第6話 潜入!バルゲートの首都①
アリスは、イオリ草のさらなる販売場所を求めるという名目で、バルゲート本国に残ることにした。
バッグには、全てビリーの力で手に入れた売上金が入っている。
「そう言えば、ロッジ食品からバルゲートにお菓子1年分とか言ってたような……」
アレマ領民には簡単に入手できないロッジ食品のお菓子が、もしかするとここバルゲートで売られている可能性は十分ある。
そうなれば、アリスの取る手段はただ一つ。
「そうだ! お菓子の買い占めが出来るかも知れない……!」
お菓子工場を誘致するためにお金を手に入れる、という目的で始めたプロジェクトであることを、アリスは少しずつ忘れ始めていた。
隣にビリーがいない分、よその領土なのに自由なことが出来る、とさえ思うようになった。
「でも、120リアだけじゃもったいないから……、もう少しお金をもらってからにしよう」
そうこうしているうちに、アリスは両側を生い茂った木に囲まれた一本道に差し掛かっていた。
山の中では暗い峠道にしか見えないが、バルゲート中心部に近いこの通りでは、人工的に枝葉が管理されているのか開放感に満ちており、空が明るく見える。
「バルゲートの首都? ……には、普通に入れるのかな?」
アリスは、そのことだけが気になった。
一応、バルゲートに支配された一地域の領主ではあるものの、その肩書きが果たして通用するかどうかは未知数だ。
むしろ、それを気にすること自体、アリスには嫌な予感がついて回っていた。
そして、それは現実のものとなった。
入口には、護衛が二人並んでいた。
「バルゲートの首都、バルゲアに何かご用ですか」
アリスは、「やっぱり」と小さく呟いて、あえて論点を反らすことにした。
「バルゲアって言うんですか。ストレートな名前ですね」
「そんなおかしいか。
お前、さてはバルゲートの領民ではないな」
「はい。アレ……、えっと、よそ者です」
アリスは、領主であることを極力隠すことに決めた。
そもそも、今のアレマ領主がアリスであることを、誰一人としてバルゲートに告げていない上に、こうやってバルゲートの領内に立ち入るのもアリスの代になってからこの日が最初だ。
「なるほど。
では、旅人か? それとも、行商か?」
「旅人? 餃子?」
「餃子じゃない! ぎょう、しょう! 物売りのことだ!」
アリスは、護衛に行商の説明を言われたとき、思わず息を飲み込んだ。
アリスのやっていることは、モノ自体召喚で運んでいるとは言え、立派な行商だった。
「じゃあ、もしかしたら私はその行商に入るかも知れないですね……」
「なるほど。
なら、バッグを見せろ」
「手荷物検査ですか……?」
アリスは、少しためらいながら、護衛にバッグを渡した。
当然、その中はスプレーとお菓子が大半だった。
護衛は、バッグの中身を見た瞬間に息を飲み込み、特に金属製の物に触れた音がしたときには震え上がった。
「どうかしたんですか……?」
「こ……、こいつ……、金属製品を持ってるぞ……。行商って言ってるのに」
護衛は、手で感じた金属の触感がしたものを、そっと持ち上げた。
次の瞬間、護衛の腕から力が抜ける。
「虫除けスプレーか……。
バルゲアを破壊する爆弾かと思ったじゃないか」
「ええええええ! そ、そんな悪いこと考えてないですって!」
「いーや!
金属さえあれば、殺傷能力のある物を何でも作れるから、バルゲートでは厳重に管理しているんだ。
しかも、行商と言っておきながら、全部私物ぽいものではないか!
なので、中に入ることを許さない!」
「えーっ……」
そう言いながら、アリスはとっさに財布を取り出した。
「お駄賃10リアあげるから通ってもいいですか?」
「ダメ。あくまでも、ここはバルゲートのルールと、街全体の取り決めに従ってもらう」
「じゃあ、鬼ごっこの要領で……、強行突破!」
「ダメ!」
アリスが、周りの目を盗んで護衛の後ろに回ろうとしたが、護衛が素早くガードし、やや体重のあるアリスを止めた。
前に進もうとしても、護衛の筋力が強く、ただ体重が重いだけのアリスにはどうすることもできなかった。
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アリスは、護衛の前からいったん退却して、護衛の目が届かない場所にある森の中に身を潜めた。
それから、手を木漏れ日の光と一直線になるように向けた。
「光のように優しき、アレマのおっとりした青年よ。
我が任務に従い、この地に姿を現せ……。
召喚! ビリー・エバーラスト!」
アリスがすかさずビリーを召喚すると、ビリーは自分のバッグの中に70束ほどのイオリ草を入れてやってきた。
だが、ビリーは放り出された場所に戸惑っている様子だ。
「こ、こんな通りから少し離れたところでイオリ草を売るのかよ」
「そうじゃないんです。ちょっと森を出て、右側を見て下さい。
あそこの護衛が、すごく厳しいんです。
だから、ビリーが強行突破して下さい!」
「なんでだよ。
というか、本当はどうしたら護衛をパスできるかってところじゃないの?」
「そうとも言います」
アリスは、ビリーに向かって軽く笑ってみせた。
するとビリーは、アリスのバッグを軽く持ち上げて、軽く「だろうな」と呟いた。
「僕のバッグだったら、問題なく行商って分かるんだけどな……。
いきなりアリスが来て『行商です』と言ったところで、スプレーなんかあったら怪しまれるよな」
「ビリーも、それに気付いちゃったんですね!」
「当然だろ。
金属と言うよりも、モノによっては毒ガスとか出す可能性だってあるんだから」
すると、ビリーは問題となっているスプレーの類を一つ残らずビリーのバッグに入れた。
勿論、その段階でイオリ草はアリスのバッグに移している。
「というわけで、これを一旦グロサリさんのところに置いてきて欲しいんです。
バルゲートの中心で商売をするにはそれしかないってことを、グロサリさんには伝えて下さい」
「うん、分かったよ……。
あとさ……」
ビリーは、アリスに礼を言うと、思い出したようにアリスの目を見る。
「そう言えば、さっきのナリアでの売上金、どうしたんだっけ」
アリスは、声にも表情にも出さず、心の中で「ヤバい」と言った、
「私、見てないです」
ここは1回目ということで、完全に無視しつつ、さっさとビリーに手を伸ばして「3……、2……、1……」と告げた。
強引に戻すのが吉だ。
やがてビリーの姿が見えなくなると、アリスは胸に手を当てて息をついた。
「ビリーに売上金を取られるところだった……」
ただ、二度は通じない騙し方だということも間違いはなかった。
次に売上金について突っ込まれたとき何と返すか、アリスは考えないといけなかった。
だが、そこでアリスは「あれ」と立ち止まった。
「もしかして、ビリーを呼ばなければ、私がこのお金をお菓子に替えるまでバレない……?」
アリスは手を叩いて、すぐに森から街道へと飛び出した。
やや早足で、先程アリスの入場を断ってきた護衛の前に立つ。
「さっき、スプレーを持って来ちゃった人です。
今度こそ、行商でやって来ました!」
勿論、10分しか経っていない中では、アリスの顔は護衛に覚えられているようで、二人の護衛がアリスの目を見た瞬間に、互いに顔を見合わせたほどだ。
「今度も、金属のような物質は入ってないだろうな」
「入ってないですよー!
ほら、この通り」
アリスは、今度は自分からバッグを開けて、ビリーから届いたイオリ草70束を護衛に見せた。
「これをバルゲアの人々と、できればバルゲートの一番偉い人に売ります。
だから、どうか行商で入ることを許して下さい!」
アリスは、護衛に頭を下げた。
すると、護衛が互いに「どうする?」と交わした後に、アリスの前に立った。
「条件付きで、入れてやる。
変な召喚術を使って、部外者を呼ばないこと。そうしなければ、この門の中に入ることを許す」
「分かりました」
アリスは、小さくスキップしながら門の中に入った。
だが、護衛たちの物々しい雰囲気が感じられなくなってから、アリスは立ち止まった。
「あれ……?
どうして召喚を使ったとバレた?」
護衛「そ、それは、召喚の詠唱も聞こえたし、光も見えたから……」
というわけで、アリスはバルゲートの首都バルゲアに潜入。
ここでもヘマをしないという保証はありませんが、応援よろしくお願いします!
ブクマがアリスたちの力に変わります。




