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追放兵士、領主になる  作者: セフィ
第1期 自分の方が偉いので元上司の最強女剣士を召喚することにしました
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第1話 追放から始まる異世界領主③

「あのね、アリス。いくら、よそから転送されてきたと言ってもさ、アレマ領じゃないところで『今からアレマ領の領主です』って言われることないよね」


「あれ、まぁ……」


 そんなことも気付かなかったアリスが、素でボケてみせる。


「だから、ここはアレマ領。海と山に囲まれた、辺境の小さな領土。今日からアリスは、そこの領主。いいね」


「……はい」


「まだ戸惑ってるようだね。ちょっと、地図を持ってくるよ」


 ビリーが、数分前まで入っていたクローゼットに駆けていき、折りたたまれた地図を片手に戻ってきた。

 そして、オジサンたちが置きっぱなしにしていった机にそれを乗せ、二人で上から見下ろす。


「いま、僕たちがいるのはここ。小さく『アレマ領』って書いてあるだろ」


「ありますね……。なんか、どこにも行けないような感じです」



 アリスが地図に指を乗せて、これから治めることになる領土を、何となくなぞってみる。

 南と西が海、北と東が険しい山脈と、どこに行くにも一筋縄ではいかないようだ。

 その代わり、自然の境界線ができているおかげで、数日あれば一周歩けてしまうほど狭い領土だった。



「こんな小さな場所、私のいた『オメガピース』では考えられません」


「だよね。『オメガピース』の自治区はオメガ国の、このあたりかな」


 ビリーがアリスと同じ地図に指を乗せ、アリスが先程までいた場所を指した。


「そうです。オメガ国は結構広かったです。だから、将来的にはこのアレマ領をもっと大きくしたいなーって」


 アリスが、思わずにやけた。

 今までいた場所の広さを見せられれば、領主として夢を抱かざるを得ない。


 だが、その夢をビリーが両手を広げて止めた。


「ちょっとストップ。領主が初めからそんなこと考えたらまずいって」


「えええええ? だって……、なんかここ狭くないですか?」


 アリスが、地図上のアレマ領を右の人差し指で何回か叩く。


「狭いのは、海と山のせい。でも、それを広げようとしたら、周りの領主が黙っちゃいないよ」


「えっ? 私の他にも領主がいるんですか?」



 はぁ……。

 ビリーがため息をつく声だけが、アリスの耳を空しく通り抜けていった。



「北の山を越えたところに、スワール領。

 そして、その東がドリー領。

 他にも、このあたりはいっぱい領土があって、それぞれに領主がいる」


「じゃあ、せめて友達になりませんか? 領主どうしで」


「それもできなくはないけどね……、それをやったら、ここが黙っちゃいない」


 ビリーは、指をゆっくりとアレマ領のすぐ東にある、ひときわ大きな領土を指差した。

 ちょうどビリーの指が置かれた、そのすぐ下に赤い文字で「バルゲート」と書かれている。


「あっ……!」


「どうしたんだい、アリス」


「いや……、その……、さっき時空転送されるときに……、バルゲートって言ってました」



――ともに築き上げよ。永遠の繁栄に包まれる、バルゲートの国を!



「その、バルゲートだよ……。あそこは、本当に強いところだ。

 というか、ここだってバルゲートだ」


「えええええ? ここ、アレマ領……、ですよね」


「そう。ここは一応、アレマ領。でも、対外的にはバルゲートの属領(しはいか)だ」


「が――――――ん……」



 あぁ。

 アリスの脳内で流れてしまう、ピアノの鍵盤を手当たり次第に叩きつけたような不協和音。

 その音に導かれるように、楽しい楽しい領主生活というドミノが一気に崩れていく。



「ちょ……、ちょっと待ってください。これ、結局、好き勝手に出来ないってことですよね!」


「まぁ、そういうことになる。何かやらかせば、アレマ領がバルゲートから目をつけられるよ」


「え――――っ!

 好き勝手な領主ライフって言ったら、そういうことじゃ――――ん!」



 オジサンたちに騙された。

 この言葉だけが、アリスの脳内をぐるぐる回っていた。



「まぁ、もっと領土を広げたいって思ったの、アリスだけじゃないって言っておくよ。僕が知る限り」


「それホントは、ビリーでしょ?」


「いや、僕はそんなこと考えたことないって。

 聞くところによると3年くらい前の領主が、多くの領民を連れてバルゲートに戦争を仕掛けたらしい」


「すごーい。でも、今もバルゲートの支配だから、その時は負けたんですね」


 アリスは、徐々にビリーの話に食い入っていく。


「負けた。それどころか、それからアレマ領民は、武器使用禁止になったんだ」


「武器使用禁止って……。つまり、領土を広げたくても武器がないんですよね」


「そう。アリスも……、武器を持っていたら取り上げられる。大丈夫だよね?」


 ビリーが、一歩、二歩と後ずさりして、アリスの背中に何もないか確かめた。


「さっきまで銃を持っていたんですが……、『オメガピース』を追放されるときに置くことになりました」


 アリスも、念のためセルフボディチェックで変な武器を持っていないか確かめた。

 それが終わるのを見計らって、ビリーがアリスのおでこに右の人差し指を当てる。


「私のおでこに指を当てて、どうしたんですか」


「攻撃系の魔力を持っていないか。これもバルゲートからチェックされるんだ。

 幸い、アリスは魔力あるけど、攻撃系ではなさそうだ」


「武器がダメなら魔術、ってわけにもいかないんですね」


「そう。だから、僕たちはバルゲートに手出しできないし、何か事を起こしたらバルゲートに怒られる」



 ビリーが言い終わった瞬間、アリスは机をドンと叩いた。



「あの。私、怒られるのも嫌です! 縛られるのも嫌です! 自由になりたいです!」


「アリス、とうとう開き直った?」


「領主だもん。そんなことを知った上で、私は好き勝手にやりたいです!」


「おーっ、いよいよ本当にアレマ領の領主になった感を出したじゃん!」


「それ言われると恥ずかしいです。私は、ソードマスターのようにプライド高くないですから」



 アリスは、そう言い終わった瞬間に口を押さえた。

 「オメガピース」で当たり前のように使っていた用語を、全く違う環境で使ってしまったことを、口にする前に気付けなかったのだ。


 当然、ビリーに突っ込まれるわけで。


「アリス、ソードマスターって何? 剣の名人?」


「ああああああああああ! 聞かなかったことにして下さい!」


「いや、知りたいな。『オメガピース』のことでしょ」


「ま、まぁ……、そうですね。私の友達で……、いたって普通の剣士です」


「はぁ……?」



 未だかつて、「剣の女王クイーン・オブ・ソード」トライブ・ランスロットが、ここまで雑な紹介をされたことはあるだろうか。

 気付けばアリスは、疲れ切ったように首を垂れた。

 それから、ゆっくりと顔を上げてうなずいた。


「まぁ、それは置いといて、お菓子を食べるっていう好き勝手なことなら、誰も文句は言わないですよね!」


「お菓子を食べる……。たしかに、誰にも迷惑かけないね」


 ビリーがにっこりと笑った。

 思い出したように、ビリーがクローゼットにアリスを案内した。


「この中に、歴代領主が残した、たくさんのお菓子があるよ」


「ええええ! ビリー、それ、ほ……、本当ですか? そんなことなら、早く言って下さい!」


 そう言うと、アリスはビリーより早足になり、ついに全速力で走り出した。

 その走った先に、宝の山があるかのような勢いで。


「私、待ってたよ―――――っ! お菓子の山――――っ!」


 ……ガラッ!



「にゃああああああああああ!」



 クローゼットの中は、アリスの歓喜に満ちた叫び声に包まれた。

明日、アリス食べますよ。

ただ、とんでもないヘマをやらかしますが。


読者の後押しがアリスたちの力になりますので、応援よろしくお願いします。

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