだよ……?」
「てへへっ!」
アリスがスキップしながら、執務室に向かって歩き出した。
ビリーが早足で追いかけると、アリスは執務室の前で止まり、振り返った。
「私、今日で終わりだって信じてないですよ!
私はずっと、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だああああ、って言ってますもん」
「つまり、アリスとしては、今日領主をクビになりたくない、と」
アリスは、ビリーに大きくうなずいた。
「だから、このアレマがどうしようもない、
あるいはバルゲートの属領として恥ずかしいふりをして過ごすんです。
だから、さっきもダメージズボンだったんですよ」
「なるほどね! ……バカ!」
「バカですもーん!」
ビリーはため息をついて、もう一度試着室に向かおうとした。
そこに、鐘が鳴り響いた。
「あぁ……、終わった……。
僕たち、そっくりさんで出迎えなきゃいけない…。
……って、アリス、心構えもできてないのにどこ行くんだよ!」
アリスは、食べ物の差し入れが来たときのようにドタドタと階段を降りていった。
そこには、バルゲートからやって来たと思われる人物が3人立っていた。
しかも、そのうち一人はバルゲート兵の制服を着ておらず、黒いスーツに身を包んでいた。
そこに、アリスがいつものように出迎えたのだ。
「ようこそ! アレマ領の領主の館へ!
私が、アレマ領のバカ領主でーす!」
「バカ領主……?」
バルゲート兵の一人が、黒いスーツを着た男性に戸惑いの表情を浮かべる。
もう一人のバルゲート兵が小声で「あのお菓子泥棒」と告げると、納得した表情を浮かべた。
それから、スーツの男が一歩前に出て、アリスに顔を近づけた。
「領主よ……。お遊びはここまでだ。
今日は、バルゲートの価値観でお前を見て、3ヵ月間の評価を下す」
「そうですね……。じゃあ、こちらへどうぞ……」
アリスは、珍しく丁寧に頭を下げて、3人の来客を応接室のほうに連れて行く。
ビリーも心配になったのか、ゆっくりと階段を降りてきて、3人の後を追う。
そして、アリスの手が応接室のドアに触れた。
「応接室、御開帳~っ!」
次回、いよいよ緊迫の領主替え交渉がスタート!
応援よろしくお願いします!




