第8話 10万リアができるかな①
「邪悪なる魂を焼き尽くす、正義のヒーロー!
俺の名は、キングブレイジオン!
……あー、これじゃなんか迫力ないなぁ……」
「アリス、いまこの時代にいないヒーローのコスプレ、いつまでやってるんだよ。
もうあれから半月以上経ってるよ」
プランテラの街の危機を救ったキングブレイジオンを見てからというもの、アリスは毎日のようにキングブレイジオンになりきっていた。
最初はアルミホイルを腕や体に巻き付けていたが、次第に試着室で眠っているボロい服に銀箔を貼り付けて、それで全身を覆うようになった。
していることは完全にコスプレであり、当のアリスは完全にヒーロー気分になりきっていた。
「だって、あんなイケメンなんか見ちゃったら、やるしかないです」
「アリスさぁ。オレンジ色のツンツンした髪じゃ、外に行っても別人と思われるよ」
「バカ領主って思われてるんだから、いいじゃないですか。
ここまで行ったら、とことんバカで行きます」
「バカはもう慣れたからいいけどさ……。
アリスが銀箔を貼り付けた服は、もう落ちないからね」
ビリーにそこまで言われてから、アリスはソファに座り、銀箔だらけの上着を脱ぐのだった。
それでも、アリスの頭の中はキングブレイジオンのことでいっぱいだった。
「コスプレがダメなら、一度くらい召喚したいなぁ、キングブレイジオン……」
「それは……、厳しいんじゃないかな」
「どうしてですか?
あの時、緑の髪の人が普通に召喚してたから、私も気持ちを込めて召喚したら来てくれるような気がします」
「そうかなぁ……。
今はまだ、その人の声にしか耳を貸さないと思うけど……」
ビリーは、首を小さく横に振る。
それを見て、アリスはソファからビリーに身を乗り出す。
「召喚って、誰でも呼べるわけじゃないんですね……」
「呼べることは呼べるけど、同じ時期に二人の召喚術師に手を貸すことはできないと思う……。
どっちを優先すればいいか、分からなくなるし……」
「それは言える……」
少なくとも、キングブレイジオンは今のところ、あの緑髪の青年の声に応える。
その時点で、アリスの目の前に現れるのは不可能に近かった。
「というか、アリス。
あれからお金作りはどうしたんだよ。
イオリ草はグロサリさんの家にいっぱい残っているわけだし、
お菓子だって、そんな買えてないわけだし……」
「そうですね……。
イオリ草ビジネスは、疲れるから、少し嫌だなって思ってます」
「え――――――っ! 疲れるから中止なの?」
「そうです。
ビリーは私の召喚でイオリ草を届けただけだから知らないかも知れないですが、
バルゲートまで歩くでも本当に疲れますよ?」
アリスは、既に痛みが引いているはずなのに、ビリーに右膝を出した。
「でも、バルゲートにはたくさん楽しめる場所あるでしょ」
「夜に追い出されるような街じゃなかったら、楽しめましたね……。
なので、密かに企てていることがあるんです」
アリスは、ソファの上に立って、東側のバルゲートのほうにまっすぐ腕を伸ばした。
「私、バルゲアに引っ越して、バルゲア市民として夜の街で食べて遊びたいです!」
ビリーが呆然と立ち尽くすのが、アリスの目に飛び込んできた。
「バカ……」
「えっ、壮大な計画じゃないですか。6時で追い出されないわけですから」
「だから、そう考えること自体がバカ」
「いいじゃないですか。大都会で暮らすアレマ領主、大出世ですよ!」
ビリーは、そこまではしゃぐアリスにため息をついた。
「あのさぁ、アレマ領主がアレマ領を捨ててどうするんだよ」
「あ゛……」
アリスは、舌を出したきり戻せなくなった。
領主の館で見たどの領内法の本にも、「領主は領内に暮らさなければならない」というような条文はないものの、そんなことを規定しなくても当然守るべき約束だということにアリスは気付いた。
アリスは、下を向いてため息をつくしかなかった。
「大都会に暮らしたい……。
というか、できるなら『オメガピース』のあったような場所で過ごしたかったなぁ」
すると、ビリーがアリスの横に立ち、右肩を軽く叩いた。
「アリスはもう、1ヵ月半くらい召喚されてるもんね……。
帰りたくなる気持ち、分かるよ」
「そうですね……」
アリスは、ビリーの告げた言葉を特に気にすることはなかった。
その「1ヵ月半くらい召喚されている」ということが、召喚術としては異常であることに。
「で、アリスがコスプレにお金を使ったせいで、館のお金はこれしかない」
意気消沈したアリスがソファに座ってうなだれていると、ビリーが金庫を開けて中からお金を持ってきた。
ビリーの手には、ややショボい感じの100リア紙幣の束と、1リア紙幣100枚の束しか入っていなかった。
どうやら、これが領主の館に残っている現金のようだ。
「お菓子どころか、何も買えないですね……」
「コスプレにお金を使ってるからこんなことになるんだよな……。
だから、髪の毛を元に戻して、新しいビジネスを始めないと、僕たちお腹空いちゃうよ」
「お腹空くのは、嫌です……」
アリスも、食べ物に直結する話題になってから腕を組み始めた。
立ち上がって、金庫の裏側や下も調べたが、中に入っていたのは3000リアほどしかなかった。
「とりあえず、アリス一人で、出張費とかお菓子代とか、そういうのを全部含めて6000リア使ってる。
このままだと、あと1ヵ月もしないうちに、僕たちは無一文になってしまう……」
「何とかしてよ、むいちも~ん!」
「領主がねだってどうするんだよ!」
アリスは、久しぶりに領主の部屋から便箋と鉛筆を持って来て、この「お金がない」事態に立ち向かう案を書き始めた。
一番上に「イオリ草ビジネス」と書き、その下に「海に出て魚を取ってくる」「食べる」「あーおなかいっぱい」と書き続けた。
ビリーが苦笑いしながら、上から見つめている。
「これ、アリスが魚を食べて終わりにするつもりでしょ」
「当然です。
お金が手に入らないなら、おいしそうなものをいっぱい取って食べます。
海で取って、陸に上げる前に食べちゃったら、誰からも文句は来ないはずです!」
「たしかにね……。
でも、そんなことやったら、海の食べ物で生活している漁師さんから白い目で見られる」
アリスは、再び下を向いた。
案を書き続けてきた紙の上に、アリスは「0」という数字を無意識に書き始めた。
そして、数十秒後に鉛筆が便箋の上を転がっていく音がアリスの耳に響き、アリスはそこで目を覚ました。
「アリス、もしかして眠くなって意識飛んだ?」
「いま、意識飛んでました。本当に」
ビリーが正面に回ってアリスの顔を覗き込むと、アリスは深いあくびを浮かべた。
まだ、外が明るい時間で、領主の館にお客さんがやって来る可能性のある時間帯である。
「これだけ意識飛んじゃったんじゃ、今日はダメですね。
私、眠いから、寝室に戻って寝ていいですか……?」
「とりあえず、寝てもいいけど、領主の館のお金を増やす計画、ちゃんと考えといてね」
アリスは、3000リアしかない金庫を見つめため息をつき、それからいつの間にか便箋に書いていた、何の脈絡もない言葉たちを眺めた。
「00000が並んでる……」
このあたりになると、全くアリスの記憶になかった。どうして「0」という数字を書き始めたかも分からないほどに、アリスは便箋の上で眠ろうとしていたのだった。
だが、改めてその数字を見た後、アリスはその先頭に「1」という数字を付け足した。
「あ……?」
アリスが思わず声を上げると、ビリーが振り向き、アリスの指差した「100000」という文字列を眺めた。
「これ……、なんかお金に見えませんか……?」
「お金だとしたら、10万リア?」
「お手製の10万リア紙幣です。
現実には見たことないから作ってみましたけど」
アリスの声を聞いた瞬間、ビリーが突然アンテナを張った。
ビリーは、念のためアリスに尋ねた。
「まさか、アリス。
バルゲート政府を無視して10万リア紙幣を出そうとしてるんじゃ……」
「いえす! うひひひひひ……」
アリスは、ビリーに得意げな声で返す。
アリスは、短い時間で思いついたアイデアを一気に形にしようとしていた。
8話です。
このどこかで、アリスがとんでもない恥さらしになります(予告)
そんなアリスですが、応援よろしくお願いします。




