第6話 潜入!バルゲートの首都③
ついに、念願のロッジ食品のチョコレートが手に入ったと喜んだが、直後に悲劇がやって来た。
「あの、20箱、重いですよ……?」
店が用意した大きめの袋には、4箱入るのがやっとだ。
それが5袋必要になることはアリスでも簡単に計算できたが、こうなることは見た目で判断できただろう。
少なくとも、アリスのバッグに店の袋が何とか1袋入る段階で、これをここから一人で持ち出すことは厳しそうだ。
「もしよろしければ、車まで運びますが……」
「いえ、私はアレマ領から行商で来ているので……」
一応、行商ということにしているアリスは、ここでも正直に答えた。
店員の目が余計に細くなり、一度カウンターの前を離れたかと思えば、奥にいる店長らしき人物に確かめる。
「どうします?
この人、お金払ってるんですが、行商らしくて、これから峠を越えてアレマ領に帰るんですって」
すると、中から「分割納品だな」という声が聞こえてきた。
アリスは、そこで下を向いた。
「あ……、またバルゲアまで来なきゃいけなくなる。
行商じゃないと部外者は入れないから、またイオリ草の商売を続けないと……」
だが、アリスが何気なく呟いた瞬間、一つの案を思い浮かべた。
「ビリーに持って帰ってもらおうか……」
今までビリーを召喚してきたが、それはイオリ草ビジネスのために不可欠なものだった。
だが、全て売り切った今となっては、ビリーの召喚=パシリだ。
完全にパシリに他ならない。
それでも、この量を考えれば呼ぶしかなかった。
「光のように優しき、アレマのおっとりした青年よ。
我が任務に従い、この地に姿を現せ……。
召喚! ビリー・エバーラスト!」
青白い光の中から、戸惑うビリーが現れた。
バッグを背負っていない。
「も、もう70束売ったの……?」
そこで、ビリーの声が途切れた。
召喚された場所と、周りに置かれていたいくつもの袋にビリーが気付いたとき、「まさか……」という声しか出なかった。
「えっと、チョコレート屋です。
これ、あのロッジ食品のチョコです。はい」
アリスは、袋の中からチョコレートを1箱取り出してビリーに見せようとした。
「上からパッケージを見れば分かるよ……。
なんで、こんな所に来てロッジ食品の商品をこんなに買ってるんだよ」
「買収できなかった仕返しです」
「仕返しってなんだよ。
てか、売り上げでロッジ食品の工場を誘致するって話は、どこ消えたんだよ?」
「……飽きました」
アリスがぼそりと呟くと、ビリーの目が丸くなった。
「バカああああああ!」
「何で怒っちゃうんですか、ビリー」
「完全に、売上金がアリスの私物になってるじゃん!
そんなことやるんだったら、僕、こんなイオリ草ビジネスに協力する必要なかったじゃん!」
「えへっ。
もうお金払っちゃったからダメですよー。
それに、売上金を私に渡せばどうなるか、分かっていましたよね」
「いや……。
アリスがそこまで、悪い意味で頭がいいとは思わなかったよ……。
たしかに、バルゲート本国がロッジ食品から買い占めてると、あの社長は言ってたけどさ……」
はぁ、とため息をつくビリーに、アリスは思い出したように紙袋をビリーに手渡そうとする。
「あの、ビリーを呼んだのは、これを持ち帰って欲しいだけです。
せっかくなんで、ビリーとグロサリさんで分けて下さい。
とりあえず、召喚しても大丈夫なように袋を持ってきてくれませんか」
「嫌だね……。
もう一度呼んでも、今度は応答しないから」
「あ……」
アリスは、召喚で最も基本的なことを今頃になって思い知った。
召喚される存在が嫌だと言えば、場合によっては召喚したい存在がそこに現れない。
今まで当たり前のようにビリーを呼んでいたが、ビリーが拒否すればそれもできなくなる。
だが、アリスとビリーの言い争いを見ていた店員が、チャックの付いた保冷用バッグを持ってきた。
「あの……、召喚でお運びでしたら、こちらのバッグを使って頂ければ、目的地まで召喚できますが」
「……はい」
アリスは、一瞬何が起こったのか分からないほどに呆然としていた。
店員が、召喚の基本知識を知っていたことになる。
「いくつ入りますか……?」
「5、6……、7……まで入りますね」
ビリーも、持ち帰れる袋が出てきた時点で、完全拒否をすることができなくなり、持ち帰ることを受け入れたようだ。
それほど軽くはないものの、ビリーは7箱入ったバッグを手に持って、アリスの前に立った。
「とりあえず、僕は自分と、グロサリさんと、あとプランテラあたりでこのチョコレート配ってくるよ。
残りはアリスが食べると思ってるから、アリスには残さないよ」
「分かりました……」
20箱食べられると思っていたものが13箱にされてしまったが、アリス一人でできるようなビジネスではないため、飲み込むことにした。
そして、ビリーの前に立って「3……、2……、1……」と、元のグロサリの家まで戻した。
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結果、アリスは右手に1袋、左手に1袋、バッグに5箱強引に詰めて、計13箱を持って店を出た。
「13箱でも、さすがにアレマ領に持って帰れないし……」
少なくとも、両手が塞がった状態は解消したい。
アリスは、取りうる手段をすぐに二つ思いついた。
一つは、イオリ草と同じように行商をやって、チョコレートをより高い値段で売ること。
もう一つは、帰る前に食べるということだ。
「でも、バルゲアの中でチョコを売ったら、あのお店がいい顔しないだろうし……」
言うまでもなく、それはただの転売である。
ということは、アリスの取り得る道は、一つしか残されていなかった。
宿を探して、食べられるだけ食べるということだ。
「えっと……、宿……、宿……」
これだけ栄えている首都であるにもかかわらず、「旅館」「ホテル」「INN」といった文字の看板が出てこないことに、アリスはすぐ気が付いた。
宮殿の前までたどり着いたが、そこまでの大通りに1軒もなかったのだ。
「違う道にはあるのかな……」
アリスは、もう一つ別の道で宿を探した。
しかし、そこにも宿は全くなかった。
そこに、宮殿のある方向から鐘とアナウンスが鳴り響いた。
――観光でお越しの皆様、行商でお越しの皆様。
午後6時となりました。
城内活動許可終了の時間です。
速やかに、門から外に出て下さい。
お帰りの際には、ゴミを残さないようお願いします。
バルゲアでは、外部から宿泊することが出来ませんので、周りの街の宿にお立ち寄り下さい。
「うそ……」
アナウンスを聞いて、アリスは愕然とした。
アレマ領に戻るための道には、3時間ほど峠道を上ったナリアの街しかなく、そこですらかなり小規模な街だ。
「こっそり野宿しようかな……」
食べる場所が見つからないまま、その時間を迎えてしまった以上、13箱を持って出るわけにはいかない。
アリスは、先程までイオリ草を売っていたあたりで、建物と建物の間に身を潜めようとした。
だが、すぐに見つかってしまった。
グレーの制服を着た、バルゲート兵だ。
「それだけ荷物を持っているということは、部外者か。
そうだとしたら、もうここを出なきゃいけない」
「えっ……。ここで野宿しちゃいけないですか……」
「野宿、ダメ!
護衛がちゃんと、門を出入りする人数を管理しているからな!」
「ああああああああ……」
あの護衛が、ただの手荷物チェックではなかったことに、アリスは今更気付いた。
アリスがこの場所にいること自体をチェックしているのだ。
「すいません」
そう言って、アリスが立ち上がろうとしたとき、バルゲート兵が「待て」と呼び止めた。
「そのお菓子、どこから持ってきた」
「えっ……?」
「まさか、属領から仕入れた特産品を、バルゲアから持ち出すとか、そんなこと考えてないよな……」
アリスは、徐々に迫ってくるバルゲート兵に震えながら、何も言うことが出来なかった。
「とりあえず、ちょっと護衛所まで来い!」
アリスの悪事、簡単に見破られる!
どうなる、アリス!
今回、さりげなく問題発言をしているぞ……?
応援よろしくお願いします!




