第10話 紅炎の王者、降臨!⑤
『さぁ、この吐息の放つ絶望に、屈するがよい!』
全高20mほどのデスディバイドドラゴンが、その口をキングブレイジオンに向けて大きく開き始めた。
対するキングブレイジオンも、相手に手のひらを向け、金属の体に纏った炎を一気に集めていく。
『グワアアアアアアア!』
デスディバイドドラゴンの口から、空を覆う闇よりもはるかに黒い吐息が解き放たれる。
まるで、死の先にあるような、何にも塗り替えられない色。
それが、キングブレイジオンに襲いかかろうとしていた。
だが、「紅炎の王者」は、その足を一歩も引かない。
手に集めた炎に、静かに語りかけた。
「炎よ、邪悪なる力を食い止めよ……! 燃えさかる盾、結成!」
キングブレイジオンの手から半径2m以上にもなる、盾の形をした炎が放たれる。
「盾」があっという間に吐息をはじき返すどころか、次々と吐息を放つデスディバイドドラゴンの口元まで、一気に貫いていった。
『な……、何だとォ……!』
吐息を放つ口元に炎が回ったデスディバイドドラゴンは、首を揺さぶって、何とか炎をかき消す。
その目は、キングブレイジオンを睨み付けていた。
「今度は、こっちの番だ!」
炎の盾を放ってもなお、キングブレイジオンの右手には、2階建てである領主の館ほどの高さの炎が燃え上がっていた。
その力を、再び操る。
「炎よ……、邪悪なる身を打ち砕く風となれ! 烈火の疾風、発射!」
キングブレイジオンの手から、空を一気に焦がしていくような熱い風が舞い上がる。
その風は、デスディバイドドラゴンの首まで突き進んでいく。
『そうはさせるか!』
デスディバイドドラゴンの口、再び漆黒の吐息を解き放つものの、その吐息さえ爆風とともに散り散りになり、風の温度によって蒸発した。
そして、首に容赦なく熱風が襲いかかる。
『ヴワアアアアア……!』
首を何度も振るデスディバイドドラゴン。
次の攻撃をする意思は、ほぼ削がれているようだ。
対する、キングブレイジオンは、右手に宿した炎をより大きく、より強く燃え上がらせた。
「炎よ、我が怒りに共鳴せよ! 勇敢なる炎、発射!」
『ム……ッ!』
今度は、やや低い確度で解き放たれた炎の渦が、デスディバイドドラゴンの下半身を火の中に包み込むとともに、体を駆け上がっていく。
下から勢いよく燃え上がってきた炎を前に、絶望の吐息を放ってきた口は、無力だ。
10秒もしないうちに「勇敢なる炎」が、デスディバイドドラゴンの全てを灰の姿へと変えていった。
空が、闇から本来の色を取り戻していく。
「紅炎の王者……、強すぎます……」
まさに、強敵に立ち向かうために炎を操るキングブレイジオンの姿に、アリスは釘付けになった。
そして、戦闘が終わるとアリスはすぐにデスディバイドドラゴンに癒しの魔術をかけに行こうとしたが、玄関を一歩飛び出したところで向きを変え、キングブレイジオンの前に駆け寄った。
その後ろからは、ハイトもついて行く。
「今の、すごいです。しびれました……」
「あぁ。俺の力は、まだこんなもんじゃないけどな」
「えええええ……」
アリスは、戸惑ったような声を上げる。
それを聞いてキングブレイジオンがはっとなり、アリスに声を掛けた。
「そう言えば、君は……、お姉さんと力勝負をして欲しいと言ってたな」
「覚えてたんですか……、プランテラの街でのこと……!」
アリスは、キングブレイジオンを見上げたまま、思わず手を叩いた。
それに対して、相手も静かにうなずいた。
そこに、キングブレイジオンを召喚したハイトが二人の間に立つ。
「キングブレイジオン。
今日呼んだのは、これだけじゃない。
領主さんが、あのブロックを焼き尽くして欲しいと言ってるんだ……」
ハイトがブロックの山に腕を伸ばすと、アリスは山にかかっていたブルーシートを引き、キングブレイジオンにその姿を見せた。
キングブレイジオンは、迷うことなくうなずいた。
「どれくらいまで焼けばいい?」
「それは領主さんに」
早いテンポで話を振られたアリスは、茶髪の頭を撫でながらキングブレイジオンに告げる。
「灰にしてください」
「分かった……。
さっきより、強力な炎になることだけは間違いないけど、灰にできないことはない」
キングブレイジオンは、早くも右手に炎を集め始めた。
ブロックの体積が小さいだけあって、手に宿る炎は先程より小さいものの、その代わり、炎がキングブレイジオンの手の前で、より激しく燃え上がっている。
アリスの目には、その手も含めて、金属のように見えた。
「離れましょう、ハイトさん……!」
アリスは、ハイトの手を取って領主の館に駆けだし始めた。
その後ろで、キングブレイジオンが右手に宿る炎に向かって、語りかける。
「炎よ、我が怒りに共鳴せよ! 勇敢なる炎、発射!」
ゴオッという音と同時に、アリスとハイトは玄関へと戻った。
そこで待っていたビリーは、腕を組んでおり、目もつり上がっていた。
「アリス……。
さっき、何を召喚した……?」
「えっと……、キングブレイジオンの相手です。
そうでもしないと、呼んでもらえそうになかったので……」
そう言いながら、アリスはハイトの表情を気にする。
「あと、ハイトさん……。ここまで真実を隠していてすみませんでした……」
「いや、領主さん。自分はいいんですよ。
ブロックを焼くだけじゃ来てくれないって言った身ですから……」
ハイトの声を聞き、片一方の荷が降りたアリスは息をついた。
だが、目線を戻した先にいるビリーの表情は、より険しくなる一方だった。
「どんな作戦か、僕にもだいたい分かったけどさ!
領主自身が、自分の領土を危険にするような召喚をやるなんて、あってはならないことだからね!」
「あ……。そんなこと、全然考えてませんでした」
「バカ! バカ! ほんとバカ!
これで、呼んだモンスターが制御不能になったらどうするつもりだったんだよ!」
「すいませ~ん……」
アリスは、玄関の前でビリーに土下座した。
おそらくハイトの目には、どちらが領主でどちらが召使いか分からないような光景に映っているはずだ。
「とりあえず、キングブレイジオンにも謝らなきゃいけないよ。
アリス、立とう。責任は、全部アリスが取らなきゃいけない」
「はぁい……」
アリスとビリーは、キングブレイジオンのところまで一緒に歩き出した。
ブロックを焼き続ける炎は、まだ消えていない。
モノがモノだけに時間がかかっているようだ。
「これで焼けなかったら、ブロックのビジネスが完全に終わってしまう……」
アリスが、小声で呟きながらキングブレイジオンのすぐ後ろまでやってくると、キングブレイジオンの手にあった炎が消え、目の前にあったブロックが全て灰の形に変わっていた。
「ありがとうございます、キングブレイジオン!
そして、私たちのわがままに付き合わせてすみません……」
アリスは、キングブレイジオンに頭を下げた。
その時、アリスの正面から声が響いた。
「見つけたぞ、キングブレイジオン!」
「まさか……!」
アリスが顔を上げると、そこには見覚えのあるモヒカンの男性、ジェイドが立っていた。
「『ネオ・アレマ解放戦線』に見つかった……!」
初対面で、突然キングブレイジオンの名を出されたことを、アリスは咄嗟に思い出した。
ハイトと、キングブレイジオン本人も、ジェイドを見つめている。
でっち上げのバトルではない、本物のバトルが始まろうとしていた。
すごい火力の持ち主、キングブレイジオン。
このまま第11話まで一気に進んでいきます。
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