第11話 召喚の常識は根底から覆された②
……ドスン! ……ドスン!
アリスは、地響きがするたびに、トランポリンの上にいるかのように飛び上がる。
3度目の地響きが終わると、中腰になって、座り込んだままのジェイドの目を見つめる。
「あのー、解放戦線の皆さん……? ですよね?
いま、領主の館の周辺でどったんばったんやってるの」
「な……、なんでそんなことになるんだよ!」
「だって……、心の中で次のモンスターを召喚してそうでしたもの」
「シャイニングフェンリルを失った後に、そんなことできねぇつーの!」
既にシャイニングフェンリルの骨や灰は消えているものの、ジェイドが特段何かを召喚した様子はなさそうだ。
「とにかく、俺にも何が起きてるか分からねぇ……!」
すると、アリスの真下にキングブレイジオンの影が映った。
アリスが振り返るのを待たずに、キングブレイジオンが静かに告げる。
「地中を伝って……、モンスターが攻めてきた……。
おそらく、バルゲートの方からだろう……」
「バ……、バルゲート……?」
このところ、「ネオ・アレマ解放戦線」と何度も戦っていたアリスは、本来領土を上げて立ち向かわなければならない存在のことを、すっかり忘れていた。
アリスの脳裏に、ロッジ食品のお菓子13箱を没収したバルゲート兵の姿と、それが呼び出したエメラルドスカイハンターが思い浮かんだ。
その時から、名前こそ知られなくても、アレマ領から「変な」行商が来ていると報告されたことは間違いない。
だが、振り向いたアリスはそこで息を飲み込んだ。
「キングブレイジオン……、かなり疲れてるように見える……」
アリスが呼び出したデスディバイドドラゴン、灰に変えたかったブロック、そしてシャイニングフェンリル。
キングブレイジオンは、この場所に召喚されてから3回も炎を解き放っている。
決して弱音は吐かないものの、普段からトライブの横にいたアリスは知っていた。
どれだけ強い存在でも、立て続けにバトルを繰り返せば、持っているはずの力を簡単に出せなくなることを。
「キングブレイジオン。ヒール、かけましょうか……?」
キングブレイジオンは、少し考えた後、首を一度だけ横に振った。
「俺は、紅炎の王者。心配することはない。
バトルは続いても、俺の炎は永遠で、無限だ」
「そんなことを言ってのけるキングブレイジオン……、本当に王ですね」
アリスがキングブレイジオンと同時にうなずいたとき、しばらく途絶えていた地響きがアリスの足下に襲いかかり、アリスは思わず尻餅をついた。
今度は、領主の館の真下が割れてしまいそうな音だ。
「あの……、何か出てきます……」
「なんで分かる……!」
ジェイドが震えながら叫ぶと、アリスはジェイドに振り返った。
「だって、ケツがウズウズするんですもの」
「ケ……、ツ……?」
ズド―――――――――――――――ン!
「うわ、うわあ、うわわわわわああああああああ!」
アリスは、尻餅をついたまま、両手を使って何度も飛び上がりながら、領主の館の入口前まで戻った。
地面を突き破って現れたのは、人間の形をしながらも、両肩に扇風機の中にあるような羽根を2対装備しており、身長3mはありそうなモンスターだった。
手には鋼のグローブをつけており、その手だけで地面を突き破ったようだ。
キングブレイジオンの目が、突然現れた相手を鋭く見つめる。
両者の目が合ったとき、相手は低い声で話し始めた。
『もう、平和なバルゲートには飽きた。
再び、バルゲートが大陸を平定したときの勢いと富を、私も得たいものだ……』
「大陸を平定って……、ここは既にバルゲートの属領だ!」
『なんか生意気そうな兵士なこと。貴様は何者だ?』
「俺は、キングブレイジオン!
世界の秩序を乱すものを焼き尽くす、紅炎の王者!」
キングブレイジオンの、銀色に染まり上げた腕が、相手に向かって真っ直ぐ伸びる。
だが、炎を放つその腕がターゲットを捉えても、相手は動じない。
腰に手を当てて、見下すような目で睨み付けた。
『私は、疾風神。
この世界に呼び出され、永遠の命を授かった、風を操る巨人……』
キングブレイジオンを召喚したハイトは、相手がそこまで動かないと踏んだからか、召喚した「紅炎の王者」を見つめながら、そこから5mほど後ろに立っていた。
一方でアリスは、領主の館の玄関前に逃げたまま、状況を見守っている。
「この世界に呼び出され……、って、ビリー、これおかしくない?」
「な、何でだよ……」
「だって……、召喚した人だって、地面の中を移動してることが分からないと……、力、送れなくないですか?」
「たしかに……。
というより、アリスや僕と一緒だ……」
ビリーは、そこまで言うとアリスから目を反らした。
何かを言ってしまったと、表情から訴えるものの、その口がしばらく開くことはなかった。
「私も……、誰に召喚されたんだろう……」
アリスの口が閉じたとき、バトルが始まった。
『さぁ、来い! キングブレイジオンとやら!』
「臨むところだ……!」
金属で出来たキングブレイジオンの体から赤々と炎が燃え上がり、すぐに右手に集まり始める。
だが、キングブレイジオンの正面で、疾風神の両肩についた羽根がゆっくりと回転を始める。
『貴様は、言葉通りに炎の属性を持つようだ……。
だが、この疾風神の前では取るに足らない!』
「何だと……」
疾風神の放つ風が、徐々に強くなっていき、キングブレイジオンの右手に宿った炎を右に左に揺らしていく。
疾風神が、肩以外に全く動かしていないのを察して、キングブレイジオンがアリスとビリー、それにハイトの3人の居場所を確かめ、顔を正面に戻す。
「俺は……、この大地を守り切る……!」
徐々に回転を上げる疾風神の放つ風に、炎が時折形を失いながらも、キングブレイジオンは炎に語りかける。
「炎よ、我が怒りに共鳴せよ! 勇敢なる炎……」
キングブレイジオンの手に集まった炎は、高さ1mほど。
疾風神を全て飲み込むには、全く足りない大きさだ。
ここまでのバトルで生命力を消耗してきたキングブレイジオンは、相手の羽根の回転が最高潮に達する前にその高さまで火力を上げられないと踏んだ。
「まずは……、羽根を破壊する力となれ……!」
キングブレイジオンの祈りは、アリスたちにも聞こえるほどの大きな声となった。
最後は、炎を限りなく膨らませながら叫んだ。
「……発射!」
疾風神の口が、一瞬笑った。
『荒れ狂う風の舞!』
炎と爆風が、ほぼ同時に解き放たれ、両者のちょうど中間でぶつかる。
意思を持った炎が、荒れ狂う風に押しのけようと、懸命に前に出ようとする。
だが、疲れ果てたキングブレイジオンに、風を完全に跳ね返すだけの力は残されていなかった。
逆に、ワインディング・ハリケーンの爆風が、炎をまとめて押し上げた。
「なっ……!」
キングブレイジオンに向けられたはずの爆風が、炎を飲み込んだ後、キングブレイジオンを大きく飛び越えた。
炎も、爆風を押しのけようとするが、その意思を失ったように爆風と一緒になる。
その軌跡に、アリスは手で口を押さえた。
「これ、ヤバいかも……」
飛び越えた風が、その先に捕らえていたもの。
それは、キングブレイジオンの「生命」と言うべき存在、ハイトだった。
「うわああああああああああああ!」
ハイトがダメージを受けるということは……。
次回、キングブレイジオンに待つ残酷な運命が告げられます!
応援よろしくお願いします。




