第10話 紅炎の王者、降臨!②
アリスは、赤魚を届けに来たシラオの後ろに回り込み、外に向かって腕を伸ばした。
「あそこにブロックが見えますね」
「えっ、ブロック……?」
「そうです。あれは紙よりもずっと重いですよね。
だから、今日からあのブロックをアレマ領のお金にします!
ブロック1個と、例えば1000リアで交換できるって決めてしまえばいいんです」
アリスが「ねっ」と言おうとして、ビリーに目を向けるや否や、ビリーがアリスの前に飛び込んできた。
「アリス! あれ、お金にしては重すぎるだろ!」
「てへっ」
アリスは、思いつきで言ったことを少しも恥じることなく、ビリーに舌を出した。
そのすぐ後ろで、シラオがブロックの山に向かって走って行った。
「めっちゃすごいわ、これ!
どうして領主さん、こんなもん持っとるんですか!」
「えっと……、偶然です……。本当に」
「偶然というか、剣士が出てきたら絶対にあの方法で倒すから、ブロックが残るけどな」
ビリーが苦笑しながらアリスに告げたとき、シラオが早速ブロックを持ってきた。
ちょうど赤魚が入っていた発泡スチロールの箱に収まっている感じではあるが、持ちづらそうだ。
「お兄さんの言うとおり、お金にしてはめちゃ重いわ、これ……」
「だから、これを商売に使っちゃダメなんだって、アリス」
同じ容器で持ち帰れるとは言え、中身が魚とブロックでは重さが全く違う。
アリスは、シラオから受け取った発泡スチロールの箱を、試しに持ってみる。
「ごめんなさい。そこまで重くないと思ってましたが、実際重いです……」
アリスは、召喚術で転送されたブロックを、とりあえず積み上げただけで、実質何も持っていない。
その重さについてはほとんど意識することがなかったのだ。
「これ、さすがにシーショアまで持ち帰れませんわ……。
それに、お金と言うくらいだから、大きさが揃ってないとかないよな」
「ギクッ……」
アリスは、一歩、二歩と後ずさりした。
アリスの筆跡以上に、区別がついてしまう「お金」を提案していることを、アリスは今更思い知るのだった。
当然、ブロック1個で「重い」と訴えられた以上、建築資材とは言え、シラオにシーショアの街まで持って行かせることもできそうにない。
「アリス! シラオさんまで巻き込んで、お金作りの茶番見せちゃダメ」
「えーっ、お金になると思ったのに……」
アリスは、頭を軽く撫でつつ、シラオの持ってきたブロックを元の山に戻そうとした。
そこに、シラオが息を飲み込み、手を叩いた。
「いい案があった!」
「えっ……、シラオさん、何か思いついたんですか……?」
「たしか、領主さん、この前シーショアにいらした際に、女剣士を召喚しとらんかい?」
「あー、してました……。
たしか、解放戦線の人と初めて会ったときだったと思います」
人目につきやすい場所でバトルをしていたこともあり、トライブが「ネオ・アレマ解放戦線」と戦ったことは、既にシーショアの街に広まっているようだ。
しかも、領主アリスが女剣士を呼んだということも知られたようだ。
「で、その女剣士がこのブロックも斬った?」
「どうして分かったんですか?」
「見れば分かるわ。
だって、この鋭い切り方、かなり強力な剣で切ったとしか思えんわ」
何も話していないのに、シラオに次々と真実を明らかにされる。
アリスは、震えながらシラオの質問とツッコミに答えるしかなかった。
「その通りです。
私が召喚した女剣士が、ブロックでできたモンスターを破壊しましたから……」
「ならな……。
その女剣士に、このブロックを小さく切ってもらって、アレマ領のお金を増やせばいいよなぁ……、って」
アリスは、2秒ほど考えて思わず拍手した。
だが、ビリーに顔を向けた瞬間、アリスはビリーの表情が曇っているのを見てしまった。
すぐさま、ビリーがシラオの前に出て、顔を見上げながら告げた。
「あの……、シラオさん……。
領主がバカだからって、シラオさんまでそれに便乗する必要なんてないですからね……」
すると、シラオが腕を組んでビリーを見つめた。
「あのな……、言っとくが、俺もバカ。
だからこそ俺は、こんな魚を仕入れて売るだけの仕事しかできん。
この前の10万リア紙幣に飛びついたのも、そういう脳みそしかなくてな……」
「領主がバカだと、領民もバカになるのか……。
本当にアレマ領、ダメになっちゃうよ、こりゃ……」
「ビリー。本当にそうですかね……」
アリスが話に割り込むと、二人は同時にアリスに顔を向けた。
「私は、シラオさんの言ってること間違てるとは思わないです……。
アレマ領で、一番強い剣士は、私のソードマスターですもの」
「いや、それは分かるよ。あれだけの力を見せてるんだから。
でも、いかんせんトライブは召喚だろ。短い時間で細かく切るわけにもいかないだろうし……」
すると、言い出しっぺのシラオが首を左右に振ってビリーに告げる。
「いやいやいや!俺が持ち運べればいいんだわ」
「俺、が……」
ビリーの開いた口がふさがらない。
「この提案、ビリーが飲まざるを得ないですね。よかったです、シラオさん」
「いやいやいや。あと、トライブがそのお願いを聞いてくれるかどうかもあるんじゃ……」
「聞かせます。私とソードマスターの信頼の力で」
「いいんかな……。
そもそも、俺たちがピンチの時に駆けつけてくれる存在として、ずっと召喚していたはずなのに……。
って、アリス……、人が言ってるそばから召喚始めるな!」
ビリーの話も終わっていないうちに、アリスは空に向かって手を伸ばした。
「不可能を斬り裂く風を呼び、未来へと導く光を纏う、剣の女王よ。
我が大地の命運を、いまその腕に託す。
その魂が許すなら、我が声に応え、凛々しくも勇ましき一撃を下せ。
そして、この地にもたらせ! 穢れなき、財貨の輝きを!」
「ん……? 財貨……?」
アリスの詠唱を何度も聞いてきたビリーは、この日の詠唱に出てきた言葉が喉に引っかかった。
アリスがあえて言葉を変えているとしか思えなかった。
それに対してアリスは、ビリーに薄笑いを見せながら顔を向け、もう一度目線を空へと戻した。
「召喚! トライブ・ランスロット!」
青白い光は、いつものようにアリスの前に現れた。
だが、アリスは今回、特に祈るような気持ちで青白い光を見つめていた。
事が事だけに、召喚されるトライブがアリスたちの魂胆に気付いて、そっぽを向いてしまう可能性さえある。
それでも、アリスは青白い光に向け、小さな声で呟いた。
「ソードマスターの力が、必要なんです……」
アリスが呟いた瞬間、青白い光の中に長身の女性の姿が映り始めた。
シルエットから、トライブが声に応えてくれたことがすぐ分かった。
そして、青白い光の中が徐々にフェードアウトすると、トライブが現れ、アリスに振り向いた。
その瞬間、アリスは息を飲み込んだ。事が事だけに。
「あの……、ソードマスター……。先に言っておきます。
今回は、ちょっと無理を言って、召喚しました……」
「アリスがそう言うってことは、雑用ね」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」
何もかも先回りでトライブに読まれてしまったアリスは、震える声しか出すことができなかった。
だがトライブは、アリスのうろたえる声に少しも動じることなく、アリスの目が見つめているブロックの山へと歩き出すのだった。
「もしかして、ソードマスター……。お願いしたいこと、分かってるのかも……」
トライブをそんな用事に使うんじゃありません(((
紅炎の王者は、次々回出てきます。
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