第6話 潜入!バルゲートの首都②
「すごーい!
バルゲートの中心って、こんなに大きな街ができてるんだ」
入口からその姿をはっきりと捉えることができる、奥の巨大な宮殿がバルゲートの政治の中心のようだ。
そこに至るまでの間に、数多くの商店が並んでいて、建物と建物の間には近隣からやって来たとされる行商人たちが、農作物や工芸品など、様々な商品を販売していた。
アリスが見た感じ、アレマ領の中で手に入るモノはほとんどなさそうだ。
ほどなくして、アリスはちょうど行商人が帰った場所に駆け足で入り、販売スペースを見つけた。
ナリアの街でも使ったビニールシートを広げ、アリスはシートの上に女の子座りをした。
「さぁ……、どうしよう……。
ビリーも呼べないし、呼びたくもないけど……、そうしたら、ちゃんとこのイオリ草売れるのかな……」
ナリアの街では、ビリーの商売を真似する機会すらなく、ビリーの声だけで全て売り切っただけに、アリスはその時にビリーが使った言葉を思い出すしかなかった。
ただ、そういうときに限ってアリスの脳裏に浮かんでくるのは「快適生活アリスショッピング」という、ビリーからダメ出しされた言葉で、アリスはすぐに首を横に振った。
すると、そこに一組の老夫婦が、ビニールシートの上に並べられたイオリ草を指差しながら、アリスの目を見つめた。
「お嬢ちゃんが、この野菜を作ったの?」
「いえ、私はこの野菜を食べるだけです。
作っているのは、アレマ領のグロサリさんっていう、心の優しい農家です」
「なるほどね……。
でも、せっかく生産者が作って下さったんだから、1束買って、レシピでも考えておこうかしら」
アリスは、老夫婦が言い終わって2秒ほど考え、その後で息を飲み込んだ。
「えっ……、買って下さるんですか!」
「当たり前よ。
こういうのが、社会を回すって言うの」
「社会を回す……」
言葉の意味が分からないまま、アリスは老夫婦からお金を受け取り、1束を渡した。
それから、思い出したように老夫婦に告げた。
「あの……、言うの忘れました!
このイオリ草で、激辛料理が辛くなくなります!
ウソだと思うのなら、一度試して下さい!」
老夫婦はうなずいて、「ありがとう」の言葉とともに、アリスの前から歩き出した。
「初めて、私が商品を売った……」
アリスは、老夫婦がイオリ草を手にしてからの数分間、そこまで気温が高くないのに汗が止まらなかった。
同時に、緊張感から来る疲れも、アリスに同時に襲ってきた。
「こんなこと、初めてかも知れない……」
これまで、目の前に食材があれば食べてしまうだけのアリスが、ここに来ても全くイオリ草に手を伸ばさない。
イオリ草を食べることではなく、むしろどうすれば売れるかを考えるようになっていた。
だが、売れた理由を深く考える前に、次のお客がアリスの前に立った。
今度も高齢の女性だった。
「色が良く、珍しい野菜だから、息子たちに上げる分も含めて4束くださいな」
「よ……、4束……! あ、ありがとうございます!」
アリスは、ビニールシートの上からイオリ草4束を手に取って、女性に渡した。
「ありがとね。
なかなか見ない顔だから、次にいつ行商に来てくれるか分からなくて……」
「もしできるなら、次もまたこの通りに店を出すかも知れません!」
アリスは、イオリ草が売れるたびに息をつくが、落ち着く時間はなかった。
ナリアの街とは全く違い、ここバルゲアでは人の行き交う量が半端ではない。
夕方近いからか、晩飯の食材を買いに、バルゲアの人々は通りに並んだ行商人を含めて、いろいろな食材を買っていくのだった。
「3束!」
「お嬢ちゃん頑張ってって意味で、10束!」
ビリーが販売したときよりも、はるかに一人あたりの購入量が多い。
商品がなくなるペースも、50束しか並べなかった時とほぼ同じだ。
「時間帯とか、場所とか関係しているのかも知れない……」
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そして。街灯に光が点る頃、ビニールシートの上にあったイオリ草は、全て売れてしまった。
アリスは、嬉しいため息をついた。
「私の分がなくなっちゃった……。でも……」
アリスは、バッグに手を伸ばす。
金属製品がダメということになったので、アリスはとりあえずお菓子だけを残してきたが、それももうほとんどない。
しかも、この日はグロサリのところで食べた朝食の他に、まともな方の食事を取っていない。
対して、売上金は2ヵ所合計で330リア。
お金の使い途は、決まった。
「豪華ディナーと、いっぱいのロッジ食品のお菓子が待ってるぞーっ!」
アリスは、バッグの口を締めると、宿を探すよりも前に、「菓子屋」と書いてある看板を探した。
「えっと……、お菓子、お菓子……」
バルゲアは、さすがバルゲートの首都ということもあって、いろいろな店が揃っている。
5階以上の建物もあるが、全て同じテナントが入っているなど、かなり規模の大きい店もありそうだ。
その中でアリスは、看板にチョコレートのイラストが描かれたお店を見つけた。
「世界のチョコ、あります。か……」
アリスは、その看板を見て思わず息を飲み込んだ。
バルゲート本国以外のものが、このお店にあることは確定している。
そうなれば、スワール領から仕入れたロッジ食品のチョコレートも置いている可能性がある。
「よしっ!」
アリスは、店の中に飛び込んだ。
ショーケースにたくさんのチョコが並んであるのを見た瞬間、アリスは思わず舌を出した。
「やったー、チョコおおおおおおおお!」
15歳のアリスは、まるで子供のように喜んでショーケースにかじりつく。
中には、バルゲートのショコラティエが作った、様々なチョコレートが大きく飾ってあった。
中には、クリスタルチョコという、水晶の形をした奇抜なデザインのチョコもあって、アリス基準で1人前の量をしているものもあった。
「あのー、このクリスタルチョコ、欲しいです」
そう言うと、店員が申し訳なさそうにアリスに頭を下げる。
「これは、売り物じゃないです。展示用として飾っているだけですので……」
仮に、芸術品として販売するのであっても、アリスの手にある330リアではとても買えるようなものではないだろう。
アリスは諦めて、ショーケースの端まで移動した。
するとそこに、アリスがこの世界に来てから何度も見ているパッケージが置かれていた。
「あ、ロッジ食品のチョコレートだ……。いいなぁ……」
1箱10リアと書かれている。アリスは手を叩いた。
「よし、買える……!」
ロッジ食品から事実上門前払いを食らった以上、「ここで買えなければいつ買うのか」という短絡的な思考にならざるを得なかった。
何よりも、目の前にロッジ食品のチョコレートがあるのにそれを逃すことが、アリスには苦痛でならない。
「あのー、このチョコ、お店に何箱ぐらいありますか」
「そうですね。20箱くらいありますけど……。
どうされましたか?」
アリスは、その言葉を待っていたようにうなずいた。
「全部下さい。お金はあります」
「……。
…………。
はい?」
店員目線から見れば、これは明らかにおかしな注文だ。
目の前にいる、まだ大人になりきれていない年齢の女の子が、チョコレート1種類を全て買い占めるのだから。
だが、戸惑う店員をアリスがねじ伏せる。
「だから、全部下さい。私、食べるので」
「は、はぁ……」
アリスは200リアを数えて、ショーケースの上に置いた。
店員は、仕方がないような目をしながら、アリスのためにチョコレートを奥から持ってくるのだった。
チョコの箱を20箱買うということを、冷静に考えてください?
次回、アリスは大変な現実を見ることになります。
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