第8話 10万リアができるかな⑤
「キングブレイジオンを出せって……、私……」
アリスは、声のした方を振り返り、そこで息を飲んだ。
声を上げたのは、モヒカンの頭をした男性だ。
太い剣をアリスたちに向けている。
これで、「紅炎の王者」とまともに戦おうとしているのだろうか。
「召喚術を使えると思ってお前たちに声を掛けたのに、まさか両方ともキングブレイジオンを出せないなんてことはないよなぁ」
「出せないものは、出せないです!」
アリスは、正論を告げた。
キングブレイジオンを召喚することが出来るのは、プランテラの街で見かけた緑色の髪の青年だけのはずだ。
「キングブレイジオンに全ての計画を邪魔されている、ネオ・アレマ解放戦線に逆らうと言うのか」
「ネオ・アレマ解放戦線……。
すいません、初耳です」
アリスは、落ち着いた声で突っ込んだ。
するとモヒカンの男性は、戸惑いの表情を浮かべながらアリスに説明する。
「『ネオ・アレマ解放戦線』。
それは、この生ぬるいアレマ領を我々の手でスクラップ!
そして、バルゲートの支配に立ち向かう強い国家を作り出す!
そのために動き出した、解放戦線だ!」
「で……、あなたは、ネオ・アレまでが苗字で、マ解放戦線が名前ですか?」
「マ……?」
モヒカンの男性は、アリスのツッコミに吹き出した。
持っていた太い剣が、時折支えられなくなって上下に揺れる。
「俺の名は、ジェイド。
我らの計画を邪魔する者を討伐する、3戦士の一人だ」
「つまり、ジェイドさん。そして、解放戦線の皆さん。
私たちのアレマ領で、戦乱を起こそうとしてるわけですね」
「飲み込みが遅いな、オイ!
今頃になって、今のアレマを征服するって気付いたか!」
ジェイドがアリスに身を乗り出す。
アリスは反射的にうなずいた。
「この前、プランテラでじゃんけん大会を襲撃したのも、解放戦線ですか?」
「あぁ。
てか、何でこんなシーショアの人間が、そんな出来事を知ってるんだ?」
ジェイドがアリスを睨みつける目が、徐々に細くなる。
その中で、アリスは力強く言い放った。
「私、領主ですよ。アレマの。
だから、この領土の全てをひっくり返すような人間は、許しません」
「はぁ……?
こんな、バカっぽい女が……、領主だって?」
ジェイドが首を横に振ろうとしたが、しばらく考えるしぐさを見せた後でうなずいた。
「なら、話は簡単だ。
自称・領主のお前を料理してしまえば、アレマ領は我ら解放戦線のものとなる」
ここで、ビリーがようやくアリスの横に立って、耳打ちを始める。
「オイ……。
こいつ、アリスが自分で領主って言っちゃったから、本当に戦おうとしてるんだぞ。
ここは『ウソでした』と逃げたほうがいいよ。
キングブレイジオン出せないんだから」
「最初から出すつもりないですよ。
むしろ、『オメガピース』のソードマスターで応戦します」
「分かった」
ビリーは、ジェイドの手に持っているのが剣であることを確認して、アリスから離れた。
ほぼ同時に、アリスがジェイドに真っ直ぐ腕を伸ばす。
「私は、さっきも言った通り、キングブレイジオンは出せません。
でも、それに代わるくらい、とびきり強い女剣士をここに呼ぶことが出来ます」
「なら、その女剣士を呼べ。
この太いアイロンエッジを打ち崩せるとは、到底思わないがな」
アリスは、アイロンエッジの先に睨みつけた後で、手を空に伸ばした。
「不可能を斬り裂く風を呼び、未来へと導く光を纏う、剣の女王よ。
我が大地の命運を、いまその腕に託す。
その魂が許すなら、我が声に応え、凛々しくも勇ましき一撃を下せ。
そして、この地にもたらせ! 穢れなき、正義の輝きを!」
召喚したい存在をこの地にいざなう祈りを、アリスはその存在を思い浮かべながら叫ぶ。
どんな頑丈な剣を相手にしても勝負を決めてしまうほどの実力を信じながら、アリスは最後の祈りを告げた。
「召喚! トライブ・ランスロット!」
アリスの目の前に青白い光が現れ、その中に金色に輝く髪と、スラッとした長身がトレードマークの女剣士の姿が映し出された。
やがて青白い光が消えていくと、中からトライブが姿を見せた。
「あなたが、私の相手のようね」
トライブは、アリスから攻撃対象を告げられる前に、太いアイロンエッジを見ただけでジェイドにアルフェイオスを向ける。
何故、いま敵となったのかなど関係がない。
単純に、トライブがその剣を打ち破りたいと直感で感じたからだ。
やや遅れて、アリスが状況を説明する。
「あの剣士は、アレマ領をひっくり返そうとしています!
なので、ソードマスター。お願いします!」
トライブが小さくうなずき、ジェイドの顔を見つめる。
そして、素早く右足から前に踏み出していった。
「さぁ、来い! トライブ!」
ジェイドがアイロンエッジを振り上げ、トライブ目掛けて素早く振り下ろす。
だが、トライブは相手の動きを感覚で掴み、アイロンエッジの軌跡と一直線になるようにアルフェイオスを強く振り上げた。
「頑張れ、ソードマスター!」
二つの剣がぶつかる金属音が鋭く響いたと思えば、アイロンエッジがアルフェイオスを少しだけ下に押す。
そして、お互いの剣がトライブの肩の高さまで来たとき、二つの力は完全に拮抗した。
「この剣は……、どんな攻撃にも耐えうる……!
耐熱性の頑丈な剣だ!」
ジェイドが力いっぱい叫ぶ。
そのままアルフェイオスを叩き落とそうと、アイロンエッジを強く握りしめる。
だが、「剣の女王」の表情は揺るがない。
「これが、私の本気だと思う?」
それから1秒もしないうちに、トライブがアルフェイオスに力を入れ、アイロンエッジをジェイドの左へと弾き返す。
ジェイドもすかさずアイロンエッジを正面に戻したが、ひとたび狂いだした攻撃歯車をトライブが見逃すはずはなかった。
「はあああああっ!」
ジェイドが剣を正面に向けたとほぼ同時に、トライブはアルフェイオスを力強く振り下ろし、アイロンエッジの芯に命中させた。
あまりの衝撃にジェイドが目をつぶった時には、その手元にアイロンエッジはなかった。
「まだまだね。
太い剣だけで私を倒せるなんて、二度と思わない方がいいわ」
トライブは、跪くジェイドにアルフェイオスの先を突き出した後、ゆっくりと鞘に収めた。
戦闘が終わった瞬間、それまで物陰に隠れて戦闘を見つめていたレギンズが、トライブに向かって猛ダッシュし始めた。
「レ……、レギンズさん……?」
震え上がるアリスをよそに、レギンズがトライブの前に立つ。
「あの……、トライブ……、さん……?
もしかして、戦うファッションモデルですか……?」
「そう言われることもあるわ。
体格がモデルに似てるから、たまにそういう仕事も引き受けたりするけど……」
「ですよね……。
普通に歩いていてもファッションで注目されるのに、剣を抜いたら別人のように強くなるんですもの」
「ありがとう」
レギンズがトライブと握手を交わすと、トライブは顔をゆっくりとアリスに向けた。
「で、アリス。
どうしてこんな、シャツ1枚の姿になってるの?」
アリスは「まずい!」と声を上げて身を小さくしたが、全くサイズの合っていない男性用の服だったので、トライブには簡単に見破られてしまった。
「あ……、あの……。
話せば長くなりますから……」
震えるアリスの横で、レギンズが勝手に補足を始める。
「この少女、10万リア紙幣の束をそこの水路に落として、自分も一緒に水路にダイブ……」
「ああああああ、やめてええええええ!」
レギンズに全てを明かされる前に、トライブを消すしかなかった。
とりあえず、トライブに手を向けて「3……、2……、1……」と告げる。
一方で、トライブはその声の後ろで静かに言い残した。
――10万リアだったら、私の1ヵ月の収入にも届かないじゃない。
「ソードマスターっていう手、ありましたね……」
「それをやったら、もうピンチの時に、召喚の声に応えてくれなくなるけどさ……」
レギンズのところで、とりあえず帰るための服を買い、アリスたちはとぼとぼと領主の館に歩き出す。
やっていることの全てが裏目に出てしまった、そんな数日間だった。
だが、ビリーにはそれとは別に、気になって仕方がないことがあった。
「さっき、どうして僕もキングブレイジオンを召喚できるって言われたんだろう……。
僕、キングブレイジオンのことを何一つ知らないのに……」
「私もです……。
でも、あれ……? なんかビリー、炎の戦士がどうのって言ってませんでしたっけ……」
「あ、アリスの前で言ったかもしれない……」
ビリーはバージルと、そしてアリスはジルと深い関係がある。
しかも、ともに炎の使い手だ。
だからこそ、アリスとビリーにキングブレイジオンの気配を感じたのだろう。
今の二人には、そう結論付けるしかなかった。
だが、間もなくそうも言っていられない状況になることなど、二人は全く気付かなかった。
明後日から第9話です!
こんなバカばかりの小説ですが、ストーリーは少しずつ動いていますので、
これからもよろしくお願いします!




