第11話 召喚の常識は根底から覆された⑤
「ちょっと、見させてもらう」
地中から上がってきたバルゲート兵は、疾風神を前から横から見つめながら一周した。
時折、地面に落ちてバラバラになった羽根を手に持って、裂かれた線も確認していた。
何やら、メモを取っている様子だが、疾風神そのものに話す様子はなさそうだ。
逆に、メモを書き終えると、アリスたちの前に立った。
「疾風神の羽根がなくなってるではないか。どういうことだ!」
バルゲート兵の鋭い目線が、ビリー、アリス、そしてトライブの順で、それぞれを1秒ずつ睨み付ける。
「私がやったわ。
この場所を破壊する風を、領主の指示で止めただけよ」
「領主の指示……。ヤバい……!」
正直に言ってしまったトライブに、アリスは息を飲み込んだものの、トライブの言葉を止めることは出来なかった。
「ほぅ……。女剣士が領主ではない、か。
ということは、この女剣士に指示した人間が、黒幕の領主ということになるわけか……」
バルゲート兵は、アリスとビリーを数回ずつ交互に見渡し、うなずいた。
そして、アリスを見て、何かに気付いたようにうなずいた。
「お前……、少しぽっちゃりしてるな……。
確かお前は、バルゲアの街でチョコレートを買い占めようとした、行商人じゃないのか」
「なんで私のこと、知ってるんですか……!」
「首都でここまでバカなことをされたのだから、バルゲート政府の耳にも入った。
というわけで、このバカが領主のわけがない。よって、黒髪やせ型のお坊ちゃまが、領主か……」
「えっ……?」
アリスは、右の人差し指を自らに向け、ビリーに顔を向けた。
「あの……、私、領主と思われてないんですね……。あー……」
「お前が領主かよ!」
判明した現実に、バルゲート兵が一歩下がった。
その体は震え、これまで真面目に話していたはずの声も突然裏返った。
「あのなぁ……!
こうやって3人並んでたら、何も言われなかったらその女剣士が領主、その男が召使い、そしてお前がただのバカ領民にしか見えないだろ!」
「見た目で判断しないで下さい。
バカと言われても、2ヵ月半ちゃんと領主やってこられたんです!」
「アリスがいくら言ったって、見た目のイメージはそんな簡単に動かないわ」
トライブにまで突っ込まれて、アリスはいよいよ肩身が狭くなる。
「ふぇ~ん……」
アリスの気の抜けた声に導かれるように、バルゲート兵が突然真面目な顔になり、アリスの前に出た。
「とりあえず、アレマ領主。
疾風神が何故ここに来たのか、教えて欲しい」
「えっと……、突然地面を突き破りました。
で、バルゲートが嫌だから、自分で世界征服したいとか言って、私たちに攻撃を仕掛けてきました」
バルゲート兵が疾風神に振り返ると、疾風神が申し訳なさそうに頭を下げる。
そして、再びアリスに顔を向けると、起きたことをさらに続けた。
「そこにハイトさんっていう青年がいるんですけど、死にました。
疾風神が爆風を貫いたんです」
アリスがそこまで言い切ると、バルゲート兵がいよいよ体を震わせ、3人を睨み付けた。
「勝手な真似をしやがったか……!」
「やっぱり、勝手な真似って……、私たちがやってしまったことでしょうか……」
「いや、お前たちはアレマ領として当然のことをした!
悪いのは、バルゲートを勝手に逃げ出し、勝手に他の領土の侵略を企てた、疾風神の方だ!」
バルゲート兵の腕が、疾風神に真っ直ぐ伸びるのを見て、アリスは突然気が抜けた……。
「助かった……」
「アリス、まだそれ言っちゃダメ……!」
ビリーが小声で突っ込んだことを含めて、バルゲート兵には聞こえなかったようだ。
バルゲート兵が、疾風神に「立ち上がれ」と告げ、領主の館の前にできた穴に向かって一緒に歩いて行った。
「あの……、バルゲート兵さん……、ちょっといいですか……?」
「どうした。もうどちらが悪いか、結論は出たはずだ」
「いや……、せっかく……、疾風神がバルゲートから地下を通って逃げ出してきたんです。
だから、この通った跡をバルゲートとアレマを結ぶトンネルにしませんか?」
アリスは、腕に手を当てながらバルゲート兵の表情を見つめる。
バルゲート兵は、苦笑いを浮かべていた。
「……トンネルか。
まさか、属領からそのような提案をされるとは、意外だったな」
「だって……、バルゲートの首都からアレマ領に行くのに、山か海を通らないと行けないの、変です。
私も、お腹空かせながら、夜通しで峠道を上りましたもの」
アリスは、そう言いながら、後ろに腕だけを伸ばした。
「あの、建築資材ならあります。
あそこにたくさんブロックがあるので、トンネルを固めるのに使って下さい」
「アリス、ブロックはないよ。もう」
「えっ……? あっ……!」
この1時間あまりの時間に起きた出来事を、アリスは順番に並べることすらできなくなっていた。
アリスの背後にあるのが灰だと分かったとき、アリスは「しまった」という表情を作るしかなかった。
「でも、あれでセメント作れない?」
「セメント……。あー、なるほど……」
すると、バルゲート兵がアリスとビリーの前に近づいてきた。
「なんと、そんなにセメントの原料があるのか……!」
「えぇ、前にブロックでできた巨人がいたんで、処理に困ってまして……。
とりあえずは、焼いたのですが……」
「じゃあ……、買った……!」
「えっ……」
アリスは、バルゲート兵の表情を見つめることがまじまじと出来なかった。
どうやってシーショアの街まで運ぶか、それしか頭になかっただけに、この展開は眼中になかった。
「いくらですか……。
もし何だったら、お菓子1年分でもいいです!」
「お菓子ダメ! アリスのお腹にしかいかないから!」
ビリーに突っ込まれるものの、バルゲート兵の表情は変わらない。
その灰の山を、本当に買いたい様子だ。
「これをセメントにするのは、バルゲートだろうから、そんなに高くは買えないが……。
見た感じ、ざっと10万リアといったところか……」
「じゅ、じゅ、じゅ……、10万リア……!」
アリスが思いつきで作った、紙ペラのお金と同じ金額。
それを、バルゲートから手に入れられる。
一応、「ネオ・アレマ解放戦線」がブラックファウンテンを呼ばなければ、10万リアの値打ちがあるものを手に入れられなかったことにはなるのだが。
そして、バルゲート兵がアリスに背を向け、去り際に言葉を残した。
「もっとも、今からバルゲート政府に言っても、アレマにお金が入るのは、次の領主だけどな」
バルゲート兵に連れられた疾風神が地下トンネルに入り、再び大地に地響きを残しながらバルゲートに向けて去って行くと、後には3人の人間と1人の死体、それにお金となった灰の山が残った。
アリスは、トライブを元の世界に戻した後に、領主の館を遠くから見つめた。
「疾風神、領主の館にも結構爪痕残しましたね……。
就任式の時に使ったテラスが折れてます……」
「そうなると、10万リアというのは、その慰謝料も兼ねてなんじゃない?」
「そうかも知れないです……。
アレマの建築業者がどこにいるかも分からないし、食べ物や服のようにタダでやってくれると思いません……」
アリスは、小さくため息をつきながらビリーと並んで歩き出した。
数歩だけ歩いたとき、アリスはビリーにもう一つ尋ねた。
「ところで、バルゲート兵、次の領主って言ってませんでしたか……?」
その言葉が終わらないうちに、ビリーが首を横に振った。
「そうだね……。
でも、それはあのバルゲート兵が、トライブを領主だと勘違いしたからじゃないんだ」
ビリーの声のトーンが、かなり低い。
そうなると、アリスは余計にビリーの顔を覗きたくなった。
「私、領主クビなんですか……?」
「たぶん、クビになるよ。もうすぐ。
バルゲートの属領は、3ヵ月で領主替えだから……」
「うそ……」
「嘘は言ってないよ。
アリスの前の領主も、ちょうど3ヵ月で交代させられたんだから」
「そんなぁ……」
アリスは、突然告げられた現実を前に立ち止まるしかなかった。
「お金もお菓子も、私が手に入れられるんじゃないんだ……」
領主アリス、クビで突然の最終回?
いや、1クールの終わりに過ぎない?
第12話、アリスの運命は?
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