第11話 召喚の常識は根底から覆された③
「ハイトさん!!!!!」
アリスは、爆風の余韻が残る中で、ハイトに向かって駆けだした。
だが、炎と一体となった風がハイトの体を貫いた瞬間、その足が早くも竦んだ。
「なっ……!」
キングブレイジオンも、炎を右手に宿したままハイトに体を向けた。
風とともに地面に投げ出されたハイトの体を、無情にもフレイム・ヴァリアントの炎が焦がしていく。
「どうしてだ……! フレイム・ヴァリアントが立ち向かうのは……、そこじゃない……」
キングブレイジオンがそう叫び、再び疾風神に体を向けた。
だが、右手に宿っていた炎は限りなく小さくなり、時折苦しそうな表情さえ見せ始めた。
『思った通り、今のが召喚をしてた奴か……。
召喚した奴が、戦闘中に他の人間としゃべるってことはあまり考えられないからな……』
疾風神の声に、アリスが真っ先に首を垂れた。
「やっちゃった……。
もっと、ハイトを気にしていれば、こんなことにはならなかったのに……」
ハイトの体は、アリスが見る限り、人間とは思えないほどに壊れ、呼吸さえもほとんど失われていた。
『炎の王者と言ったか?
そんな大それた肩書きを持っていても、勝つ方法は教科書通り。召喚した奴を倒すまでだ。
そうなれば、力を失ったと同然だ』
「卑怯だ……っ。
紅炎の王者が、こんな無様な負け方を、許すわけにいかない……」
キングブレイジオンが、再び右手に力を宿す。
「勇敢なる炎……」
だが、その勇ましい声の後ろで、一つの生命が消える瞬間が訪れた。
キングブレイジオンの炎が、時同じくして蒸発していく。
次の瞬間、キングブレイジオンが全く炎を集められなかった右手で胸を押さえつけ、その場にうずくまった。
「ああああ……っ!」
アリスとビリーは、ほぼ同時にキングブレイジオンの前に走った。
「ヒール……!」
アリスの、遅すぎた魔術は、キングブレイジオンの「傷」を癒やすのに至らなかった。
召喚の終わりを告げるかのように、その姿が徐々に薄くなっていく。
それでも、キングブレイジオンはアリスたちを見つめ、出せる限りの声で告げた。
「俺は……、またやってしまったことになる……。
放った炎のせいで、傷つけてはいけないものを傷つけた……」
その声を合図に、アリスが中腰になった。
そして、キングブレイジオンに首を何度も横に振った。
「そんなことないです……!」
「そこまで……、俺をかばってくれるのか……」
何とか開けている目は、アリスに訴えかけるように鋭かった。
「だって……、あれだけ強い炎を放っているのに、たった一度の失敗で諦める……。
それが、正義のヒーローなんですか?
紅炎の王者は、そんな簡単に沈んじゃうんですか……?」
――私は、たった一度の敗北で折れるような女じゃない!
こんなところで諦めたら、今までの努力を自分で否定することになるのよ!
アリスの脳裏で、トライブが自ら言い放った言葉が蘇っていた。
それをアリスが、キングブレイジオンにアレンジして伝えていた。
「そうかも知れないな……。
ただ、召喚したわけでもないのに、どうしてそんなことを……」
アリスが、その言葉を待っていたようにキングブレイジオンに薄笑いを浮かべた。
「だって、キングブレイジオンは、イケメンでカッコいいヒーローで、私がこの世界で大好きになった存在です!
もし許してくれるなら、私がキングブレイジオンを召喚します」
アリスの背後から、ビリーの影が伸びた。
「今の、こんな場面で出る言葉じゃないよね……」
「はぁい……」
アリスは、突然ビリーが中腰になったので、ジャンプしてキングブレイジオンの前から離れた。
「……って、ビリー。どうしてキングブレイジオンを見つめてるんですか?」
ビリーは、アリスに目を向けず、今にも消えてしまいそうなキングブレイジオンを見つめ続けた。
「僕……、何かが引っかかるよ……。今の、キングブレイジオンの言葉に……。
キングブレイジオンが、バージルと重なろうとしてるんだ……」
「えっと……、誰でしたっけ? バージルさんって?
私のお姉ちゃんはジルですよ!」
アリスがぽかんと口を開けてビリーを見つめると、ビリーも真っ青になってアリスを睨み付けた。
「あのさぁ、バージルのこと、僕はアリス一度話したよ……?
……あ、消えちゃった」
アリスとビリーが言い合っているうちに、召喚の主を失ったキングブレイジオンが、ボロボロの体で元の世界へと戻ってしまった。
「とりあえず、ハイトさんをこんな体にしたこと……、私は許せません!」
二つの「生命」がこの場所から消えた瞬間、アリスは疾風神に振り返り、睨み付けた。
『それがどうした……。
炎の王者とやらがここで力尽きたいま、何も力を持たない貴様に何が出来る……?』
薄笑いを浮かべる疾風神に、アリスは手を真っ直ぐ伸ばした。
「私には、『剣の女王』がいます!」
『ほう……。あんな風を前にして、遠隔攻撃にはめっぽう弱い、剣士をよこす気か?
冗談も休み休み言った方がいいんじゃないか?』
笑い出す疾風神を前に、アリスは伸ばした手を空に掲げ、祈るように呟いた。
「不可能を斬り裂く風を呼び、未来へと導く光を纏う、剣の女王よ。
我が大地の命運を、いまその腕に託す。
その魂が許すなら、我が声に応え、凛々しくも勇ましき一撃を下せ。
そして、この地にもたらせ! 穢れなき、正義の輝きを!」
アリスは右手の中で、はっきりと力を感じ始めていた。
「紅炎の王者」の炎さえも退けた風に立ち向かえる、空をも操る剣士の力を。
その言葉に乗せて、アリスは願いと想いを一人の女剣士に託した。
「召喚! トライブ・ランスロット!」
青白い光がアリスの前に解き放たれ、その中に長身でスラッとした体がシルエットで浮かび上がった。
雰囲気を感じたのか、姿を見せぬ前からトライブが静かにうなずいたように、アリスには見えた。
「お願いです……。アレマ領を……、救って下さい……!」
アリスが祈るように叫んだ瞬間、青白い光がフェードアウトし、中からトライブが姿を見せた。
敵の気配を察したのか、右手には早くもアルフェイオスを持っている。
「アリス。あれが敵……?」
「はい。
あの……、あの扇風機みたいなやつで爆風を放ちますし、召喚した人間を容赦なく攻撃してきます……」
「分かった」
アリスが、「オメガピース」で何度もしてきたように、敵の状態や行動をトライブに告げる。
そのたびに、トライブはここが「オメガピース」であるかのように、首を縦に振りながら返事をした。
そして、トライブが疾風神にアルフェイオスを向けると、アリスはビリーを連れて、領主の館の入口に戻った。
『今度は、トライブという女か……。
風に飲まれて、くたばるがよい……』
疾風神の両肩についた羽根が、再び回り出す。
『風の前では圧倒的不利な剣士よ。どんな攻撃を見せてくれるんだ? あ?』
「この剣は……、どんな風をも裂くわ!」
『ほう。なかなか度胸のある女のこと……。
なら、いきなりお見舞いしてやる……。荒れ狂う風の舞!』
羽根が一気に回転数を上げ、そこから爆風が解き放たれる。
トライブの髪もスカートも、爆風より前に激しく揺らいでいく。
アリスが、体を前に傾けながら叫んだ。
「ソードマスター!」
次回、久しぶりにトライブのバトルです!
応援よろしくお願いします!




