第9話 新しい仲間を召喚したい!③
領主の館から一番近い街と言える、ミッドハンドの街。
アリスたちがたどり着くまでの1時間で、最初に見えた黒い闇は消えるどころか、どんどん大きくなっていくように、アリスたちには感じられた。
「ビリー。なんか、毒が舞っているような気配がします……」
ミッドハンドの街の入口に入ろうとしたとき、アリスはその場で竦んだ。
食べ物の匂いとは真逆の、人がその場で生きてはいけないような「死」の臭いが漂っていた。
「毒と言われれば、なんかそんな感じするけど……」
暗闇に見えたのは、そこだけ光が届かないからではなく、街の中を飛び交っている黒い気体が原因だった。
その黒い気体の中で、街の人々は不安そうに空を見つめている。
道の反対側にあるはずの店が、ようやく見えるほどに視界が悪くなっている。
「空の光が、全く届かない……。
こんなことって、あるのかよ……」
ビリーも空を見上げ、黒い気体が流れていく向きをその目で追った。
黒い帯状のものが、街の中心部から外へと流れていくのがはっきりと分かった。
そこに、一人の女性がアリスたちを目掛けて駆けてきた。
茶色に黒が混ざった、傍から見れば不思議な色をしたロングの髪を携えている。
「領主さま! 領主さま!
ご覧の通り、ミッドハンドの街が暗闇に包まれています!
このまま光が通らない街になってしまっては、作物は枯れ、1年じゅう空気が冷えてしまいます」
女性は、そこで髪を撫で、撫でた後の手をアリスに見せた。
女性の手は、ところどころ黒くなっていた。
「これ、人間の体にくっついてしまう、細かい粒の混ざった気体ですね」
「本当に、これが体に入ったらどうなってしまうか……。
なるべく、あの気体に背を向けて息をするしかないです」
「それは大変ですね……」
アリスも、女性から目を離して服を見た。
服が徐々に黒くなっていくのが、アリスにもはっきりと分かった。
「すいません。
誰がそういうことをやっているか、変な声とか聞きませんでしたか?」
今度は、ビリーが女性に確かめる。
「声というか……、鳴き声というか……。
なんか、街が暗くなる前に低い音がしたような気がします。
隕石が落ちたとか、そういうような音じゃなく……、突然街の中心から解き放たれた感じがします」
「どういうことなんだ……」
ビリーは、アリスの手を握り、気体の流れてくる方に向いた。
「人間か、生物か……、そのあたりの仕業だ。
自然に出てきた気体じゃないってことは確かだと思う」
「ですね。調べましょう」
アリスたちは、さらに街の中心部へと進んでいく。
普段であればにぎわうはずの街も、気体が入らないようにと、ほとんどの店が入口を閉ざしている。
「奥に入っていくにつれて、どんどん不安そうな人が増えていきますね」
店どころか、多くの家でさえもシャッターを閉めて、一切の外気をシャットアウトしている。
それでも、白くペイントされた家の壁が、その気体で黒くなっていくのは止められなかった。
そして、中央から噴水が出ているような形をした広場までたどり着いた。
そこまで来ると、ほとんど視界は遮られていた。
「明らかに、このあたりだ……。
あの黒い気体が出ているのは……」
アリスとビリーが、手掛かりを掴もうと首を左右に動かす。
すると突然、アリスたちの耳に「プシュッ」という音が聞こえた。
「……いま、何か聞こえませんでしたか?」
「聞こえた……。
なんか、噴水がまき上げられるような音かも知れないけど……、なんか水っぽくない……」
「まさか……」
プシュッ!
「やっぱり気体が……、噴水からまき上げられています……!」
「気体が噴水から出る、だと……!」
ビリーが、アリスの告げたことを確かめようと、手を額に当てて気体除けを作りながら、噴水に目を向けた。
すると、再び噴き出し音が上がり、上空に気体が吐き出されたのだった。
「誰かが噴水に……、悪さをした……」
噴水池の水がなくなっていたので、ビリーが噴水の中に入っていった。
すると、噴水の噴き出し口が見えたところで、ビリーの足が止まった。
「ビ……、ビリー。
どうしたんですか……?」
「中に……、黒っぽい獣がいる……!
目が、こっちを見てるんだ!」
「獣……?」
ビリーとアリスがともに叫ぶように言葉を交わしたのを合図に、突然噴水池から地響きが起こった。
――この街は、我がブラックファウンテンが支配した……。
「ブラックファウンテン……!」
噴水池が、わずか数秒で建物の3階ほどの高さまで突き上がり、ブロックで覆われた太い2本足で立った。
まさに、噴水に手と足がついたモンスターだ。
そしてビリーは、ブラックファウンテンの肩に捕まったまま、持ち上げられてしまった。
「こ……、こんな獣が、ミッドハンドの街にやって来てたの?」
ブラックファウンテンの鋭い目が、アリスを覗いている。
アリスは、ブラックファウンテンの足元で立ち竦み、腰を抜かしてしまうほどに震えていた。
ブラックファウンテンの下からは、その襲来で潰されて折れてしまった草木が姿を見せる。
アリスは、力いっぱい叫んだ。
「黒い気体を吐き出す噴水……、私、許せないです!」
アリスは、震えたままブラックファウンテンに告げたが、相手は高い声で笑うだけで、アリスを見下していた。
ほぼ同時に、アリスは背後から背の高い男性が近づいてくる気配を感じた。
「やっぱり、アレマ領主は現れたか。好都合だ……」
低い声が聞こえた瞬間、アリスは振り返った。
そこにいたのは、全身鋼で覆われた一人の戦士だった。
「あれ……、もしかして……、キングブレイジオンですか?」
暗闇で視界が遮られる中、アリスは真っ先に告げた。
だが、顔面までしっかり鋼鉄に覆われ、気体から完全にガードされている段階で、それは人違いだった。
「キングブレイジオン……。
それは、私たちがまさに今、追い求めている不届き者だ……。
こいつさえいなくなれば、私たちの計画も容易に実行できるのだがな」
「まさか……、『ネオ・アレマ解放戦線』さんですか?」
「よくもその名前を知ったこと……。
領主とは言え、絶対に触れてはいけない話題まで知っているとは、いい度胸だ……」
鋼鉄の男性は、ブラックファウンテンにまっすぐ腕を伸ばし、笑いながら告げた。
「まず手始めに、その男性を落とせ……!
仲間がいなくなるだけでも、領主には大きなダメージとなるからな……」
「ああっ!」
ブラックファウンテンが、肩を激しく揺らす。
ビリーは、力いっぱいブラックファウンテンの肩を掴んでいるものの、人間のように肩を回し始めたところで、ついに弾き飛ばされてしまった。
「ビリー……!」
アリスは、ビリーの落ちてきそうなところに走り、バッグそのものを投げ捨てた。
バッグがボスンと地面に落ちて1秒もしないうちに、ビリーがその上に落ちた。
「いたっ……」
ビリーは背中から叩きつけられたものの、アリスのバッグがクッションになり、背骨が折れるような痛みまでには至らなかったように、アリスには見えた。
「大丈夫ですか……」
「ありがとう……。大丈夫。
まさかクッションを作ってくれるなんて思わなかったよ……」
「いや……、私、それしか思いつかなかったので……」
「いいんだって。
アリスが、いい意味でバカだったって気付いたんだから」
ビリーが、腰を押さえながらもゆっくりと立ち上がった。
時折背中を押さえる。歩くことはできるようだ。
「ビリー、無理しないで下さい。
私が何とかします」
アリスは、ブラックファウンテンの顔を見つめ、腕を真っ直ぐ伸ばした。
「ビリーにまでこんなことするなんて、私、許しません……!」
さぁ、次回は召喚タイム!
アリスは、無事に姉・ジルを召喚できるのでしょうか!
応援よろしくお願いします!




