第24話 アレマ・コロッセオ最終決戦!①
「ミシアが……」
アリスが眠ったままの「オメガピース」救護室に戻って来るなり、トライブが頭を抱えた。
「どうしたのよ、急に……。
頭を抱えるなんて、トライブらしくないじゃない」
ソフィアのかすかに笑った表情を見ながら、トライブは静かにうなずいた。
「ソフィア……。あの世界に、ミシアが行ったのよ。
しかも、アリスたちの敵として」
「行っちゃったんだ……。
30分くらい前に声を聞いたと言ってたけど、何も起きなかったから、すっかり安心していたけど……」
「呼ばれてるって言ってきた時点で、私たちが見てなきゃいけなかったのかも知れない……。
それに、氷と炎の最強がアリスと同じ世界から声が掛かっているの、偶然にしてはおかしすぎるわ」
「あっちの世界に、原因がある。間違いない」
トライブとソフィアが、同時に首を縦に振る。
二人のすぐ横では、アリスの形が少しずつ薄くなっているものの、今のトライブにそのことを気にできる余裕はなかった。
そこに、再び救護室のドアをノックする音が聞こえた。
優しそうなノックは、30分前のミシアと全く変わっていなかった。
「ミシア……?」
中からトライブが呼ぶと、ミシアがゆっくりとドアを開けて、トライブに小さくうなずいた。
救護室の空調で、ミシアの髪が揺れている。
「まさか、あの世界でトライブに会うとは思わなかった。
あの世界に興味を持っちゃったから、私の魔力をもってしても、誘いを断れなかったと思う……」
「興味を持ったって……、さっき気にしてた永久転送のことでしょ?」
この中でただ一人、96年後の世界に転送されていないソフィアがミシアに尋ねると、ミシアは無言でうなずく。
「アリスのいる世界に行けば、もしかしたら永久転送の謎が解けるかも知れない。
その想いがあったから、あの世界に呼ばれて断れなかった。
まさか、『ネオ・アレマ解放戦線』の一員になるとは思わなかったけど」
「『ネオ・アレマ解放戦線』? ミシア、それって何?」
「アリスとは別に、あの世界を守る組織。私はそう教わったけど、トライブ、それで間違ってない?」
「えぇ」
突然ソフィアに話を振られたトライブは、軽く言葉を返した後、ソフィアに向き直った。
「本当は、領主たちと一緒になってアレマ領を守って欲しい存在。
でも、解放戦線はそれだけじゃなくて、自分たちの支配する国を作りたいと思ってるわ。
今の体制を維持したい歴代の領主とは、決定的に違う」
「なんか、理不尽ね……。
そういうのが敵同士で戦うことになっちゃうの……」
ソフィアが、トライブとミシアの顔を交互に見つめる。
ここでの二人はあくまでも、同じ「オメガピース」の仲間だと主張しているような目線を浮かべていた。
「そう言えば、トライブはどうしてアリスの声に応えてるの?
普通に、アリスから戦力として認められてるから?」
「半分はそれ。残りの半分は、アリスを救いたいということよ」
「アリスが心配だからじゃないんだ……」
トライブの返答に、ソフィアが真っ先に固まった。
すぐにトライブが、眠っているアリスを指差し、そっと告げる。
「心配だからって気持ちは、ほとんどない。
アリスだって、四六時中私に頼りっきりの生活をしてるわけじゃないし、
私を必要としてるのは、どうしても私じゃないとできない場面だから。
でも……、その生活も、いつか限界が来るんじゃないかって思って……」
そこまで言って、トライブはミシアに頭を下げた。
「たぶん、ミシアと同じなのよ。
私が、あの世界に興味を持ってる理由……」
「たしかに、私は永久転送が本当にあるかどうか、トライブはその先にアリスがどうなってしまうか。
最終的には同じ方向を向いている……。
私たちが敵同士になって、どうするんだろうって、思っちゃった」
「ミシア。それはしょうがないわよ。
私たちがどうするかよりも、アリスが解決すべき問題だと思うわ。
私たちは、永久転送のことを気に掛けなきゃいけないけど、あの世界のストーリーに、そこまで関わっちゃいけないのだから……」
「トライブの言うとおりね……」
ミシアはそう言うと、再び救護室を出た。
ここに来ても、何も解決策がない。そう言わんばかりに、肩を落としながら。
~~~~~~~~
「やって来ました! 第2回、領主替ええええええええ!」
アリスが、フラミンゴの召喚でバルゲートからの刺客を追い返してから、間もなく3ヵ月になろうとしていた。
今のところ、バルゲートからは何も連絡が来ていないものの、その日だけは着々と迫っていた。
「あのさぁ、アリス。
領主替えって、そんな楽しく迎えるイベントだったっけ……」
「えっ、この日はアレマ領全体が一致団結してバカになる日ですよ?」
「そんな日じゃないから。
1回目の時は、結構緊張していたの、僕は忘れてないからね」
「ギクッ……」
アリスがビリーに向かって頭を撫でたとき、領主の館の玄関が突然鳴り響いた。
この音が鳴ると走り出すのは、まるで教育された実験動物のようだ。
「あ……、食べ物じゃない……」
階段の途中で見えてしまったのが封筒だと分かった時、アリスはその場でため息をついた。
無言で手紙を受け取り、差出人を見た瞬間に、さらにため息をついた。
「やっぱり来ちゃいましたね、バルゲート……」
「領主替えのお知らせ?」
ビリーが尋ねるなり、アリスが小さくうなずいた。
それから、封筒を手で破り、中身を見ないようにしてビリーに手渡そうとした。
「アリスが見なよ。もしかしたら、あと少しでクビにされるかも知れない領主なんだから」
「げんじつとーひ」
「現実逃避かよ!
てか、この段階からバカになってどうするんだよ、アリス!」
ビリーは、そう言いながらも手紙をゆっくりと開き、全部広げたところで手を止めた。
「あ……、これ、バルゲートから目を付けられたな……」
「ビリー、どうしたんですか?」
「今回、向こうが指定してきた場所が、アレマ・コロッセオだ……。
この2ヵ月、3ヵ月で、僕たちが金儲けの場所にしてしまったところだよ……」
「私の、貴重なお菓子代が、とうとうバルゲートに見つかっちゃったんですね」
「だね。
領民が知っても嫌な顔されるのに、まして属領は金儲けするな、って公に言ってるバルゲートだもんね……」
アリスは、ビリーから手紙を渡されると、自らも上から下まで一通り目を通した。
そこでようやく「これは本当にまずい」と言葉をこぼした。
「書いてあっただろ。
今回も、バカ領主だから命は見逃すが、コロッセオで得たお金は全額バルゲートが没収するって……」
「書いてありました。でも、相手は私のギャラなんて分からないですし、
私も私で食べ物に変えちゃってるから、調べようがないと思います!」
アリスが、両手に腰を当てて言うものの、今度はビリーがため息をつく。
「領主の館と違って、コロッセオはちゃんとお金の出し入れを記録してるよ。
アリスにいくら払ったとか、出場してくれた人にいくら賞金を出したとか……。
たしか、スタッフさんに会計担当と言ってた人、いたような気がするけど……」
「あちゃー……。証拠隠滅しにくいじゃないですか」
アリスは、その場で腕を組んだ。
コロッセオに集まるよう指示されている日まで、あと3日しかない。
その間に、コロッセオ側からいかにして「アリスへの支払い」を消すかを考え続けた。
1分ほど経った時、アリスは思わず手を叩いた。
「分かりました! キングがいれば、何とかなりますよ!
とりあえず、コロッセオでバトルさせるよう手配しますね」
「えっ……、ちょっ……、ちょ……!
どういう作戦だよ!」
今回も、アリスが勝手に進めてしまう計画が動き出そうとしていた。
24話は領主替え回で、バトルもあるのですが……、メインは例によってアリスのおバカ過ぎる行動です。
応援よろしくお願いします。




