第8話 10万リアができるかな④
「珍しいお札を作りました!
10万リア紙幣です! もし10万リア用意できる人がいましたら、よろしくお願いしますっ!」
アリスたちは、豪邸のような飲食店から行列がなくなるまで、10万リア持っていそうな人を探した。
すぐに渡せるように、手に10万リア紙幣の束を持ちながら歩いたものの、すれ違う人からもアリスの持っているものをお金だと思ってもらえず、二人の足取りは半ば諦めムードが漂っていた。
「とりあえず、休む?」
歩き疲れた二人は、海の見えるベンチに座り、そこで身を休めることにした。
「ここに190万リアがあるのに、みんなただの紙切れとしか思ってないです……」
「やっぱり、肖像画とかなくて、普通に10万としか書いてなかったら、みんな怪しむよね……」
「ですね……」
「それに、10万リア紙幣が発行されたということは、アレマ領の物価がそこまで上がっているのかと、逆に不安になっちゃう人もいるから……」
千リア紙幣や1万リア紙幣を飛ばして10万リア紙幣が作られたことは、通行人の大半は分かっているはずだ。
現実的にはその間の通貨がなければ、いきなり10万リア紙幣がないと生活できなくなる可能性を与えてしまうのだった。
つまり、10万リア紙幣が、昔の1リア紙幣というように。
「アリスさ。
お金を作るってことは、すごく重い責任が伴うんだよ。
アレマ領の経済を一気に変えてしまうくらいに……」
「けい……、ざい……。
処刑と罪人のことですか?」
「は? そんな単語も知らずに15年間生きてきたの?」
ビリーが呆れた表情でアリスを見つめると、アリスは首を小さく横に振った。
その時、海の方から来る南風が、突然強くなり始めた。
「風が吹いてきたね……。海だからしょうがないけど」
「ビリー、この風が私たちの運命を変える風になると信じましょうよ」
アリスが思い付きで言った言葉に、ビリーはうなずいた。
だが、運命はアリスの思惑とは真逆に動き出すのだった。
ブワッ……!
「ああああっ! お金が風で飛ばされた!」
「えっ……? どういうことだよ、アリス!」
ビリーがアリスに尋ねた時には、アリスはベンチから立ち上がり、海岸を転がっていく札束を追いかけ始めた。
「ベンチに置いてたお金が、飛んでったんです!」
領主の館にあった、ちょっとした厚紙で作ったわずか19枚のお札。
輪ゴムで止めていたとは言え、その軽さは風の力で簡単に飛んでしまうものだった。
「待ってええええええっ!」
走っても走っても、アリスの10m先を10万リア紙幣が人の走るほどの速さで転がっていく。
海から離れる方向なので、いずれは坂を上っていくかと思われたその時、アリスの後ろから再び強い風が吹きつけ、札束が舞い上がった。
「ああっ、今のうちにキャッチしないと……!」
アリスは、札束の降りてくる場所を狙って、後ろ向きに走り出した。
3秒もしないうちに、アリスが足を踏み外した。
「あっ……!」
ドボーン!!!!!
「あああああああああああ!」
海から街の中へと入っていく水路にアリスは気付かず、背中から水路にダイブ。
幸い水深が浅そうなので流れていくことはないものの、服は完全にびちょびちょだ。
そして、アリスの後を追って、お金も水路に向かって落ちていくのだった。
「まずい……っ!」
アリスは手を伸ばして10万リア紙幣をキャッチしようとしたが、陸上と違って自由が利かない水の中では、あと一歩届かなかった。
ビチョッという重い音を上げて、10万リア紙幣が水に浸かった。
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「アリス、大丈夫?
前を見ないで走ってるから……」
「ビリー、終わりました……」
水路に駆け付けたビリーに、アリスは上を向きながらため息をついた。
水路から這い上がれるところを探して、ようやく岸に上がったものの、アリスと札束は水に濡れていた。
札束は、紙と紙が完全にくっついていて、ところどころ形が崩れている。
輪ゴムから1枚取り出すと、10万リア紙幣は「100000」の文字がにじんで、何が書いてあるかも読み取れなくなっていた。
「あー……、文字が読めなくなってるー……」
ビリーが、アリスの手に取った10万リア紙幣を覗き込む。
形もふにゃふにゃだ。
「これじゃ、どう見ても紙。お金じゃないね……。
あと、アリスのサインも、何が書いてあるか分からなくなってる……」
「ですね……」
目で見える現実とは言え、言葉で告げられたときにも、アリスはため息をついた。
「普通のお金って、水に浸かっても大丈夫なのに……、私たちが作ったのは紙でしたからね……」
「いや、紙というよりも、消しゴムで消せるというコンセプトがそもそもいけなかったのかもね……」
「ビリーの言う通りです……」
アリスは、全身びっしょりのままでお札の残骸だけを見つめていたが、くしゃみが出てきた。
思い付きで出てきてしまったので、替えの服など持って来ていなかった。
「あぁ……、本当に10万リアが手に入ったら、今すぐにでも服を買えるのに……。
ビリー、服を乾かしたいから、私これから全裸になってもいいですか?」
「は?????
こんな、多くの人が見てるところで、女の子が全裸?????」
ビリーが「こっちを見るな」と言わんばかりに、両手で顔を隠す。
アリスの手は、濡れたスカートを今にもズリッと下ろそうとしていた。
「いいじゃないですか。
だって、私が領主なんですから」
「こんなところで、領主の肩書きに泥を塗るようなこと言うんじゃない!」
「女の子の全裸を見せるの、ダメですか?
このままだと、私、風邪引きますよ」
ビリーの返事を待つことなく、アリスはスカートを下ろして、続いてパンツも下ろした。
「やめろおおおおおおおおっ!
恥だぁ! アレマの恥だあああああああっ!」
テレビや動画など、編集で削れるようなものではない。
今まさに、ビリーやシーショアの街の人々の目の前で、アリスは取り返しがつかないことを堂々とやらかしているのである。
アリスの貧しい乳も、1分後には海風に揺れる姿をあたり一面に見せていた。
「はい、ホモ・サピエンスの全裸が出来上がりました!」
「アリスさぁ……。
いったい、どういう教養を受けてきたんだよ、元の世界でさ!
こんな恥ずかしいことしてたら、少なくともあの女剣士に怒られただろ!」
「あ、怒られましたよ。ソードマスターに。
でも、もう怒られることには慣れてます」
ビリーが、おもむろにため息をつく。
「ずっといるから、アリスがバカなのは分かったよ。
でも、これは絶対に一線を超えちゃいけないバカだからな。それだけは言っておく!」
そう言うと、ビリーはバッグから薄手のシャツを取り出した。
「『ビリー、替えの服ないですか?』って言ってくれると思ったんだけどな……。ほら」
「ありがとうございます……。
あとビリーに恥をかかせて、すみません……」
アリスの下半身は裸のままだが、数分間身に付けたもの全てを外したアリスが男性用のシャツを着ただけでも、ビリーの目にはだいぶマシに思えてならなかった。
すると、どこからかその一部始終を見ていたのか、落ち着いたファッションに身を包んだ背の高い女性が、アリスたちの前にゆっくりと近づいた。
「かわいそうな領主さん……。もしよかったら、私の店で服を買っていく?
領主さんだから、タダであげようかと思うの」
「あ……、はい……」
その女性は茶髪ながら長身で、アリスの目にはトライブの髪の色が変わっただけのファッションリーダーに見えた。
「怯えなくていいわ。
私は、レギンズ。シーショアで一番美しいと言われているから」
「そう言われなくても、美しいですうううう!」
このまま男性用の服を着て帰るわけにもいかないため、アリスはレギンズに付いていくことにした。
だが、アリスは突然後ろから声を掛けられた。
「おい! 召喚術が使えそうな連中がいるじゃねぇか!
キングブレイジオンを出せ! 戦いてぇんだ!」
こんなアリスですが……、ブクマという応援よろしくお願いします。




