第10話 紅炎の王者、降臨!③
敵とのバトルではなく、ただブロックを斬るためだけにトライブを呼んだこと。
そのことは、アリスの顔の向きでトライブにも分かっていたようだ。
「もしかして、敵はこのブロック?
このブロックの色、私がつい数分前に倒した敵の残骸でしょ」
「ん……? 数分前……?」
アリスは、トライブの言葉に1ヵ所だけ引っかかるところがあったものの、「あ、そうです」と返した。
「あの、ソードマスター。この大きさじゃ、いろいろと使いにくいですので……」
「でも、どういう形に切るのよ。それが分からなきゃ。
私が勝手に切るわけにいかないもの」
「あっ……」
アリスは、シラオやビリーに顔を向け、息を飲み込んだ。
ビリーがため息をつく。
「それすら決めないで、召喚始めちゃったの……?
例えば、10リアだとこの大きさとか……」
「し――っ!」
ビリーが真相を口にしようとするのを、アリスは突然止めた。
「私たちのプロジェクト、ソードマスターにバレないようにしなきゃいけないんです……。
私たちのお金儲けだとバレたら、今度こそソードマスターが来なくなってしまいます」
その時、アリスは長身の人間の影を、背後に感じた。
ビリーの言葉よりも、むしろアリスの言葉でトライブの足が動いた形だ。
アリスが後ろを振り向くと、頭一つ分だけ背の高いトライブが鋭い目線でアリスを見つめている。
終わった、とアリスは心の中で呟いた。
だが、トライブは決してそのような「冷たい」反応を見せなかった。
「このブロックで硬貨を作るってことね。しかも、サイズも決まっていない。
とりあえず、3cm×3cm、厚さ1cmほどの四角形の硬貨で切っていいでしょ」
「それだったら……、お金にぴったりですね。お願いします!」
「俺からも……、お願いしますっ!」
アリスとシラオが、トライブに向けて頭を下げると、トライブはうなずいてブロックの山へと駆けていった。
「いいのか、本当にお願いしちゃったよ……」
心配そうな表情で成り行きを見つめるビリーに、アリスが頭の後ろで腕を組んでうなずく。
「大丈夫です。ソードマスターは……、私と違っていろいろデザインセンスありますから」
「前に、戦うファッションモデルとか言ってたような気がするし……。
そのあたりは、アリスの方がトライブのこと知ってそうだから安心はしてるけどさ」
3人の目の前では、トライブが自ら打ち砕いたブロックを、アルフェイオスでさらに細かく切っていく。
自ら提案したサイズだからか、一度ブロックの上に剣を入れる場所を入れ、それから力一杯下まで切り裂いていく。
3cmごとに入れるので、ブロックの縦方向だけでも10回、横方向で5回剣を入れないといけないが、トライブは慣れた手つきで、次々と切り込みを入れていく。
「硬貨って、こんな感じで作られているんですね」
「アリス、今まで硬貨持ったことなかったのかよ」
「あまり持ったことないです。
『オメガピース』でも、ほとんど紙幣でなんとかなりましたから……」
そこで、アリスはビリーに顔を近づける。
「私、ソードマスターが提案したサイズよりも大きなお金を考えていました。
そうですね、10cmぐらいの」
「いや、歴史上のお金を考えても、たぶん10cm四方は大きすぎるから」
二人がそう話している間に、トライブが縦横各3cmほどの大きさまでブロックを切り分けた。
現状、高さだけがかなりある。それを1cmの薄さに切る必要があった。
「ここからが大変だぞ……」
ビリーが、身を乗り出してトライブの動きを見つめる。
すると、トライブはブロックを横から見つめ、アルフェイオスを水平に動かすしぐさを見せた。
そして、剣を持つ手に力を入れた。
「はっ!」
トライブが水平方向にアルフェイオスを入れると、いくつものブロック片がその風に乗って地面に飛び散った。
そのいくつかが、アリスたちのすぐ前に落ちてきた。
「あっ……」
アリスがその破片を二つ拾うと、全く薄さが違っていた。
一つは水平なのに対し、もう一つは左から右に行くにしたがって薄さが半分ほどになっている。
それを後ろから見たシラオが「あちゃー」と言いながらアリスの横にやってきた。
「これは、全く違うサイズのお金ですな……。
ソードマスターと言われる剣士とは言っても、なかなか正確には切れないわな」
「そうですね……。
ソードマスターは、敵と戦うために剣を抜くので、それで決まった形を作るの、得意じゃないのかも……」
しかもトライブは、一度剣で目印をつけているので、一つのブロックを粉々にするだけでも5分近くかかっている。
アリスが召喚している間に、山ほど残っているブロックの中の二つしか崩せないペースだ。
「裁断機とか、機械を入れられたらなぁ……」
「アリス。そんなお金、領主の館にはないって……。
そもそもブロックをお金にしないで、もっと資材に使えるような形にすればよかったんだよ……」
「ですね……」
ビリーの言うとおりだ、とアリスは小さな声で呟き、下を向く。
シラオも、罪深そうな表情でアリスの顔を覗き込む。
「領主さん。
ブロックを使ってお金を増やすって、言い出しっぺは俺だから、俺が謝らなきゃいけない案件だ……」
「いや、お金を増やしたいって私も思ってましたし、ソードマスターを呼んだのは自分ですから」
やがて、二つ目のブロックを切り終わった頃にアリスの胸が痛み出し、無駄な召喚が終わった。
トライブがこの世界を去る前に、アリスが「ごめんなさい」と言わなければいけないほどだ。
「もう、ブロックでお金を作るの、なし!」
トライブの姿が完全に消えると、ビリーが倉庫から大きなブルーシートを持って、残ったブロックにかぶせた。
トライブが作り出した破片は、ゆうに1000を超えているが、形がほとんど揃っておらず、とても「アレマ領のお金」として使えるようなものではなかった。
一度もそのような剣の使い方をしてこなかった「剣の女王」にとって、この出来栄えはデザインセンス以前の問題だった。
「でも、このまま放置するのは、何かもったいないです。
片付けたときのように、召喚でシーショアの街まで持って行きましょうよ」
「僕、ブロックを持ってスクワットは嫌だから!」
アリスとビリーが同時にため息をついた、その時だった。
言い争いを見ていたシラオが、二人の真ん中に立った。
「あの……。
たぶん、これセメントで作ったブロックだから、もしかしたら燃えて灰になるかもしれんわな。
灰の形で売ればいいような気がするんだけどなー」
「灰……!」
質量がどう変わるかはさておき、ブロックの形より灰の形にした方が持ち運びがしやすい。
あとは、そのブロックを燃やす人の問題だった。
「ソードマスターにあんなことさせちゃったからなぁ……。
あの直後に『オメガピース』に召喚なんて厳しいかも。
お姉ちゃんにお願いしたら本当に怒りそうな気がする……」
アリスは、空に手を伸ばしたきり、ジルのことを選択肢から外した。
そこに、アリスの脳裏にアイデアが思い浮かんだ。
「キングブレイジオンを連れてきましょうよ!
このブロックを一瞬で焼き尽くしてくれそうですもの!」
「い……、いいのかよ。
他人が召喚したヒーローだぞ……?」
「だから、こうするんです……!」
アリスは、右手の人差し指で空をなぞるように文字を書いた。
「『キングブレイジオン、募集!』って貼り紙を出せば、もしかしたらそれを召喚する人が来るかも知れません」
「ないないない!」
「ビリー。領主が困ってます、というように紹介すれば来てくれると思います!」
「まぁ……、それなら来るかも知れないけど……、それでどうなるかは知らないからね」
アリスは、心の中で「よしっ」と叫び、シラオに時間を取らせたことを謝ってから、館の中に入っていった。
紅炎の王者、次回降臨です!
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