第5話 こちらビリーの宅配便です!①
「オメガピース」の救護室で、目を覚まさぬアリスに寄り添うソフィアが、同じ場所にいるはずのトライブの異変に気付くにはそれほど時間がかからなかった。
「トライブ、いま寝てた……?」
「どうしたのよ、ソフィア」
「なんか私、トライブが一瞬固まったように見えて……。
時間が止まったんじゃないかって思ったの。疲れ目かも知れないけど……」
ソフィアがトライブに微笑むと、トライブは首を横に振った。
「ソフィアにそこまで気付かれたってことは……、
私がさっき何をされたかを、話さなきゃいけないようね……」
「さっきって……、私たち、もう20分くらいここにいるでしょ」
「そう見えて、実はそうじゃないのよ。
私、未来の世界に2回も呼ばれて、敵と戦ってきたの」
「……えっ? そんなことあり得るの?」
ソフィアが、トライブの顔を覗き込む。
まだ信じ切れていない証拠だ。
「間違いなく時空転送よ。
今は、転送魔術や召喚魔術を使える人がほとんどいなくても、未来の世界ではそれが当たり前になっている」
「へぇ……。
じゃあ、戦力に困ったから、未来の世界からトライブを呼んだというわけね。
未来の世界まで名前が残ってるトライブが羨ましい」
ソフィアが薄笑いを浮かべながらトライブに告げると、トライブは軽く「それが違うの」と前置きした。
「どういうわけか知らないけど、私を呼んだのがアリスなのよ」
「アリス……。って、今ここで眠ってる、アリスのこと……?」
ソフィアは、二人の前で眠ったままのアリスをゆするが、本人の口からその真実を告げることはなかった。
代わりに、実際に96年後の世界と行き来したトライブが言うしかない。
「そう。アリスが、向こうの世界で生きてるのよ。
それも……、なんか領主とか言われてるみたい」
「あはははは!
アリスが領主じゃ、治めた場所は本当にダメになるね」
「それは言っちゃダメよ」
未来の世界を笑うソフィアを、トライブがけん制する。
「だって、トライブの前でお菓子ばっかり食べてたアリスじゃない。
領主になったら、世も末って思わない?」
「そんな評価まで、私たちがすべきじゃないのかも知れない。
目が覚めたら、アリスは『オメガピース』から出て行くことになるけど、
環境が変われば、もしかしたらアリスも少しは大人になるんじゃないかなって」
ソフィアは、トライブの想いを前に、軽く息をついた。
「で、実際に向こうの世界ではどうだったの、アリスの様子は」
「お菓子工場に勝手に入っていって、従業員に取り囲まれてた。
召喚されたから一応戦ったけど、あれは場合によってはアリスが悪いと思う」
「やっぱりね。アリスだものね」
ソフィアが再び薄笑いを浮かべるが、トライブはもう一度首を横に振った。
「ソフィアがアリスを笑いたい気持ちだって分かるわ。
でも、アリスの中では、アリスの治める場所に私が必要と思ってるんじゃない。
今までたくさん面倒を見てきた私を、母親のように思っている」
その時、救護室の時計の針が、幾分大きな音で「カチッ」と告げた。
この時点で、アリスが倒れてから30分……。
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「というわけで、まずはお金を集めなきゃいけませんっ!」
朝一番で領主の椅子に座ったアリスは、珍しく大きな声で叫んだ。
「アリス……。そんな怒鳴らなくても、僕は聞こえるって……」
「すいません。大事なことなんで、大きな声で言いました」
スワール領のお菓子メーカー、ロッジ食品の工場を誘致することすらもできなかったアリスは、領主の館に戻ってくるときも、ビリーの前でくだらないダジャレしか言えず、常に疲れ切った表情を見せるだけだった。
それが、一晩明けただけでこれだけテンションが変わってしまうのも、アリスだった。
「だよね……。
それにしても、アリスはどんなヘマをしても、前向きでいられるの、人間としてすごいのかも知れない」
「そうですか? むしろ、何も学ばないバカって言われると思いました」
「バカはバカだよ。いろいろ僕の前でもやらかしたけど。
でも、アリスは決してバカ100%でできてるわけじゃないから、安心したんだ」
「私は……、バカ100%の搾りたてジュースでいたいですよ」
アリスは、自分に両手の人差し指を向けて、何かを胸に打ち込むようなしぐさを見せた。
「そういうところが、バカなのっ! アリスは!」
ビリーがため息をつくが、アリスは特に気にせずに一度うなずいた。
「で……、ビリーはどうしますかっ! 工場を呼ぶためにお金を作る方法!」
「ん……? いきなり、僕に振るの?」
「いえす」
アリスがビリーをまじまじと見つめているので、ビリーは一歩、二歩と後ずさりし始めた。
困惑した表情を浮かべつつも、ビリーはアリスの質問に答えようとした。
「極端な回答と、現実的な回答。どっちのほうが知りたい?」
「両方でお願いします。どちらかと言うと、笑える方を先に言って下さい」
「わ……、笑える方……?
ここは、仕事だからね。大喜利じゃないよ?」
アリスがにやけるのを見て、ビリーが軽くうなずいた。
「じゃあ、領主のお望み通り、極端な回答からいくからね。
極端な回答は、アリスの食生活を改善させる。そうしたらお菓子工場は必要なくなる」
じ――――――――っ……。
「ビリー、いま何と言いましたか?」
「もう少し、食べる量を減らすっていうこと……。そこから先は、アリスの想像した通りだよ」
「嫌だ。私が領主のうちは、嫌だ」
「だよね……。そんな、まっとうな提案をアリスが聞き入れるわけないものね……」
ビリーは、軽く笑ってみせた。それから、深呼吸してもう一つの案を思い浮かべた。
「で、今度はまともな案なんだけど……。
イオリ草をスワール領やバルゲートに展開する、っていうのはどうかな……?」
「たしかに……!
あの社長さんも、イオリ草食べたことなさそうだから、本当にアレマ領から出ていないのかも知れない」
そう言うと、アリスは席を立ち、思い出したようにイオリ草をストックしている場所へと向かった。
「これが、もしかしたらお金になるかも知れないんですよね……!
もし、アレマ領の特産品として売ることが出来たら、それで工場を誘致できます!」
「僕の案をそのまま使うの……?」
「だって、私はギャグのほうしか考えてないですもの。
昨日の今日でそんなこと言ったら、またビリー怒っちゃうじゃないですか」
アリスはビリーに振り向くと、半ば笑みを浮かべた。
今度こそ勝った、とアリスは内心思っていた。
「そうと決まったら、私はもう一度東に歩いて、グロサリさんに掛け合ってきます」
アリスが一度グロサリの家に行ったとき、まだ倉庫の中にいくつかイオリ草の束が残っているのを見た。
そして実際に、その中から一束持ち帰ることが出来たのだから、今度もお願いすれば輸出用に出してくれる可能性がある。
「実際に、いくらで売れるんだろう。
目指せ、工場建設費150万!」
「アリス。
グロサリだけの収穫でそこまで行かないと思う……」
「いや、奇跡は起こります!
というか、起こします! 信じて下さい!」
アリスは、昨日夜遅くまで連れ回したバッグを早くも手に取って、方位磁針と着替えと水分、それにまだ残っていたお菓子を中に入れて、早足で館の出口に向かった。
「あ……、あの……、僕を置いて行かないで。
僕は全然、外に行く準備なんかできてないからね!」
「ビリーは、後から走って追いかけて下さいー!
レッツ、ラ~ン!」
こうして、ビリーは今回もアリスの無謀な行動に付き合わされることになったのだ。
第5話、変なタイトルだと思うでしょ?
誰かさん(一人しかいません)による、召喚術の悪用が始まってしまいます。
その誰かさんのこと、かわいそうなビリー、あるいは凛々しき女剣士を応援してくれる方、
ブクマ評価よろしくお願いします!




