第7話 じゃんけん大会に正義のヒーローがやってきた②
「プランテラの街で、アリスと街の人がゲリラでじゃんけん大会をする」
ビリーは、真剣な表情でアリスに告げた。
アリスは、その言葉を聞いた瞬間に、一瞬だけ目を反らし、グロサリの反応さえ伺おうとした。
「えっと……、ビリーも私のおバカ病がうつりましたか……?」
「僕は、真面目だよ。じゃんけん大会にするかどうかは、アリスが決めていいけど」
「いや、思いついたんだからじゃんけん大会のままでいいです。
で、ゲリラじゃんけんをしたら、私は何か貰えるんですか?」
すると、ビリーは右の人差し指を立てて、二回、三回前に後ろに動かした。
「もしアリスが勝ったら、相手が最近もらったものをアリスに差し出し、アリスは領主メダルをプレゼントする。
もし、僕からチョコを買った人がいたら、それが最近もらったものになるから、アリスはチョコをもらえる」
「なるほど、それだったらチョコもらえますね……。
ところで、領主メダルって何ですか……?」
すると、ビリーはバッグの底に手を伸ばして、金色に輝くメダルを取り出した。
「アレマの領主に協力してくれた証、領主メダルだよ。
今まで、なかなかこれをプレゼントできなかったけど、いい記念になると思う」
「でも、勝手に人のプレゼントを取っちゃっていいんですか?」
「そこは、領主権限でいいんじゃない?
領主だって、おいしいものが食べたい、って言えば、じゃんけんをしてくれると思うんだ」
「よし、決まった!」
アリスは、手を叩いてビリーにうなずいた。
それから、初めて見る領主メダルを手に取って、表と裏をくまなく触る。
「このメダル、すっごく気持ちいいです……。すべすべしてます」
「でしょ。
領主のアリスから渡されたら、きっと名誉なことだろうと思うよ」
アリスは、ビリーがうなずくと同時に、メダルを持ってグロサリの前に立った。
「まず、ここまで私たちに協力してくれたグロサリさんに、メダルをプレゼントしましょう」
「それいいじゃん!
アリス、たまにはいいこと思いつくじゃん……!」
「ありがとう」と頭を下げるグロサリに、アリスは微笑んだ。
程なくして、二人はグロサリの家を後にした。
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「ところで、アリス。
じゃんけんって強いほう? それとも弱いほう?」
グロサリの家を出てしばらく経った頃、ビリーがアリスに顔を向ける。
「弱いほうです……。私、ギャグ要素持ってますから……。
これから、運命のじゃんけん大会なのに、どうしてそんなこと聞くんですか」
「いや……、何となくね。
アリスがあまり負けると、こっちは何ももらえないし、メダルもプレゼントできなくなるじゃん」
「まぁ……、運に賭けるしかないです……」
アリスが一度は通ったことのあるプランテラへの道は、この日は特に強い光が差し込んでいて、二人の未来を明るく照らしていた。
そして、二人は昼頃に、プランテラの街に着いた。
そこには、今日の午後4時から始まるじゃんけん大会のチラシが貼ってあった。
「ビリー、見て見て!
私たちのじゃんけん大会、こんなところにお知らせが貼ってあります!」
アリスは、チラシの貼ってある壁に向かい、右の人差し指で「じゃんけん」の文字を軽く叩きながら叫んだ。
「ビリー、ありがとう!
朝のうちに宣伝してくれたんですね!」
アリスは、早くももらえる商品を期待し始めた。
だが、ビリーの顔色が一気に暗くなるのが、アリスの目に飛び込んできた。
「ビリー……、なんか、顔、死んでない……?」
アリスはチラシから離れ、街の入口で立ち尽くしたままのビリーに駆け寄った。
ビリーは、アリスに軽く頭を下げながらため息をついた。
「被った……」
「えっ……」
アリスは、ビリーの暗そうな表情を見つめるしかなかった。
ビリーは、何度か地面を右足で叩きながら、再びため息をついた。
「同じ日に、同じ街でじゃんけん大会が被るなんて、世の中が狭すぎる……」
「えー……。
私も、『オメガピース』にいた頃に、いろんな大会に行きましたけど、同じ遊びは必ず日を変えていたはずです」
「だよね……。
でも、4時からじゃんけん大会をやるって分かってるのに、僕たちがほぼ同じ時間に、同じじゃんけん大会を企画するという、間抜けなことなんかできないよ……」
ビリーは、下を向いたまま、再び足で地面を叩きつける。
「というか、僕、今朝プランテラで行商してたのに、このチラシに気付けなかったんだろう……」
「ビリー……」
アリスは、ビリーの前に立って、右手でビリーの肩を叩いた。
「私に、いい考えがあります。
ビリーの考えてくれた案を、絶対に無駄にしたくないですから」
ビリーは顔を上げ、アリスの目を見つめた。
ビリーが元の表情に戻るのを見て、アリスは薄笑いを浮かべそうになった。
そして、大きく息を吸い込んだ。
「プランテラでリアルのじゃんけん大会が行われるなら、こっちは召喚じゃんけん大会をやればいいんです!」
「召喚じゃんけん……?」
ビリーは、アリスの口から出てきた言葉に目の色を変えた。
「ほら、私たちは召喚できるじゃないですか。
遠く離れた世界からでも、今まさに生きている世界からでも」
「そうだね……。
でも、これ……、誰を召喚するの?」
「そっちのじゃんけん大会の参加者です」
「えっ……?」
ビリーは、アリスの提案に戸惑った。
薄笑いを浮かべるアリスの表情を見つめるたびに、ビリーは嫌な予感さえしたのだった。
「つまり、あっちのお客さんを取るということです」
「毎度おなじみの、バカ……。
てか、いいのか? そんなことやって……」
ビリーは、やや裏返った声でアリスに尋ねた。
「領主権限ですもの。
私とじゃんけんして、負けるだけで、その参加者はこのメダルをプレゼントです。
名付けて、ドッキリじゃんけん大会~!」
「えっと、ルールは問題ないよ……。
でも、勝手に客を取ったら、向こうから怒られない?
それに、ドッキリに付き合わされた参加者からも。
僕、知らないからね」
「ビリーは、じゃんけん大会を企画したので、言える立場じゃないですよ?」
「あ……」
アリスのツッコミに、ビリーはすぐに頭を抱えた。
「とりあえず……、この広場であっちのじゃんけん大会が行われるんですよね……」
今のところ、街じゅうに予告されている方のじゃんけん大会が行われるまで、残り2時間。
アリスたちはプランテラの街、特に会場となる中央公園の周辺でドッキリじゃんけん大会の下見を始めた。
「アリス。あそこに、司会が立つ台があるだろ。
この細い道から、向こうの出す目が見えるから、この路地でうちは待っていてもいいんじゃないかな」
「いや、ビリー。
見るのは、目じゃないです。残っている人です」
「そうか……。ある程度残った人を、僕たちの場所に召喚するんだものな……」
アリスの一声で、二人は中央公園の反対側に向かった。
時折、プランテラの街の人が二人を細い目で見つめる。
何と言っても、つい半月ほど前に、この街で腐ったクッキー騒動をやらかしている二人である。
この二人が並ぶと、何が起こるか分からない。
誰もがそのような表情で見つめていた。
そして、夕方4時を知らせる鐘が鳴った。
「みんな、集まれーっ!
楽しい楽しい、じゃんけん大会の時間だよーっ!」
中央公園の真ん中に置かれた白い台の上に司会者が立ち、大きく腕を振って、周りにいた街の人を呼び寄せる。
その数は、秒を追うごとに加速度的に増えていく。
「向こうの方が、やっぱり盛り上がってるね……」
競合関係になるイベントが始まり、ビリーは重い表情を浮かべ始めた。
一応、「何が起こるか分からない?」と書いた「ドッキリじゃんけん大会」のチラシを貼ってはみたものの、現時点でアリスたちの前に人はいなかった。
そこにアリスが、もう一度肩を叩く。
「心配しないで下さい。私たちは、普通に考えたらあり得ないイタズラで楽しむんですから!」
「そ、そうだね……」
中央公園では、司会が最初の手を出そうとしている。
その様子を、アリスたちは後ろから双眼鏡で見つめた。
本物のじゃんけん大会から人を召喚して、アリスとのじゃんけん大会に参加させる。
そのことを漢字2文字で言い表すと……、それは次々回出てくると思います。
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