表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放兵士、領主になる  作者: セフィ
第1期 自分の方が偉いので元上司の最強女剣士を召喚することにしました
15/240

第3話 イオリ草ハンター・アリスの珍道中⑤

 アリスが召喚した女剣士、トライブが降り立った。

 だが、この場で最も状況が読み取れていないのもまた、トライブだった。

 青白い光が消えてわずか1秒、アリスはトライブと目を合わせたものの、トライブが呆然とした表情を見せ、小声で言うのだった。


「アリ……、ス……?」


「私ですよー! アリス、アリス!」


「やっぱり、アリスなのね。

 でも、何でこんなところにいるのよ」


「私も知らないです。たぶん、召喚か転送です。

 私が……、ソードマスターを召喚したように……」


 アリスは、頭一つ分だけ身長差のあるトライブを見上げながら、短く伝える。

 伝えたいことは山のようにあるが、ここで魔力切れになったら無意味だ。


 だが、次の段取りを告げたのは、アリスではなくトライブだった。


「で、私を召喚するってことは……、私の力が必要なのね」


「はいっ……! 後ろ、見て下さい」


 そこには、アリスとビリーを狙うウルサンが、大剣を真っ直ぐ向けたまま立っていた。


「私たち冒険者のものを盗んで、そこの街の人に流している……。

 この人は、そんな悪人です。

 もちろん、ソードマスターだって許せないですよね……」


「そうね……。アリスの荷物も盗まれたわけ」


「私じゃなくて、召使いの荷物が取られました。

 それどころか、私たちを獲物にするとか言ってました」


「なるほどね」


 トライブは、アリスに向き直って、軽くうなずいた。

 そして、鞘から剣を抜き、ウルサンに真っ直ぐ向けた。

 これまで、数多くの強敵を退けたランクAの剣、アルフェイオスが、星の光に照らされ輝いていた。



「こんな異世界で……、ソードマスターのバトルが見られる……。私、すごいことをやってる……」


 アリスは、何度も見慣れた光景とは言え、これから始まろうとしているバトルに、普段以上のゾクゾク感を覚えた。

 「女王」トライブの後ろ姿は落ち着いており、今にも本気の一撃を下しそうなオーラを放っている。



「バカ領主から、とびきり強い剣士と言われたが、女か……。

 剣を抜いた以上、ただの女友達とは言わせないからな」


「それは、たとえ時空を超えても言われたくないセリフよ。

 覚悟しなさい」


 そう言うなり、トライブがその足をウルサンに向かって力強く踏み出した。

 アルフェイオスを高く上げ、ウルサンに一気に迫る。


「そうはさせるかあああああ!」


 ウルサンが大剣を横に向けて攻撃を防ごうとする。

 だが、トライブはそれに臆することなく一気に剣を振り下ろす。

 

「はあっ!」


 風を切るような音とともに、アルフェイオスがウルサンの大剣の芯に叩きつける。

 ウルサンも懸命に跳ね返そうとするが、トライブの一撃で腕にまで衝撃が伝わり、一瞬だけ目をつぶる。

 その隙を、トライブは見逃さない。

 あっという間に、今度は下から大剣を叩きつけ、ウルサンの横に反らす。


「くっ……、なんて力だ……!」


 ウルサンが、反射的に剣を正面に戻す。

 だが、トライブはそれを待っていたように、アルフェイオスを一気に振り下ろした。


「はあああああっ!」


「……っ!」



 ガチンという重い音を立て、使い手の体から離れた大剣が、ウルサンの足元に落ちていく。

 そこにアルフェイオスの剣先が、真っ直ぐ向けられた。

 「剣の女王クイーン・オブ・ソード」、完勝だ。



「すげぇ……。アリス、こんな化け物と……、一緒だったのかよ……」


 バトルの緊迫感を真っ先に解き放ったのは、ビリーだった。


「化け物って言わないで下さい。これが、当たり前なのですから。

 私だって、最初に見たときは呆然としましたもの……」


 そう言いながら、アリスはトライブの背中を見つめた。

 トライブが、慣れた手つきでアルフェイオスを鞘にしまい、アリスに向き直った。


「全然、物足りないわ」


 後ろで縛った金髪を夜空の光に輝かせながら、トライブはアリスに告げた。

 あまりにもあっけなく終わったバトルに、楽しめたという表情を何一つ見せない女剣士に、アリスは下を向いた。

 ただ、アレマ領では原則武器を持てない時点で、武装した相手には、今のところこの方法で戦うしかないのだが。


 だがアリスは、バトルを見ることに集中しすぎて、当然に聞かれる言葉の返答を考えていなかった。



「ところで、アリス。ここはどこ? 何年後の世界?」


「えっと……」


 アリスは、何から伝えればいいか分からなかった。

 答えは分かっているはずなのに、その後に自分の置かれた立場まで説明しないといけないと思うだけで、答えに詰まる。


「あの……、ソードマスター……。

 ここはアレマ領って言って、バルゲートという国の一部です。

 で、私は96年前の『オメガピース』で呼ば……」


 そこまで言ったところで、アリスは突然胸が苦しくなった。


「アリス……?」


 トライブの声が聞こえると、アリスは顔だけトライブに向けた。

 トライブの体は、少しずつ薄くなっていた。


「ちょっ……、ちょっと苦しい……」


「アリス……、それは魔力切れだね」


「魔力切れ……。

 そう言えば、ライフシアを召喚した時も、最後はそんな感じでしたね……」


 アリスは、ビリーにうなずくしかなかった。

 それから、トライブに何かを言おうとしたが、トライブの体は輪郭すら、夜の空気に消えてしまった。



「せっかく成功したのに、たった3分しか召喚できなかった……」


 ウルサンからバッグを取り返し、疲れ切った表情で道の上に座るビリーに、アリスは中腰になりながらため息をついた。


「でも、よかったじゃん。2度目の召喚で、本命の女剣士を召喚出来て」


「でも、もっと過ごしたかった……」


「アリスさ。僕、前に言ったと思うんだ。

 時空転送で必要な魔力に、時間的な距離が関わるって。

 あの女剣士を96年前の世界から呼んだんだから、それだけでも凄いと思う」


「あ、たしかに……」


 ビリーから初めて召喚魔術を教わるときに作ったメモこそ机の上に忘れてしまったが、アリスはその言葉を聞いただけで、あと二つの要素を頭の中で思い出せた。

 召喚している時間が長いほど、魔力を使うこと。

 それに、召喚される存在の意思。


「……ということは、次も3分しか呼べないってことですか。

 カップラーメンを作っている時間しか戦えないってことですね」


「カップラーメン……? 僕、知らないんだけど」


「あ……」


 またしても墓穴を掘ったアリスを、ビリーが今度は素直に笑っていた。


「でもさ、アリス。

 あれだけ強い剣士だったら、3分でも時間切れにならないんじゃない?

 というか、誰が相手になっても勝てそう。

 女王って呼ばれるだけのことはあるよ」


「ですね」



 アリスは、夜空に向かって大きく息を吐いた。

 夜空の空気は、澄んだ匂いに満ちていた。


「あれ、なんかもう臭わない……?」


 つい30分前は、ビリーすら近寄るのをためらうほどに、アリスの体に腐ったクッキーの臭いが充満していたが、今のアリスは全く気にならなかった。

 何より、アリスが臭っていたら、間違いなくトライブに突っ込まれるところのはずだ。

 アリスは、高く手を挙げて叫んだ。


「よかったー……。私、一生不潔な人間になるかと思ったー……」


「たぶん、あっちの草に移したんじゃないかな。アリスの臭いを」


「そうかも知れないです」


 そう言うと、アリスもとうとう道に座り込んだ。

 その横を、プランテラの街に住んでいると思われる男性が通りかかった。

 まだ、宿が開いている時間であることは間違いなかった。


「アリス。臭いが取れたのに、宿は行かないんだ」


「今日は、召喚が決まった記念で、ビリーと一緒にいたいです。

 道端で寝ていても、もう物を盗まれることはありませんもの」


「その口が言うな。覚えてるからな、あの言葉を、僕は」


 ビリーは笑っていた。

 アリスも一緒になって、ビリー以上に笑った。


 次の日、無事イオリ草を手に入れることが出来ても、二人は道中で起きてしまった事件を忘れることはなかった。

 バカ領主の生活は、始まったばかりである。

ついに、アリスのルームメイトだった最強女剣士トライブが、その力を見せつけました。

が、あくまでもこの話の主人公はアリス。

今後、トライブとどのように絡んでいくのでしょう?



明日から第4話です。

応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ