第11話 召喚の常識は根底から覆された①
「俺に何の用だ、『ネオ・アレマ解放戦線』!」
アリスが動くよりも早く、キングブレイジオンがジェイドの前に立った。
オレンジ色に輝く、炎の形をした髪が、わずかな風でも揺れていく。
「わざわざ説明しなくても分かるだろう。
こっちは……、バルゲートに立ち向かえる強いアレマを作り出す。そのためだけに動いてる。
だから、その邪魔になるキングブレイジオンには、消えなければならない」
「いい加減、俺を諦めたらどうだ。
解放戦線と俺、実力の差は何度も証明してきた!」
アリスは、ジェイドとキングブレイジオンの表情を交互に見つめた。
そして、二人の間に両腕を広げながら割って入った。
「あの……、お二人さん……。
お互い、正義のヒーローなのに……、どうして戦わなきゃいけないんですか?」
「それが、本来の正論だ。
この地を襲う奴らに立ち向かうための力は、いくらあったって多すぎることはない」
先に、キングブレイジオンがアリスの問いかけに答える。
だが、ジェイドは首を横に振ってそれを否定する。
「こっちには、こっちの正義がある。
それに、仮に一つになったとしても、その中で司令官を決めなければいけないからな……」
「えっと……、解放戦線の皆さん……、それ、私じゃダメなんですか……?」
その時、アリスは後ろから肩を掴まれた。
振り返ると、ビリーがアリスを見つめていた。
「バカ領主が司令官になれるわけないだろ……!」
「でも……、アレマ領で一番偉いのは私ですよ? たぶん」
「たぶんって……、そこは否定しようよ! アリス!」
ジェイドが、アリスとビリーのやり取りに軽く吹き出した後、キングブレイジオンに手を伸ばした。
「とりあえず、今の時代に生きていないキングブレイジオンは……、リーダーに値しない!」
「たしかに、俺はハイトに呼ばれて30年前の世界からやって来た。
だが、ハイトはれっきとしたアレマ領民だ!
俺の力を借りて、アレマの平和を守ろうとしている、勇気ある青年だ!」
キングブレイジオンが、ハイトに振り返ってうなずいた。
キングブレイジオンの目は、今にも戦いに挑むような鋭い目をしていた。
その背後から、ジェイドの声が響いた。
「そこまで、アレマのリーダーだと言うのなら、我が力に屈するが良い……」
ジェイドが、空高く手を伸ばす。
以前アリスたちに見せたような、耐火性のアイロンエッジは、ここでは出さないようだ。
「まさか、解放戦線が召喚……」
「この前も、奴らはアングリータイガーを召喚した。
召喚のスキルは、確実に存在する」
キングブレイジオンがアリスに告げた時、ジェイドが詠唱を始めた。
「荒れ狂う牙を持ち、異なる正義を食らい尽くす、勇気に満ちた狼よ。
その力はこの地の平和と繁栄をもたらし、永遠に安泰させる礎。
いま我が声に応え、その力をこの地に示せ……。輝く狼!」
「シャイニングフェンリル……。またか……」
キングブレイジオンの声が聞こえた瞬間、アリスは思わずハイトの表情に目をやった。
ハイトは、アリスと目線を合わせるなり、突然あたりを見渡した。
「ハイトさん……、どうかしたんですか……」
「領主さん……。
シャイニングフェンリルを出したら、あたり一面に駆け回られます……。
そうなると……、フレイム・ヴァリアントも同じように追い駆け回ります。
もしかしたら館の中にいても危険かもしれません」
「どひゃあ……!」
最初にキングブレイジオンのバトルを見た時、炎が意思を持っているように感じたアリスは、ハイトの一言に震え上がった。
「あの……、間違っても……、領主の館だけは焼かないで下さいね」
「保証はないかも知れません。
でも、正義のヒーローが街を破壊することは、おそらくないはずです……!」
アリスはハイトにうなずいて、そこでジェイドの召喚するものを確かめた。
青白い光の中にいたのは、そこからいくつもの細い光が解き放たれるような狼の姿だ。
サイズ的には、ジェイドの身長と同じ高さで、つい数十分前にアリスが出してしまったデスディバイドドラゴンと比べればはるかに小さめの相手だった。
「とりあえず、2階なら安全です。
普通の狼が、2階の高さまで跳び上がったりなんかしません!」
アリスは、ハイトの手を取って領主の館に入り、そのままビリーも連れて執務室へと逃げ込んだ。
既に、青白い光の中からシャイニングフェンリルが飛び出し、キングブレイジオンを睨み付けている。
『グルルルルル……!』
「さぁ、その鋭い牙で炎と体を食らい尽くせ!」
ジェイドが手を上げると、シャイニングフェンリルが大きくジャンプをしながら、キングブレイジオンに走り出す。
空の光に、その真っ白な毛が輝いた。
対するキングブレイジオンは、手に炎を集め始めた瞬間に叫んだ。
「炎よ、邪悪なる力を食い止めよ……! 燃えさかる盾、結成!」
勢いよく迫るシャイニングフェンリルに、炎の「盾」が解き放たれる。
形としてはあまり大きくないが、その間にシャイニングフェンリルから身を翻す。
シャイニングフェンリルが、解き放たれた炎を牙で砕き、狙いを定めたところに着地するも、その時にはキングブレイジオンは相手の斜め後ろに回っていた。
「今度は、こっちの番だ……!」
キングブレイジオンが、右手に宿した炎に語りかけた。
「炎よ、我が怒りに共鳴せよ! 勇敢なる炎……」
キングブレイジオンの手の中で、シャイニングフェンリルを包み込むほどの高さまで炎が湧き上がった。
それを見たシャイニングフェンリルが、それに屈しまいと口を大きく開ける。
「発射!」
キングブレイジオンの叫びとともに、炎の渦がシャイニングフェンリルに解き放たれた。
だが、シャイニングフェンリルが目を細め、大きくジャンプした。
「さぁ、この炎が尽きるまで、逃げ続けろ!
逃げ続けた先に、勝利は見える!」
ジェイドが、鋭い声でシャイニングフェンリルに指示すると、シャイニングフェンリルの動くスピードがより加速していった。
「焼き尽くす」意思を与えられたフレイム・ヴァリアントの炎も、懸命にシャイニングフェンリルを追いかけるが、なかなか追いつかない。
「大丈夫ですか、キングブレイジオンは……」
アリスが、執務室の窓を見つめながら静かに告げた。
「やっぱり、言った通りになりました……。
シャイニングフェンリルは、動きが鋭いから、相手のスピードが落ちるまでキングブレイジオンがパワーを出し続けなきゃいけないんです」
キングブレイジオンの体が相手の動きを追い続けて2周を過ぎたあたりで、シャイニングフェンリルが右の前足を領主の館のドアにかすかにぶつけた。
他の足で痛めたところをかばうため、一瞬だけスピードを緩める。
「これが、王者の力だ!」
逃げ回る相手と互角のスピードだった炎が、ほとんど勢いを弱めることなく、シャイニングフェンリルの後ろから襲いかかり、そのまま飲み込んでいく。
「逃げられなかったか……」
フレイム・ヴァリアントの強い意思が、逃げ続けた相手を余すところなく燃やし、すぐさま骨と灰の姿へと変えていった。
倒れたシャイニングフェンリルに、キングブレイジオンが右手を真っ直ぐ降ろし、フッと小さく笑った。
「また、俺たちの計画を止められるとは……」
ジェイドが震え上がって、その場に座り込んだ。
領主の館の前に座り込んだまま、立ち上がれない。
そこに、アリスたちが急いで2階から降りてきて、玄関のドアを開いた。
「私たちの方が、実力は上です。それは分かってもらえましたか」
アリスの声に、ジェイドは「嫌だ」とだけ言い、座ったままシャイニングフェンリルを見つめた。
それから、ガックリと首を垂れた。
「もう、何も残っていない……」
バルゲアで召喚した存在を回復させたアリスも、ここまで残っていない相手にヒールをかけることもできず、下を向くジェイドを見つめるしかなかった。
だが、アリスがハイトに振り向きかけたとき、地面がドスンと揺れるのを感じた。
「えっ……、何……?」
なんか10話の続きみたく始まりましたが、11話はアリス自身の運命が大きく動き出します!
応援よろしくお願いします。




