第11話 召喚の常識は根底から覆された④
疾風神の解き放った爆風が、トライブに襲いかかる。
だが、トライブは表情一つ変えずに、アルフェイオスを両手で持ったまま一歩、二歩と後ずさりして、場所を細かく調整した後に、剣を高く振り上げた。
「はああっ!」
『なにをする……!』
肉眼でもはっきりと見えていた風の軌跡に向けて、トライブが剣を振り下ろした。
その瞬間、剣の勢いでダウンバーストが発生し、風がトライブの左右に吹き抜けていく。
トライブは、何度も剣を振り下ろし、爆風を目の前から消していく。
「両肩から吹き出した風は、私の立ち位置で交わるようになっていた。
そこを離れれば、私は吹き飛ばされないし、無力化することも出来る。
剣士が風に対して無力だなんて、言わせないわ!」
トライブは、風の動きを完全に読んでいた。
そして、疾風神が息を呑む中で、アルフェイオスを正面に向けたまま走り出した。
その瞬間、疾風神の肩についた羽根がわずかに角度を変えた。
『荒れ狂う風の舞!』
迫ってくるトライブに向け、疾風神が再び爆風を解き放つ。
『今度は……、考える時間などない……!』
解き放たれた風は、トライブの体で交わるように軌跡を描いた。
それも、より高速でトライブに迫ってくる。
「私は……、そんな風に怯まない!」
トライブは、急に立ち止まって風をやり過ごした。
それから、アリスのいる場所を確かめるために、首をわずかに動かした。
その隙で、疾風神がアリスに肩の羽根を向ける。
その動きは、首の向きを戻したトライブにはすぐ分かった。
「アリス! 来るわ!」
トライブが、身を翻してアリスに駆けだした。
『さぁ……、さっきと同じように召喚した奴を食らい尽くせ……!
荒れ狂う風の舞!』
疾風神から領主の館の玄関に向けて解き放たれたとき、アリスはビリーを連れて館の中に逃げ込み、ドアを閉めた。
代わって、ドアの前にトライブが立ちアルフェイオスを斜めに振り上げ、風を打ち砕いた。
「領主と館に、傷ひとつ与えないわ!」
『ほう……。どこまでうまく対処できると言うのか。
近寄れないくせに、勝利を確信するんじゃない!』
疾風神が薄笑いを浮かべる瞬間も、トライブは疾風神の肩にある羽根をじっと見つめた。
そして、勝利を確信したようにうなずいた。
「これ以上の攻撃手段がないのなら、あなたの負けはほぼ確定ね」
『なんだと……!』
疾風神は、信じられないという目でトライブを見つめる。
だが、バトルを何万回も繰り返した「剣の女王」の作戦までは、読めなかった。
「バスターウイング!」
アルフェイオスを高く掲げるや否や、トライブは力強く叫ぶ。
剣に導かれるように、トライブの体が弧を描いて疾風神の真上まで飛び上がる。
『くそっ……! 荒れ狂う風の舞!』
疾風神も、できるだけ体を傾け、上空を支配したトライブに風を解き放とうとする。
だが、放とうとした向きは、体を水平にしない限り肩が邪魔になるところだ。
放った風は、到底トライブに届かなかった。当然、計算すらしていなかったアリスにさえも。
疾風神の真上に達したトライブは、迷うことなくアルフェイオスを真下に向けた。
「はああああああっ!」
『なんだと……っ!』
アルフェイオスが、右肩の羽根を切り裂き、肩から切り離す。
まだ高速で動いていた羽根も、重力を伴ったトライブの鋭い一撃には耐えられなかった。
そして、トライブは疾風神の前に立った瞬間、慌てて向きを変えようとする左肩の羽根に向けて軽くジャンプし、付け根から打ち砕いた。
『そ……、そんな……』
風という武器を全て失った疾風神は、膝から崩れ落ちた。
トライブが、疾風神の目の前にアルフェイオスの剣先をかざす。
戦術という引き出しを無限に持つ、「剣の女王」の作戦勝ちだ。
『まさか、地上に出てきた瞬間に、返り討ちに遭うとはな……』
アリス、ビリー、トライブが横に並ぶ中、地面に崩れたままの疾風神はため息をついた。
そこに、アリスが疾風神の顔を覗き込む。
「あの、ちょっと確認しますね」
そう言うと、アリスは腕を伸ばしながら疾風神の回りを一周した。
時折、疾風神の体に触れてしまいそうな勢いだった。
「アリス。何をやってるんだよ」
「本当に、召喚されてるんでしょうか……、これ……。
なんか、そういう雰囲気がしないんです……」
「なんかアリス、さっきも気にしてなかった? 力を操る人がいないとか」
「そう。
この世界に呼び出されたのに、永遠の命って……、ちょっとよく分からないのです」
ここで、疾風神がアリスに体を伸ばす。
『貴様らには……、関係ないことだ……。
私が、どういう存在としてこの地で生きているか』
「いや、関係ありますよ!」
アリスは、首を横に振りながら疾風神に迫った。
『何故だ……。
私は、バルゲートに呼び出され、そこで永遠の命を授かっただけだ。
この地に生まれたお前らには、何も関係などない!』
「あの……。私も、もう2ヵ月半、召喚されっぱなしなんです。
どうしてそんなことになるのか……、考えても分からなかったので……」
「アリス……、気にしてるのね……」
トライブの小さな声を、アリスの耳ははっきりと感じた。
その後、その耳でビリーが横に立つ気配をも感じた。
「僕も……、今日までアリスに言えなかったけど、今の時代に転送されて半年近く……、帰れないままだ。
だから、疾風神の言う『永遠の命』がなんなのか、気になってる」
『偶然が過ぎるな……。
永久転送の魔術を使えるのは、この広い世界を見ても、ほとんどいないはずだが……』
「永久……、転送……」
アリスは、拳を握りしめた。
これまで通常の転送の可能性を捨てていなかっただけに、疾風神からの言葉は、それを完全に否定するものだった。
「僕もアリスも、疾風神も、みんな永久転送ってことなのか……」
『残念だが、これが現実だ……。
だから私は、この閉ざされた世界で暴れまくるしかなかった……』
疾風神の言葉に、アリスは首をかしげた。
「この世界、楽しくないですか?」
『何故、そんなことを言う?』
「だって、今までいた世界に戻れなくて寂しかったとしても、
こうやって仲間を召喚したり、お菓子を食べたり、お金を……」
「それはアリス限定!」
ビリーが、アリスの口をふさぐように、その手をアリスの顔に近づけた。
すると、疾風神がため息をついた。
『私も……、風の神として人々から崇められていた頃の方が、楽しかったな……』
「風の神……」
アリスは、息を飲み込んで疾風神の言葉に耳を傾けた。
『風は、人々に豊かさをもたらす。
あらゆる生物が成長するための力を運ぶ。
もし、風の力がなければ、何も変わらない世界がそこに待っている……。
だからこそ、私は崇められたのだが……、バルゲートに呼ばれて、勝手に兵士にされてしまった』
「そんな過去があったんですね……」
アリスは、疾風神にうなずいた。
だが、時同じくして、疾風神が通ってきた地中から誰かが出てくるような気配を感じた。
「誰……?」
地面の異変に気付いたアリスが振り返ると、グレーの制服を着た一人の男が地中から這い上がってきた。
それが何かを知っているアリスは、息を飲み込んだ。
「この景色、アレマ領のようだな。
まさか、こんな場所に出るとは思わなかった……」
「この見覚えのある制服、バルゲート兵……」
バルゲート兵は、アリスではなく疾風神を見つめている。
これから何が起こるのか、アリスたちには全く分からなかった。
次回、アリスには永久転送以上の重大発表が!?
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