第5話 こちらビリーの宅配便です!⑤
イオリ草をナリアの街までなかなか届けられず、アリスはついに3度目の召喚。
青白い光が消えた瞬間、アリスは思わず声を上げた。
「やった! 今度はいっぱい入ってそう!」
今度はビリーがアリスのバッグの口までしっかり締めていたので、今度は転送の途中でイオリ草が抜けることはなかった。
「ありがとう。
それにしても私のバッグ、こんなに入るんですね……!」
「そりゃ、あれだけ中にお菓子を詰められるんだからな」
グロサリが束にしたイオリ草が、アリスの手の感覚で50束ぐらいある。
つまり、アリスが食べさえしなければナリアの街で50束お金に変えることが出来るわけだ。
アリスが中身を確かめるのを見て、ビリーは安堵の表情を浮かべながらアリスの前に立った。
「じゃあ、僕はグロサリさんの家に戻るよ。運んだんだし」
「え――――っ? 帰っちゃうんですかぁ?」
アリスは、ビリーの顔を覗き込んだ。
「えっ……。帰っちゃいけないのかよ。
アリスの言ってた作戦だと、片一方は転送以外自由の身になるとか……」
「ビリーには、しばらくここにいてもらいます。
私、モノを売るセンス、たぶんないですから」
「そんなこと言うなよ。アリスの提案だろ。
しかも、片一方は戻れるとか言ったの」
ビリーは、体をじたばたさせるものの、ビリーを戻せるのは時間かアリスだけだということに気付いたのか、すぐに諦めてしまった。
「私、気付いちゃったんです」
アリスは、得意げになってビリーに告げる。
対してビリーは、アリスが何を言い出すかよく分からないまま、その場に立つしかなかった。
「召喚って、時間的距離が重要だって、ビリー、言ってましたよね」
「あぁ、3点セットとか言ったやつ……」
「つまり、96年前の世界からは3分しか召喚できない私が、今の世界からも3分しか召喚できないわけじゃないのでーす!
近ければ近いほど、消費魔力は少なくなるって言いましたよね?」
「あぁ、言ったよ……」
ビリーは、突然青ざめた表情になり、わずかな時間、アリスから視線を背けた。
心の中で「これはまずいことになった」と言いたそうな表情を、横顔からアリスに向けていた。
「すごい発見でしょ!
2回合わせて5分くらい召喚したから、私は気付いたんです。褒めてください」
アリスは、「えへへっ」と笑いながら、ビリーの顔が向いたほうに体を移す。
ビリーの口は、早くもため息をついていた。
「気付いちゃいけないことに、気付いちゃったね……。
今の世界から転送する話をあえて言わなかったのは、アリスに悪用されるからだよ」
「えっ……?
今の世界から転送する方が楽だって、少しは思ってましたよ。
じゃなかったら、あの工場で労働力を召喚で持ってくるとか言わないですもの」
「あ……! そうだった……!」
ビリーは、その場で頭を抱えた。
薄笑いを浮かべるアリスの顔を、もう見ていられない。
「アリス!
どこまで天才で、どこからバカか分かんないバカだよ、もぅ!
なんで、そんなことにまで興味を持っちゃうのかなぁ……」
「だって、バカですもん。
それに、召喚がなかったら、私はここでもっとつまらない領主生活を送っていたと思います」
「そうだよね……。
でも、一度言った役割を変えるのはズルくない?」
ビリーは、まだ困惑したような表情を浮かべる。
そこに、アリスが突っ込んだ。
「私が売るのと、ビリーが売るの。
どっちの方が売れると思いますか?
お互い、『せーの』で指差して下さい。
せーの!」
ビリーの指どころかアリスの指も、ビリーに向けられたことは言うまでもない。
「くっそ、ハメられた……。
まぁ、間違ってはないけど、頼むからアリスが知らんぷりするのだけは、なしにしような」
「はぁい」
そう言うと、アリスはバッグからイオリ草を取り出し、何故かバッグに入れていたハイキング用のビニールシートを広げて、イオリ草をその上に置いた。
「なんか、そこまで言われちゃったら、私が真面目に売るところも見せないといけないですね」
「見たい。というか、アリスがどこまで販売の才能があるか確かめたいよ」
「分かりました」
ビニールシートの上にイオリ草が並んだのを見て、ナリアの街の人が立ち止まる。
気に留めてくれた人たちの目を見ながら、アリスは叫んだ。
「快適生活アリスショッピング!
今日ご紹介するのは、こちら!
激辛料理にもの凄く合うという、カッコ個人の感想です、こちらのイオリ草です!
こちらのイオリ草、通常価格1束3リアのところ、今回はナリア初出店の特別企画として、1束2リア……、いやもうちょっと、1リアで販売いたします!
ただし、今回は数に限りがございます! 先着50束の限定販売となっております!
お申し込みはこちらまで! 金利、手数料は全てアリスショッピングが負担いたします!」
客、呆然。
そして、1秒もしないうちにアリスはビリーに頬をつねられた。
「バカッ!」
「いててて……。
私は、『オメガピース』のテレビで流れている通販番組を真似しただけですよー」
「リアル店舗なのに、通販番組のノリで紹介する売り手がどこにいるんだよ……」
「そんなことやって実際に売ってる人、誰もいないんですね……」
アリスとビリーが言い合いを始めたのを見て、イオリ草に興味を持ってくれた人々が、一人、また一人とアリスたちの目の前から姿を消していく。
「というか、アリス。
普通のお店に入ったことある?」
「レストランとか定食屋とかカフェとか、そういうところしか記憶にないです」
「ほらな……。
そういうところは、入る前には何か食べたいってなるんだから、そんな宣伝しなくてもお金になるじゃん。
じゃなくて、ファッションの店とか、アクセサリーの店とか」
「あー……、なんか、私が困ってるときに話しかけてくれましたね」
「そういう感じ。
じゃあ、僕が売るから、アリスも参考にしてよ」
今度はビリーが、ビニールシートの前に立った。
「さぁ、今日は僕たち、アレマ領の名産品、イオリ草を売りにやって来ました!
激辛料理に合います! 激辛と一緒に食べると、口の中のヒリヒリがなくなります!
まずは騙されたと思ってお手に取り、匂いとみずみずしさを感じてください!」
すると、今度はビリーの声に多くの客が反応し、手に取らずとも目で見て確かめた。
誰もがみな、物珍しそうな表情を見せている。
「ビリー、値段とか何も言ってないのに、どうしてこんな人を集められるんですか?」
「値段は、さっきアリスが言ったじゃない。
1束1リアだっけ。改めて説明する必要もないじゃん。
だから、僕はイオリ草の最大の特徴を言ったんだ」
「つまり、金利とか手数料とか、そんな余計な情報を入れない方がいいと」
「当然!」
しばらくすると、「買いたいんですけど、これいくらですか!」とビリーに尋ねる客がちらほら出始めた。
ビリーが仕方なく「1リアです」と告げるが、どのお客さんも「1リアは安すぎるよ」などと言って、2リア、3リアとその場に置いていくのだった。
その間、ビリーは終始笑顔だった。
「すごい……。ビリーの力で、イオリ草がどんどん売れていく……。
ビリーを元に戻さなくて、良かったのかも知れない……」
アリスは、勝ってくれた客に向けて「ありがとうございました!」と頭を下げるだけだった。
だが、半ばこの作戦は成功したと、確かな確信を持っていた。
「ありがとうございましたー」
気が付けば、ビニールシートの上にあったイオリ草が、一つも残らず売れたのだった。
「ビリー、本当にありがとう……。
なんか、いつもと違うビリーを見られたような気がします……」
「まぁね。
アリスも、お金を稼ぎたいって思うんなら、売り方を研究したほうがいいと思う。
次は、僕は見てる側に回るよ」
「分かりました……。
じゃあ、次はバルゲートの中心で店を出しましょうか」
「そうだね。その時は、僕のバッグにいっぱい入れて持っていくよ。
さすがに、アリスのバッグを僕が持ってるのも不自然だしね」
ビリーがかすかに笑うと、アリスはビリーに手を伸ばし、「3……、2……、1……」と告げ、元いたグロサリの家に戻した。
その瞬間、アリスはその場に残されたものを見て、思わずよだれが出てきた。
「ビリー、やっちゃった……。
とんでもないものを忘れて、手ぶらで戻っちゃった……。うへへへ……」
アリスの目の前に残されたもの。
それは、120リア以上の売上金だった。
アリスがバカ領主なのか真っ黒領主なのか分からなくなってきた感。
第6話、バルゲートの中心にアリスが向かいます!
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