第10話 紅炎の王者、降臨!①
「トライブ、召喚されてる時間長くなった?」
未だにアリスが目を開けることのない、「オメガピース」救護室。
ソフィアが、5度目の召喚から戻ってきたトライブに声を掛けた。
「そうね……。
バトルの後始末も少しやったし。私の責任で」
「どんな相手と戦ったの?」
「ブロックだったか、そういうのでできている噴水のモンスター。
だから、アルフェイオスで斬ったらバラバラになったのよ」
「へぇ……。
あっちの世界では、本当に突然変異が多くなってるのね……」
ソフィアが、トライブをその話に興味を持ったような目で見つめる。
「そう。もし、アリスから呼ばれるようなことがあったら、戦ったほうがいい。
敵は選べないけど、戦い甲斐のある敵をアリスが連れてくることもあるわ」
「私、呼ばれるかな……?」
救護室の外に漏れまいと、小さな声でソフィアが告げた。
「ソフィアのこと、アリスは、まだ仲間だと思ってるんじゃない?」
「本当に、そうかな……。
私は、アリスに兵士の引退を勧めた身だし、トライブの話を聞いてると、あっちの世界でもやりたい放題。
なんか、アリスが領主だと、思った通りダメな領土になるかも知れない」
「頑張ってるわよ、アリスは」
トライブがフォローするも、ソフィアは首を横に振る。
「アリスの心の傷は、深いと思う。
アリスはポジティブな人間に見えて、トライブのように挫折から立ち直る力はないのだから。
だからね……、私たちの目に見えるこの世界では、アリスはこのまま眠ってもいいのかも知れない」
「どうなのかしら……。
永遠に、向こうの世界に飛ばされることが、アリスにとって幸せなことなのか……」
トライブは、ソフィアの前で腕組みを始めた。
何度か首をかしげた後、トライブはこのことを告げようと決心した。
「私たちのいる世界では1時間だけど、アリスは2ヵ月転送されてるって言ってたわ……」
「2ヵ月……。
そうなると、いよいよ私の言ったことが現実になるのかも知れない……」
「そうかも知れない……。
でも、アリスが戻りたいって言ったら、戻してあげる方法を、私は探したいかな……」
「トライブらしい。
どこまで真面目なのか分からないけど」
ソフィアの一言に、二人は同時に笑った。
~~~~~~~~
ミッドハンドの街の騒動から数日後、アリスがビリーを執務室に呼んだ。
「そろそろ、次のお金儲けしませんか?」
「そうだね……、って、なんか目的が変わってないか?」
「えっ? お金儲けしたくないですか?
アレマ領のために」
アリスが立ち上がるのを見て、ビリーは首をかしげた。
「そもそも、工場を誘致するお金を手に入れるために、いろいろなビジネスに手を出してきたんでしょ」
「そういう時期もありましたねぇ……。
でも、私が狙ってたのはずっと、お菓子工場じゃなくてお《・》菓子です」
「だろうな……」
ビリーが苦笑するのを見て、アリスは首を横に振った。
「お金さえあればお菓子が買えるってことに気付いたので、工場はいいかなって。
それに下手に山を越えなくても、シーショアの街にいる商人にお菓子を船で運んでもらえばいいんですよ」
「あの、全裸領主を生んだ街で、か……」
アリスは、ビリーのツッコミに舌を出した。
10万リア紙幣を水路に落としてからの記憶が、アリスの中で嫌でも蘇ってくる。
「そ、そうですね……。全裸で名前を売りました」
あれ以来、レギンズが何度か領主の館を訪れては、アリス用の服を贈っている。
だが、レギンズもシーショアの街に戻ればいい顔をされないようだ。
「だから……、迷惑を掛けたシーショアの街の人々に、何か恩返しをしたいなって……」
「アリス、それ本気か?
アリスらしくない言葉だけど……」
「えっ、何か言いましたか?」
息を飲み込んだ音を立てて忘れようとしても、ビリーの耳にはその言葉が残っていた。
「シーショアの街に恩返し。そう言ってたぞ。
少なくとも、領主の館よりお金を持っている人たちに、何が出来るって言うんだよ」
「あー……。
たしかに、シーショアのほうが生活よさそうですものね」
そう言って、アリスは執務室の窓から外を眺めた。
そこで手を叩いた。
「私、ちょっといい考えを思いついたんですけど、ビリー、いいですか……?」
「またバカな思いつきじゃないだろうね……?」
アリスは、ビリーの声に耳を傾けることなく、腕を真っ直ぐ伸ばした。
「あのブロックを売ればいいんですよ」
「ブラックファウンテン……。
たしかに、一度邪悪な魂に取り憑かれたとは言え、建築資材としては使えるものな……」
「でしょ、でしょ!
で、この前のように、召喚でブロックを運び続ければいいんです」
「あー……、今回もそれ……」
ビリーはアリスの言葉を何気なく聞いていたが、数秒経って「あれ?」と言葉を挟んだ。
「もしかして、僕をまた100回くらい召喚させるとかじゃないよね」
「イエス。
だから、この前のように、詠唱と召喚が終わるまで、ブロック入りのバッグを100回持ち上げてもらいます」
アリスの言葉が終わらないうちに、ビリーがため息をついた。
「あれ、召喚してる側は時間的距離もないし、かなり楽なんだからな。
こっちは、重たいものを持ったままスクワット100回みたいなことになってたんだぞ」
ビリーは、思い出したように腰に手を当て、痛みが残っているふりをアリスに見せた。
「でも、リアカーで何往復もするよりマシですよね。
シーショアまでは、ミッドハンドよりもかなり距離があるわけだし」
「だよな……」
アリスに正論を突っ込まれ、ビリーはそれ以上返せなくなった。
そのまま、領主の館の外にあるブロックから目を反らし、天井を見上げた。
「僕たちが、風使いでも召喚できたらいいんだけどな……。
風に乗ってシーショアまでブロックを運んでくれる……」
「私も、同じことを考えました。
でも、『オメガピース』にロクな風使いがいなくて……、いたとしても名前を知らないです」
「強い魔術師は、だいたいが使う属性を一つや二つに絞ってるから、
そもそも風というマイナーな属性で最強を目指すのが少なそう……」
ちょうどその時、玄関で来客を告げる鐘が鳴り響いた。
「領主さーん!
追加の赤魚をお持ちしましたー!」
全裸騒動以来、シラオが初めて領主の館にやって来た。
アリスが勝手に作った10万リア紙幣を現実にただ一人渡したものの、それをなくしたことというところまでは、アリスたちにも分かっていた。
ただ、本人が口にするまでは特に触れないと決めた。
「ありがとうございます。
あの赤魚、本当においしかったですよ!」
「そう言ってもらえると嬉しいですなぁ……。
お金よりも、そういう感想の方がもらえて嬉しいよ……」
シラオの目線は、アリスの顔ではなく、アリスの手元にあった。
「今回は……、何もなさそうだなぁ……」
その言葉に、アリスの口がいち早く動き出す。
「シラオさん……?
もしかして……、お金ですか……」
「そうそうそう!
あの、紙で出来たお金……、10万リアって書かれたお金……!」
そう言うと、シラオは首を下に垂れた。
「風で飛んで行ってしまったん……。
なかなかの大金を手に入れたと思っとったのに……」
「すいません……、あれはもう、作らないことに決めたんです。
私が、シーショアの街まで行って、水路に落として台無しにしちゃったので……」
アリスが残念そうな声で告げると、シラオがため息をつきながら両手を合わせ、頼み込む。
「10万リア手に入った、とかみさんに言っても信じてもらえなかったんだ……。
だから、今度は飛んでいくお金じゃなくて、ちゃんとしたお金が欲しい……」
どうやら、シラオも紙のお金は欲しくないようだ。
それは分かっていても、領主の館にもお金がないアリスにどうすることもできなかった。
だが、アリスがシラオから目を反らしたとき、遠くに積み上げられたブロックが見えた。
「あっ……! お金だったらいいものがあるかも知れません……!」
「ほ……、本当かい……!」
「私の思いつき、聞いてみますか?
ホント、思いつきですよ?」
アリスは、シラオの目が丸くなるのを見て、大きく息を吸い込んだ。
嫌な予感を察したビリーが後ろから近づいてくることなど、なるべく気にしないように。
10話は、前に出てきた正義のヒーローが今度こそ登場?
そこに至るまでのドタバタを楽しんで頂けると幸いです。
応援よろしくお願いします!




