第7話 じゃんけん大会に正義のヒーローがやってきた④
「ママああああああああああ! パパああああああああああ!」
本物のじゃんけん大会でチョコレートをもらった瞬間、アリスに召喚されたルドルフは、さらに大きな声で泣き叫ぶ。
ビリーが抱っこするものの、ルドルフは壁を指差すだけで、全く泣き止まない。
むしろ、ルドルフがビリーの腕から逃れようとじたばたするのだった。
「どうしたんですか、こんな場所で急に男の子が泣き出して……!」
プランテラに住んでいるような、いかつい体格をした男性が路地を覗き込んだ。
ビリーは慌てて男の子を地面に下ろすが、ルドルフが泣き続けているので証拠隠滅はできない。
「ビリー、ここは正直に話しますね……」
アリスがビリーに告げると、アリスが前に出て男性の前に立った。
「あの……、私はこのビリーっていう人に、ドッキリじゃんけん大会を仕掛けていたんです。
私は司会者で、その会場にいた男の子が泣き出すというドッキリをされていたんです!」
「全然正直に話してねぇ……」
ビリーがぼそっと言ったことにもお構いなしに、アリスは男性に向けて手を差し出した。
「というわけで、私は本物のじゃんけん大会がしたいので、一緒にじゃんけんしましょ!」
だが、アリスが勝手に「じゃ~ん……」と言い始めると、男性が首を横に振り、中央公園に腕を向ける。
「あのな、バカ言ってんじゃないよ!
じゃんけん大会なら、今そこでやってるんだからな!」
「あ……。そうですね……」
後ろを振り向けば本物を見ることが出来てしまう場所では、アリスがどのように繕っても勝てない。
だが、男性の一言でしゅんとするアリスの後ろで、ルドルフの泣き声が止んだ。
「あれ……?」
ビリーに顔を向けて泣いていたルドルフが、突然後ろを振り返り、いかつい男性に向かって走り出した。
「おじさん、いま、じゃんけん大会って言った……?」
「あぁ、言ったよ……」
「変な光に飲み込まれて、じゃんけん大会からはぐれちゃった……。
戻してええええええっ!」
これで、男性に全てを知られてしまった。
アリスは、首を垂れるしかなかった。
だが、男性が垂れた顔を下から覗き込んだ。
「召喚術を使ったんじゃないだろうな……?
言っとくが、それは召喚という名の面を被った、誘拐だからな!」
「ゆ……、誘拐……」
アリスは、してしまったことを考えると、もう何も言い返せない。
そこに、泣き声を聞いて駆け付けたルドルフの母親が、大きく手を広げて迫ってくる。
「ルド~! 急にいなくなっちゃったから心配したぁ~!
大丈夫? ケガはなかった?」
わずか10分ほど姿を消しただけなのに、母親は遠い世界から戻ってきたかのように温かく抱きしめた。
ルドルフは、母親の胸の中で泣き始め、それからアリスとビリーを目で追った。
「ママ~! この人たち、誘拐です。このオジサンが言ってました……」
「あの、ドッキリじゃんけん大会をやろうとしただけです……」
アリスが懸命に弁解するも、男の子からチョコレートの箱を取り上げようとしていた、事実上の確信犯だけあって、声に力を入れられなかった。
そのことで、逆に母親の不信感を増やしてしまう。
「どういう理由であっても、ルドルフを狙って召喚するのは、誘拐です。
どうせ、その双眼鏡でじゃんけん大会を見て、狙いを定めてましたよね」
「ギクッ……」
アリスは、男の子と真実を隠すのに夢中で、「犯行」に使った双眼鏡を隠すことをすっかり忘れていた。
慌てて左腕を下げるも、もう遅い。
「……そういうのも全部含めて、警察で全部話しますからね」
「あああああ! 警察だけは勘弁してくださああああああい!」
その時、アリスは遠くから一人の男性が、アリス目掛けて近づいてくるのを見てしまった。
「ヤバい……。本当に警察来ちゃった……!」
「冗談だろ……。アリス、そこまで悪運を持ってるのかよ……」
ビリーも、路地から身を乗り出して、アリスの視線の先を見つめる。
1秒もしないうちに、ビリーは息を飲み込んだ。
「なんだ、あれ?
てか、あれ人間か……?」
「人間じゃない……?」
「ほら、だって……、首から下が金属でできてる……」
ビリーに言われ、アリスも息を飲み込んだ。
警察のようにも見えた男性が着ていたのはメタルスーツで、腕や足も全てそれに覆われていた。
それから10秒もしないうちに、その金属の体をした男性は、アリスたちの目の前で止まった。
まるで炎が燃え上がるように逆立った、明るいオレンジ色の髪をアリスに見せる。
そして、薄笑いを浮かべる。
「イ……、イケメン……っ!」
アリスは口を大きく開き、思わずその男性の前に出ようとした。
だが、相手はアリスの動きなど全く気にせず、右手で髪を軽く撫でた。
「俺が倒すべき邪悪な魂は、お前たちじゃなさそうだな……」
その男性は、首を一度横に振り、再び歩き出そうとする。
すかさず、ルドルフの母親が声を上げた。
「あの……、正義のヒーローさん……。
ここに誘拐犯がいます! この人たちが、子供を誘拐しました!」
その声に男性は立ち止まり、ルドルフの母親の前に近づいてきた。
アリスは、ルドルフの母親を睨みつける。
「俺がこの地に降りたのは、誘拐犯の相手をするためじゃない。
プランテラに現れた獣の魂を、焼き尽くすためだ」
金属でできた男性が、一度首を横に振った。
「くっそー……、会話してるぅ……」
アリスも、何としても金属でできた男性と会話をしようと、体を乗り出した。
だがその時、それまでじゃんけん大会が行われていた中央公園から悲鳴が上がった。
――うわあああああああ!
金属でできた男性の体が中央公園へと向く。
アリスも思わず双眼鏡を取り出し、公園の中を見た。
「えええええええっ!」
ステージに上がった獣が、じゃんけん大会の司会を一撃でステージの下に叩き落とす。
それをアリスが見た瞬間、震え上がった。
「なんか、ライオンや虎のような獣が、公園に乱入しています……」
それは深い黄色と黒をベースとした獣だった。
四つ足の立ち姿は、ライオンか虎といった生物で、どう見ても人間ではない。
そして、その獣は数秒もしないうちに巨大化していった。
「やっぱりいたか……。
プランテラを恐怖に陥れる獣が……」
建物にすれば3階建ての高さにまで大きくなった獣が、ステージを踏みつぶし、四つ足を繰り出して、大股で公園を走り出す。
じゃんけん大会の参加者は逃げようとするが、既に獣がすぐ後ろに迫っており、子供たちの泣き叫ぶ声が、アリスたちにもはっきりと聞こえてきた。
その中で、巨大化した獣がプランテラの街全体に聞こえるように叫び出す。
――我が名は、アングリータイガー。
じゃんけんの恨み……、我が体で晴らしてやる……!
すると、金属の男性が身構え、アングリータイガーを睨みつけた。
「さぁ、来い!
お前の敵は、この俺だ!」
「すごい……。
本当に、正義のヒーローじゃん……」
ビリーが呆然と立ち尽くしている横で、アリスが手を伸ばした。
「不可能を斬り裂く風を呼び、未来へと導く光を纏う、剣の女王よ……」
「アリス、あんな巨大な生物相手に、剣士を召喚するのかよ……。
3分で倒さなきゃいけないんだぞ」
「たしかに……。
というか、私が呼ばなくても、あの男が倒しそうな気がします」
すると、声に気付いたアングリータイガーが、金属でできた男性目掛けて迫り、ちょうど男性の前で止まった。
『我を指名するとは、なかなかの根性をしているな。
我が足に踏みつぶされ、我が牙によって粉々になるがよい……!』
すると、男性がアングリータイガーに向けて、自信ありげに「フッ」と笑った。
「俺の名は、キングブレイジオン。
街を乱す者を焼き尽くす、紅炎の王者!」
「キング……」
「ブレイジオン……」
アリスとビリーは、男性の名を呟いたまま、言葉を止めた。
キングブレイジオンが、あまりにも大きな存在であるかのように、二人には思えてならなかった。
突然出てきた、炎の王者。
その実力は、一瞬で勝負を決める……。
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