第9話 新しい仲間を召喚したい!②
「お姉ちゃんを召喚する方法……」
ビリーも寝静まり、星の光がひときわ輝く夜。
アリスは、ほぼ何もすることのない執務室で、便箋を取り出して、その中央に大きく「お姉ちゃん」と書いた。
炎の魔術師ジルのイメージ作りだ。
トライブを召喚する時に、アリスはいろいろなイメージを頭に思い浮かべた。
だが、ジルはトライブ以上に長い期間その顔を見ている関係だ。
言ってしまえば、アリスがその生命を授かった直後から姿を見ていると言っても過言ではない。
「まず、良く言えば努力家……。
でも、これはソードマスターのほうが、ずっと努力家に見えるしなぁ……」
アリスは、名前の周りに書き連ねた文字の中から、「努力家」という言葉を真っ先に消した。
その代わりに、消した言葉の横に「ガリ勉」という言葉を小さく書いた。
「お姉ちゃんは、小さい時から魔導書しか読んでいなかった。
家の中で魔術を使ったりして、火炎系の魔術は全て覚えていった……。
そういう人だから、炎の精霊とか……、それを司る炎の女神とか……、お姉ちゃんに力を貸した……」
「ジル」という名前からやや離れたところに、「精霊に慕われる人」や「炎の女神を呼び出した」と書いた。
炎の女神を呼び出すこと自体、「オメガピース」にいた時代に世界でも片手で数えられるほどの魔術師しか使えない高度な魔術であり、そもそもそれ自体が召喚とも言えるものだ。
「呼び出すのはお姉ちゃんだから、ここで女神という言葉を入れちゃダメか……。
表現できそうで、表現できない……」
アリスにとって最も苦しいのは、声に出して言葉を繋げられないことだった。
繋げてしまえば、たとえそれが失敗であっても、アリスの前に誰かを呼び出してしまう。
トライブを呼ぼうとして、見ず知らずの男の子を呼んだ、あの時の二の舞だ。
従って、詠唱を紙の上に書いてから、頭の中で召喚術を使うしか道はなかった。
「イメージ……」
アリスは、大きくあくびをして、そのまま執務室の机の上に突っ伏してしまった。
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「アリス! ねぇ、アリス!
こんなところで寝たら風邪引くだろうに!」
はっきりと耳に聞こえるいびきと、ビリーに背中を押されるような感触で、アリスは目が覚めた。
朝の眩しい光が、アリスの目に飛び込んでくる。
「あ……、おはよう……。
お姉ちゃんのこと考えてたら、寝落ちしてました……」
「そりゃ、これだけ小さな字を書いていたら、僕でも意識飛んじゃうよ……。
で、アリスのお姉さんの名前、ジルって言うんだね」
「はい。ジル・ガーデンスって言います……」
何気に、ビリーに初めて名前を明かしたと気付き、アリスはかすかに息を飲み込んだ。
「この紙、いろいろ見させてもらったよ。
ジルの強そうなところ、それに凄そうなところ、この紙にいっぱい詰まっているね。
逆に、いっぱいありすぎて、詠唱が長くなってしまうかも知れないけど……」
「そこなんですよね……。
昨日の夜も、いろいろ考えてたら、同じ言葉を2回使った詠唱とか出てきて、どうなんだろうと思いました」
アリスは、ビリーに向かって照れくさそうに髪の毛を撫でる。
すると、ビリーは「ん?」と小さくうなずいて、手を顎に当てた。
「その2回言ったワードって、ジルの一番の特徴なんじゃない?
もしよかったら、その2回言ったワードを僕に聞かせてくれないかな」
「え? いいんですか?
私が真っ先にボツにしたのに……」
「だって、ほら。
2回も出したってことは、その要素がジルの説明にかなり重要な言葉にならないかなって」
ビリーは、アリスが大事なキーワードを教えてくれるだろうと言わんばかりの目をして、アリスを待っている。
アリスは、心の中で「言わなきゃよかった……」と後悔し始めて、数秒ほど言葉を溜めた。
「我が姉」
「……それ、キーワードなの?
本当に、そんなありきたりな単語が、ジルを呼ぶためのキーワードなの?」
アリスは、こくりとうなずいた。
「あのさぁ……。
アリスの姉は、ジルしかいないじゃん?」
「いないですよ」
「それを詠唱に使うの、ズルくない……?
それだけで、召喚される人がジルって特定できるけど、
たぶん召喚術の神様が、そんな露骨な言葉を最後の祈り以外のところに使うことを許してくれないと思う」
「えー、ダメですかぁ……」
当然、トライブを呼ぶ時のように「召喚! ジル・ガーデンス!」という言葉で締めることになるが、その前から当たり前のキーワードを入れるのは反則のようだ。
「なので、僕がジルの詠唱を一緒に考えてあげるよ。
せっかく、夜中アリスがメモを作ったんだから、そのメモをなるべく膨らませるような形でさ」
「いいですねぇ!」
アリスは、寝落ち明けとは思えないほどに目を大きく開き、一緒に付きあってくれるビリーをまじまじと見た。
~~~~~~~~
朝食後しばらく経ってから、二人は執務室のソファに横並びになって座った。
「まず、大事なのは『炎の魔術師』であり、キングブレイジオンのような『炎の戦士』ではないことかな?」
「えっ……、お姉ちゃんは『オメガピース』にいるから、魔術師じゃなくて戦士ですよ?」
「そこらへんのニュアンスが微妙なんだよな……。
キングブレイジオンは、見た目自分から燃えてるような感じだけど、
ジルは炎の精霊とか、炎の女神から力を借りるから、戦士じゃなくて魔術師に思うけど……」
「違い……、かぁ……」
アリスは短く呟くと、思い出したように息を飲んだ。
「そう言えば、お姉ちゃん、炎の女神を呼び出す魔術に『歌姫の祝福』って名前つけてます」
「つまり、女神が歌声のように炎を解き放つイメージ。
じゃあ、ジルはその歌姫にとっての指揮者とか、共に歌い上げるミュージシャンとか……」
「あぁ……、それなんかいいかも知れません!」
ビリーの言った「指揮者」という言葉を、メモの比較的空いている場所に書き、その隣にアリスが思いついた「タクト」、そして「動かす」「操る」「メロディを紡ぐ」などの言葉を書き加えた。
「アリスの説明だと、炎の女神を呼び出す魔術がいくつかあって、
その中でジルが鍵として使うのが、アリスの言ってた歌姫という言葉だよね」
「そうですね。
歌姫のイメージは、お姉ちゃんが女神を呼び出すときに、絶対に出てきます。
『勇敢な』とか『赤々と燃える』とかだと、他の魔術師と被るので、お姉ちゃん、苦労したみたいです」
「それだったら、歌姫から連想される言葉を、詠唱にどんどん付け加えたほうがいいよ!」
「ですね……。
そのイメージを、いっぱい形にしてみますね……」
アリスは、夜から書き続けてきたメモ便箋から、この短い時間でビリーと共有できたイメージを別の便箋に詠唱の形で書き連ねた。
「とりあえず、詠唱を覚えるまでは、このメモをいつでも見れるように持ち歩きます!
ビリー、ありがとう!」
アリスが、ビリーに頭を下げたその時、執務室の窓から漆黒のドームが見えた。
前日アリスが執務室に入った時には見えていない上、その漆黒が黒い光のように見えた。
それも、領主の館からほんの数km先に出現したのだった。
「もう朝なのに、あそこだけ夜のまま……。
いったい、どういうことなんだろう……」
「たぶん、ミッドハンドの街だよ。
でも、僕だって何が起こってるか分からない……!」
「だったら、何が起きてるか調べるために、行きませんか!」
アリスは、これまでと同じようにバッグにいろいろなものを詰め、ビリーが着替えるのを待って、領主の館の外に飛び出した。
漆黒の闇は、時折ドームの外の世界をも暗闇に変えようと、黒い光を放っている。
その、日中には場違いなほどの漆黒の空間目掛けて、アリスたちは歩き始めた。
ジルと言えば、アリスを追放したキャラのはず。
果たしてこのイメトレの果てに、アリスはどうなるのでしょうか。
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