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追放兵士、領主になる  作者: セフィ
第1期 自分の方が偉いので元上司の最強女剣士を召喚することにしました
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第4話 お菓子工場買収計画④

「あの……、アレマ領に砂糖がないって話は、知ってますか?」


 たとえバカと噂されていようが領主である以上、ということで、アリスとビリーの二人は社長室へと通された。

 ロッジ食品の社長、ロッジ・ウッドソンが二人の前に座ると、アリスは話を切り出した。

 事実上、個人的な要求をいかに大きく見せるか。それだけをアリスは考えていた。


「言われてみれば、アレマは二方向を海に囲まれているからな。

 塩は海から採れる代わりに、農業従事者が少ない。

 だから、砂糖やカカオの栽培にまで手が回らないと聞いたことはあるぞ」


「え……、じゃなかった、そうなんですよね……」


 アリスは、まるで初耳であるかのような返答をしそうになって、慌てて止めた。


「私たちは、普通に三食を食べられるくらいの農作物は作っています。

 それでも、少し小腹が空いたときとかに食べるお菓子は、そもそも材料がないので作れません」


「ということは、アレマ領主としては、だ。

 ぜひ我々にお菓子を融通して欲しいということかな」


「まぁ、分かりやすく言うとそんな感じになります。

 領民は、お菓子を食べたい、お菓子を食べたいと言って、私のところに泣きついてきます」


 明らかに主語がおかしい内容ではあるものの、アリスはそうと気付かれないようアドリブで、いかにも飢えてしまいそうな領民の声を出した。

 「食べたい」と繰り返すときに、ビリーの表情がアリスの目に飛び込んでくるが、ビリーの表情は落ち着いていて、時折「その調子」と励ますようにアリスに相槌を打っていた。


「とは言ってもねぇ……。

 うちもスワール領の外での業務展開はやってないんだよね……」


「そうなんですか……。

 バルゲートのどこかで、工場で作ったチョコレートを売ってないんですか?」


 アリスがこの世界に転送されてから、何度かお菓子のパッケージを見ているものの、ロッジ食品の製造工場は必ず、ここファクトリアの街となっていた。

 そのため、この質問の答えを、アリスは最初から二つに絞っていた。


「いや、売ってますよ。

 正確に言うと、バルゲートの政府からの命令で、チョコレート1年分を無償で差し上げることになっています」


「いいなぁ……」


 アレマ領もスワール領もバルゲートの属国であるが、アレマ領から何かを差し出せとバルゲートに言われた覚えは、アリスにはなかった。

 だが、ここロッジ食品で製造されたチョコレートは、無償でバルゲートに送らなければならない。


 そう考えたとき、アリスは閃いた。



「つまり、バルゲートの人たちが、こう思ってるんですよ。

 ここのチョコレート、おいしい、おいしいって。

 私たちも、ロッジ食品のチョコレートを食べて、ものすごくおいしかったし、甘いと思いました。

 だから、世界中に展開したら、もっともっと売れると思うんです」



 ビリーから「おおっ」という声が上がったのを、アリスは聞き逃さなかった。

 アリスがビリーに「ねっ」と言うと、ビリーも軽くうなずいた。

 目の前のロッジ社長も、腕組みをして考え始めた。


「それが確かだとしたら、私たちも考えなければならないな……。

 原材料や労働力の調達、販路など、考えなきゃいけないことはあるが……」


「材料ならお任せください。

 辛さとか苦さとか、そういうのをぜ~んぶ消してくれる、イオリ草という食材がウチにあります」


「イオリ草ねぇ……。話には聞いてるよ。

 激辛料理を食べた後に、口の痛みを取るんだな」


「はい。私もこれで、激辛料理が大好きになりました!」


 ロッジ社長とアリスが、同時にうなずく。

 アリスは、ここではっきりとした手ごたえを感じ始めていた。あと一歩だ。


「で、労働力は、アレマ領にあるのかね」


「はい、あります!」


 アリスは、ビリーの肩を叩く。


「この、ビリーっていう人を、週5日いけにえに出しますので、ご自由にお使いください」


「あ……?」


 ビリーが難色を示そうとしたとき、アリスがそれを予め読んでいたのか、ビリーの耳元で何かを告げた。

 それを聞いて、ビリーが「あ、なるほどね」とうなずき、自らロッジ社長に告げた。


「労働力でしたら、僕が責任をもって連れてきます」


「なるほど……」


 そこで、ロッジ社長が腕をほどいた。

 アリスは、「勝った」と呟きそうになった。

 だが、そこにもう一つ落とし穴があった。


「では最後に、工場の用地と建設費だ。最後はお金だからな。

 アレマ領からの案件なので、そちらである程度お金を出してくれるんだな」

 ウチの生産ラインを入れるとなると、折半しても150万リアは下らないぞ……」


「あっ……」


 アリスは、ここで息を飲み込んだ。

 肝心の「お金」のことについては、何も考えていなかった。

 そもそも領主生活になって一度もアレマ領で通用するお金を持ったことがない。

 そんな身で、いきなり150万リアという大金を用意しなければならないという現実を突きつけられた。


「どうしよう、ビリー……。

 私、こういう話にお金が必要だって知りませんでした……」


「は……?」


 ビリーは困惑した表情を見せたくても見せられず、アリスの耳元に口を近づけるしかなかった。


「あのさぁ……。

 こういう話を、どこをどう間違えたらタダでできってことになるんだよ……」


「私、知りませんでした……。まだ、か弱い15歳なんで……」


 「買収します」と気軽に言った後に、ビリーの表情が曇っていたことを、アリスは今更になって思い出した。

 そもそも、ビジネスには必ずお金が付いてくるため、そんな簡単に話がまとまるわけがない。

 ロッジ社長との話が簡単に進んでいたので、アリスはアリスでお金の話を忘れたままだし、ロッジ社長もその問題は織り込んでいるものだと思い込んで話を進めていたのだった。


「お金は、用意できないってことだね、アレマ領主。

 まぁ、そもそもアレマだってバルゲートの支配下になっている以上、領主の権限でもそんな大金を作ることはできないわけだが」



「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」



 アリスの声が裏返った。

 そもそもアリスに、お金を作るという考えすら浮かんでいなかった。

 百歩譲って「お金を用意します」と返事ができたところで、この現実をどうすることもできなかった。

 様々な無知を隠せなかった、アリスの負けだ。


「分かりました。今日のところは撤退します。

 今日の話は、領民の夢物語だと思ってください……。

 いつか必ず、もう一度工場の話をしに来ます」


「分かった。その時を待っているよ」


 失礼しました、と頭を下げるアリスの目に、ロッジ社長のにやけた表情が飛び込んできた。

 それは「やっぱりな」と言っているようにも見えるし、別の何かを隠しているようにも見える。

 とりあえず、この日のところは買収どころか工場誘致すらできなかったということだ。


 だが、アリスたちとロッジ食品との「バトル」は、ここで終わるわけがなかった。

タダで買収なんてできるわけありません、はい。


ただ、このままで終わるアリス……、ではなくこのままで終わる工場潜入ではないのです。

応援よろしくお願いします。

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