第12話 領主替えを台無しにする それがアリス①
「ソフィア……、ちょっと話があるわ」
トライブは、7度目の召喚から戻るなり、ソフィアを救護室の角に手招いた。
アリスは息をしているものの、未だに目を開けようとしない。
「アリス、やっぱりソフィアが言った通りになってる。
アリスは、あの世界に永久転送されてしまったわ……」
「96年後の世界に飛ばされたのに、2ヵ月もそのままなんて、どんなに召喚に特化した魔術師でも、そこまでできるわけがないから……」
トライブは、ソフィアから目を反らし、眠っているアリスを見つめた。
「アリスは、この世界に戻りたいなんて、一言も言ってない。
でも、永久転送って言葉を聞いたとき、アリスはあまりいい顔してなかった……。
だから、アリスがどっちの世界にいたいのか、本当に分からない……」
「トライブ。
アリスはものすごく単純だから、向こうの世界が好きなら、戻りたくないって明言するのにね」
「私も、半分はそう思ってる……。
でも、楽しんでいるけど、いつかは戻らなきゃいけないって思ってるはず」
ソフィアも、アリスを遠くから見つめる。
いつかは目を覚ます、と周りに伝えるようにアリスの口から静かな呼吸が聞こえてくるものの、今は向こうの世界での楽しいひと時を過ごしているようにしか見えなかった。
「トライブさ、私が仮説を言っておいてなんだけど、本当に永久転送なんて存在するのかな……」
「あり得ないことを信じたいけど……。
アリスに永久転送のことを伝えた巨人も、この世界にほとんどいないと言ってたし……、ゼロじゃないのよ」
「すごい魔術師ね……。
でも、どんなに強い召喚術だったとしても、いずれ限界はある。
普通の召喚と、どことも変わらないんじゃないかな……」
「つまり、ソフィアは、アリスがいつか召喚から解き放たれる時が来ると、信じる訳ね……」
「トライブはどう思うの?」
ソフィアが、トライブに顔を近づけ、静かに呼吸する。
「私も、ほぼ同じ。でも、一つ分からない。
普通の召喚と、永久転送を分ける理由が……。
きっと、その裏に何かがあるはずなのよ……」
その時だった。
救護室のドアをノックする音が聞こえ、トライブがドアを開けに行った。
「ジル……」
立っていたのは、アリスの姉だ。
1時間半ほど前にソフィアと一緒に「オメガピース」からアリスを追放してから、トライブが全く見かけなかった人物だ。
「アリスが未来の世界で生きてるって聞いたから、何か話を知ってると思った」
「生きてるわよ。アリスは。
私、アリスに呼ばれて向こうの世界で戦うことになったんだから」
「アリスは、向こうの世界から私も呼んだわ。拒否したけど」
赤い髪を救護室の空調に翻しながら、トライブとソフィアに静かに伝えた。
トライブとソフィアは、顔を見合わせた。
「ジルは呼ばれてるのに、行かなかったの。結構強い敵がいるのに」
「ソードマスターは、いつでもどこでも戦いたいから、アリスの声に応えてるんじゃなくて?」
「それもあるけど……。
私が向こうの世界に行ってるのは、ここにいるアリスが心配だからよ。
向こうは向こうで自由にやってるけど、ベッドに横たわる姿を見たら……、かわいそうになってくるわ」
ジルは、トライブの言葉に「そうなの」と呟き、再び口を開いた。
「ここにいるアリスは、たぶん時間差で消えるんじゃない?
永久召喚なんて、魔術の倫理からして考えられないから」
炎の女神を降臨させる魔術の一つ、「歌姫の祝福」を使うことをただ一人許されたジルは、少なくとも救護室にいる3人の中では最も「強い」召喚術師であることに間違いなかった。
剣士2人は、ジルの説に言い返すことが出来なかった。
そして、トライブはこう返すしかなかった。
「私はまだ、アリスが本当はどういう扱いになっているかあまりよく分かってない……。
だから私は、アリスを見に、あの世界に行かなきゃいけない……」
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――バルゲートの属領は、3ヵ月で領主替えだから……。
「領主替え……。
せっかく領主になったのに、3ヵ月で終わり……?」
アリスがアレマ領に転送されてから、ちょうど3ヵ月になる日が近づいてくると、アリスは執務室の椅子に座っても、ビリーやバルゲート兵が立て続けに告げた言葉が、気が気でなかった。
「お菓子工場も呼べなかったし、お菓子買い占め計画も、お金をこっそり作る計画もダメだった。
あぁ……、私、領主になって何かやれたこと、あったっけ……」
イオリ草や赤魚など、いろいろなものをタダで頂いたことと、剣士と魔術師を召喚出来たこと以外の記憶が、アリスには全く残っていない。
領主アリスにとって、3ヵ月は早すぎて短すぎた。
そこに、執務室のドアをノックする音が聞こえた。
「ビリーでしょ?
ビリーじゃなかったら、お化けですよ」
ガチャ。
「お~~~化~~~け~~~」
ビリーが、手を怪しげに前に出しながらアリスに近づく。
領主替えがあることを知ってから、アリスが全くバカなことをやらなくなったため、逆にビリーが意識的に領主の館を盛り上げるしかなかった。
「ビリー、お化けのコスプレをしないと、声だけじゃ騙されません」
「まぁね……。
そういうコスプレ衣装作るのは、アリスのほうが得意なんじゃないかな……。
キングブレイジオンのコスプレも、強引だけどやったくらいだから」
「あれは強引です。
本物も見られましたし、今はキングブレイジオンのコスプレなんて恥ずかしくてできないです」
ビリーは、アリスのツッコミに軽く笑った。
それから、急に顔色を険しくした。
「領主替え、明日だね。
郵便受けに、バルゲート本国の政府から、手紙が入ってた……」
「ええええええ、明日あああああああ?
嫌だああああああ、もうちょっと領主やりたいいいいいいい!」
アリスは、執務室の椅子をガタガタ震わせるだけでは飽き足らず、立ち上がってじたばたし始めた。
ビリーが、アリスの前に立って肩に手をポンと当てた。
「気持ちは分かるよ、アリス。領主をやめたくないって気持ち」
「そうは言っても……、バルゲートから決められたことですよね……。
うちのソードマスターは、ああいう運命とかを嫌う人ですけど、私は特に受け入れちゃいます……」
「アリスらしくない」
真顔のままで居続けるビリーに、アリスは思わず言葉を止めた。
「私らしくない、って……。
私が、いつもバカをやらないと私じゃないってことですか……?」
「半分は、そういうこと」
ビリーが、真顔で居続けるのも大変になってきたのか、思わず笑いを解き放つ。
アリスは、つられて笑うしかなかった。
「で、残りの半分は……、アリス、イコールどんな時も深く考えない女ってこと。
バカなことを考える時、アリスは特に何も考えてないでしょ?」
「考えてないです……。だから、バカなんですけどね……」
「それでいいんだよ。
この3ヵ月、アリスはそうやってバカ領主として認められてきたんだからさ」
アリスは、再び自分の肩に手を当てるビリーを、まじまじと見つめていた。
逆に、ここ数分のビリーのほうがおかしくてたまらなかった。
「ビリー、あんまり言いたくないんですけど……、もしかして本当に伝えたい、辛いお知らせがありますよね。
おバカ探偵アリスは、聞き逃しませんよ」
「探偵じゃなくて、領主でしょうに。
でも……、読まれちゃったかな、アリスが僕の行動に裏があるっていうことを……」
「ど……、どういうことですか……?」
アリスは、戸惑うようなビリーの目をじっと見つめながら、恐る恐る聞き返した。
第12話、アリスが領主じゃなければ絶対にこんな展開にならない領主替えです。
どこまで儀式が壊れていくのか、お楽しみ下さい!
応援よろしくお願いします!




