第9話 新しい仲間を召喚したい!⑤
「不可能を斬り裂く風を呼び、未来へと導く光を纏う、剣の女王よ。
我が大地の命運を、いまその腕に託す。
その魂が許すなら、我が声に応え、凛々しくも勇ましき一撃を下せ。
そして、この地にもたらせ! 穢れなき、正義の輝きを!」
アリスの手には、先程とは比べ物にならないほどの力が集まり始めていた。
短い時間で2回召喚に失敗したアリスは、今度こそ成功すると確信し、叫んだ。
「召喚! トライブ・ランスロット!」
青白い光の中に、トライブのシルエットが映し出される。
金色の髪と長身の体、そして今にも激しく剣を繰り出しそうな強い手が、アリスにはっきりと見える。
そのさなか、鋼鉄の男性が吐き捨てる。
「やっぱり、あの女剣士を捨て身の勝負に出すつもりか。
領主ともども、踏みつぶされるまでだがな」
「それでも、『剣の女王』は負けないと信じます!」
やがて、青白い光の中からトライブが姿を現し、すぐにブラックファウンテンにアルフェイオスを向けた。
「アリス。これが相手?」
「はい……。黒い気体を、頭から噴射します!」
トライブはアリスの声にうなずくと、一度ブラックファウンテンを上から下まで眺め、それから走り出した。
だが、アリスは早くも戸惑った。
「ソードマスターが、上に剣を向けない……」
トライブがバルゲアで見せたバスターウイングを、ここでは使わない。
ブラックファウンテンが、これまで以上のスピードでトライブに向かって歩き始めたと思えば、突然大股でトライブの真上に右足を動かした。
「ああっ!」
だが、アリスの心配をよそに、トライブはブラックファウンテンの足の影に入ったところで、アルフェイオスの先を上に向けた。
「はああああっ!」
ブラックファウンテンの右足に向けて、トライブは勢いよく剣を突き刺した。
瞬間、バランスを失った相手の体がよろけ始めた。
『ぬおおおおおおお!』
「女剣士……、なんて汚い手を……。
こんな戦い方は……、私の想定外だ……」
トライブを踏みつぶし損なったブラックファウンテンが、今度は左足で踏みつぶそうと足を上げようとする。
だが、トライブは左足が上がる前にアルフェイオスを左足に深く突き刺し、左足のつま先を真っ二つにした。
左も右もバランスを失い始めたブラックファウンテンは、二本足で立っているのもやっとだ。
「卑怯だああああああ!」
鋼鉄の男性が叫ぶ中、トライブはブラックファウンテンの目の方向に、アルフェイオス真っ直ぐ向けた。
そして、落ち着いた表情で鋼鉄の男性を見つめた。
「巨大な体を支えきれなくなったら、あなたはもう負けよ。
頭から何かを噴射しようとしても、足を気遣ってできないはずよ」
「なんだと……っ!
女剣士を3分でギブアップさせるための巨大化だったはずが……、そこまで読むとは!」
「私が、巨大な敵とどれだけ戦ったと思ってるのよ!」
「強い……」
アリスは、巨大な相手に全く怯えないトライブを見つめるだけだった。
戦闘中でさえ凛々しさを見せる女王は、この日も健在だ。
そして、アリスの目が見つめる中で、トライブの攻撃が始まった。
「はあああっ!」
左足のつま先を砕いたアルフェイオスが、続いて左足の足首を一撃で破壊する。
それから、左足を素早く切り刻んでいく。
徐々にブラックファウンテンの体が左に傾き始めた。
「バスターウイング!」
トライブは、ブラックファウンテンの足の間から背後に移り、アルフェイオスの先を高く上げた。
そして、ブラックファウンテンの首が振り向く間もなく、背中を深く斬り裂いた。
ブラックファウンテンの体を作っていたブロックが崩れ始め、体がよろける。
『グオオオオオオオ……』
ブラックファウンテンが苦しそうに唸る中で、トライブが相手の正面に回り、再びアルフェイオスを高く突き上げた。
「バスターウイング!」
ブラックファウンテンの頭の高さまで飛び上がったトライブの前に、相手は何も攻撃できない。
トライブが頭から勢いよくアルフェイオスを突き刺した。
「どうしてだっ!」
苛立つように地面を踏みつけた鋼鉄の男性の真横に、トライブが着地し、軽く息をついた。
そして、相手が自分から崩れていく音を、振り向くことなく聞いた。
「剣の女王」、完勝だ。
「覚えてろっ!」
悔しそうに走り去っていく「ネオ・アレマ解放戦線」の鋼鉄の男性を、アリスはにやけながら見つめた。
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「アリス。
ちょっと聞きたいことがあるわ」
アルフェイオスを鞘に納めると、トライブがアリスの前に近づいてきた。
「どうしたんですか……?」
「アリス、ここに来てどれくらい経った?」
アリスは、思わず息を飲み込んだ。
ものすごく当たり前のことを、どうしてトライブに尋ねられるのか分からなかった。
「えっと……、もう2ヵ月になります」
「やっぱり……。
召喚されてるせいで、私のいる世界とは時間の進み方が全く違うのね」
「はい……」
「その間ずっと、アリスがアレマ領の領主ってことでいいのよね」
「やばっ……。なんで……」
アリスは、思わずビリーに振り返った。
以前領主に関する質問をトライブにされたときに、トライブの召喚を切った記憶が蘇ってきた。
「なんで僕に聞くんだよ。領主ってことで間違いないだろ」
「あ、言われた……」
アリスは、ビリーから目を反らすこともできずに、トライブに背を向けてうなずいた。
それを傍から見ていたトライブが、アリスの目の前まで歩いてきて、中腰になる。
「アリス、自信を持ちなさい。
私は、2ヵ月も領主をやってることを、バカにしてるわけじゃない」
「ソードマスター……」
トライブの顔は、いつになく微笑んでいた。
「たとえ私や、仲間の力を借りていたとしても、アリスが領主として頑張っていることを、みんなきっと認めてくれるはずよ」
「……バカ領主ですけどね」
アリスが小声で告げると、トライブが首を横に振った。
「バカだろうが、アリスは領主よ!」
その時、ミッドハンドの街の空を光が取り戻した。
黒い気体はその光の中に吸い込まれて、徐々に姿を失っていく。
アリスの背後で、喜び合う街の人々の声が聞こえてきた。
そして、その中から聞こえてきた一つの声に、アリスもビリーも、そしてトライブも振り向いた。
――あの女、文字通りクイーンだ! ミッドハンドの街に光を取り戻した!
――アレマ領が本当に困った時に助けに来てくれる、女神のような存在!
「あ……、やっぱり私じゃなくてソードマスター……」
アリスは、声を上げた人にはっきり見えるように、首を横に振った。
「私です! ソードマスターを呼んだの!
ていうか、私がアレマ領の領主です!」
すると、一人の街人がアリスの前に立ち、右手を伸ばした。
伸ばした先は、先程トライブが崩した、ブラックファウンテンの残骸だった。
「じゃあ、このブロック、片付けてね。
どうせ領主の館まで2時間くらいで行けるでしょ」
「ああああああああ……」
アリスの周りに、続々とリアカーがやって来て、口々に「どうぞ」と告げられる。
街に勝手にやって来たモンスターを、街に勝手にやって来た女剣士が破壊したという理由で、街人は一切手伝わないようだ。
そこに、トライブが声を掛けた。
「私も手伝うわ。時間が許す限り」
アリスは、トライブに「ありがとうございます」と告げようとして、声が止まった。
召喚して3分をとっくに過ぎていた。もうすぐ6分になろうとしている。
「あれ……、何でまだソードマスターがいられるんですか?」
「アリスが、レベルアップしたからじゃない?」
ビリーがアリスに声を掛けたとき、ようやくアリスは胸が苦しくなった。
だが、いつもより長くトライブを召喚出来たことに間違いはなかった。
23日から10話になります!
10話では、そろそろキングブレイジオンが登場する……はず。
応援よろしくお願いします!




