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追放兵士、領主になる  作者: セフィ
第2期 爆誕!無敵の王室騎士団(ロイヤルナイツ)
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第23話 アリスが寝ている間の出来事⑤

 ダイスの前に現れたのは、青白い光というよりも、フレイムフォックスの炎を遮るような銀色に輝く光。

 白と無の世界を自在に操るとされた魔術師が、その中からシルエットとして浮かび上がる。


「転送されてる途中なのに……、あの光から早くも力が湧き上がってる……!」


 ビリーが、シルエットを指差したままその場から動けない。

 トライブは、召喚された人物がその通りであることをいち早く突き止め、ビリーに声を掛ける。


「ミシアは……、本物よ。

 最強という言葉じゃ言い表せない。氷と雪の世界そのものだから」


「世界そのもの……。

 見た目は、僕と同じような普通の人間なのに……!」


 銀色の光の中で、時折風に揺れている黒い髪。

 召喚のさなかに、早くも右手の指をわずかに曲げ、大地を足で力強く踏みしめる。

 召喚の最後の祈り(ラスト・スペル)で告げられた、創造主の異名を、早くもビリーに見せつけていた。


 そして、光が消えた瞬間、女魔術師の足が一歩前に出た。

 ミシア・ロックハート。

 「オメガピース」で最強の実力を持った魔術師が、フレイムフォックスの群れを睨み付けた。



『相手は、冷気を操るようだな……。

 だが、我が炎に耐えられるほどの人間など、いるはずがない……』


 フレイムフォックスのリーダーが言い放つと、その両端にいた2頭が一斉に飛び上がった。

 だが、そこにミシアの鋭い言葉が空を切る。


激しく落ちる氷の刃(アイシクルメテオ)!」



 ミシアの声とほぼ同時に、飛び上がってきたフレイムフォックスたちの上空から、先の尖った巨大な氷が無数に落ち、その体と炎を突き刺した。

 フレイムフォックスも、その身から激しく炎を燃え上がらせるが、鋭く刻まれた氷の刃の痛みからか、その場で立ちすくむ。

 そして、完全に貫かれた身からは、炎を起こす力もなくなっていた。

 炎が消え、目に見えるフレイムフォックスの「本当の体」が、徐々に面積を広げている。



「な……、なんだよ……! この魔術師は……」


 ビリーは、再びその場で右往左往し始めた。

 何と言っても、ミシアが技の名だけを叫んだにもかかわらず、アイシクルメテオが瞬時にレスポンスしたのだ。

 キングブレイジオンが技を言う前に簡単に告げる詠唱は、そこには一つもない。


「これは僕……、とんでもない魔術師を見てるんだ……!」



『ふざけんな……!』


 動きを止めてしまった2頭のフレイムフォックスをかばうように、群れの残りが、一斉にミシアに向かって襲いかかる。

 すると、フレイムフォックスの足が動いたと同時に、ミシアが再び空に呼びかける。


魂を裂く極寒の嵐グラシエート・テンペスト!」


 今度は、ミシアの体から突風が放たれ、それに乗って氷や雪が荒れ狂うようにフレイムフォックスの群れに襲いかかる。

 嵐が解き放たれる角度は、90度をゆうに越えていた。


「つ……、冷てぇ……!」


 これまで、フレイムフォックスの炎で、炎天下の空気の中にいたビリーが、極寒の嵐から流れてきた風で震え上がった。

 体感温度が何十度も下がったようにさえ感じられた。

 当然、グラシエート・テンペストを真正面から受けるフレイムフォックスは、強い風に押し流されるものもあれば、相手を見失うほどに視界が遮られて右往左往し始めるもの、そして、それでも突き進んだところに極寒地獄が襲いかかり、身に(たぎ)る炎を失うものなど、嵐の中に閉ざされた全ての体が、その力を奪われていく。

 詠唱でうたわれた「氷の艦隊」が、容赦なく総攻撃を加えていた。


『おのれ……!』


 逃げ惑った末に、ようやく極寒の嵐の中から抜け出した数匹が、再びその身に炎を集め、ここまでミシアを相手に動かないリーダーを囲んだ。

 そこにミシアの手が狙いを定めた。



絶対零度の猛吹雪アブソリュート・ブリザード!」



「これが……、誰も(かな)わない、ミシアの必殺技よ……!」


 ミシアの前に、高さ10m、幅が5mにも及ぶ巨大な氷柱が現れたと思えば、フレイムフォックスの動きに合わせて、右に左に蛇行しながらその体に突き進んでいく。

 氷柱が、まるで感覚を持ったかのように、フレイムフォックスに次々と命中し、1匹残らず逃れさせない。

 氷柱に体当たりしたフレイムフォックスは、一気にその体から炎を奪われていく。

 そこに、氷柱が通り過ぎた空間が、次々と白く輝き出した。


『……!』


 氷柱の先にあったのは、熱と生命力の全てが無に変わる、絶対零度の世界。

 フレイムフォックスの魂は、あっという間に死の空間に飲み込まれ、その命が次々と止まっていく。


「フレイムフォックスが……、時間さえも止まっている……」


 誰もがミシアの放った絶対空間に目を留める中、生命の息づかいの有無をその手で感じ取ったミシアが、ようやく手を下ろす。

 すると、白く輝く世界が一気に元の闇夜を取り戻し、二度と蘇らぬ生命となったフレイムフォックスが、畑の上に、ドサッという音ともに、次々と崩れ落ちていった。



「なぁ、クイーン! なんなんだよ……、こいつは……!

 絶対零度のアーティストって言ってたけどさ……、その絶対零度さえも無詠唱で解き放つって……!」


 ビリーが慌てたような声でトライブに尋ねると、既にその力を何度も見ているのか、トライブはビリーにそっと顔を向けるだけだった。


「ミシアは、氷と雪の世界そのものがこの地上に現れたような存在。

 その世界を形作るあらゆる生命が、ミシアに絶対の信頼を寄せている。

 そういう信頼があるから、さっきのアブソリュート・ブリザードも、消費魔力がたったの4しかないみたいなのよ」


「消費魔力4って、魔術師が二つ目か三つ目に覚えるくらいの消費魔力じゃん……。

 魔術界の常識からかけ離れてるよ……。見た目は人間なのに……!」



 その時だった。

 召喚術を放ったダイスと話していたミシアが、ふと目を反らし、トライブと目が合う。

 トライブも、ミシアに気づき、顔をそちらに向ける。



「トライブも、この世界に呼ばれてたの……」


「えぇ。

 ここは、私がこの3()()()で、何度召喚されたか分からない世界よ」



 同じ「オメガピース」、同じ「最強」の名を持つ二人の女が、全く違う時代の世界で向き合う。

 その様子を、ビリーは首を左右に動かしながら見るしかなかった。


「さっきからクイーンがよく知ってると思ったら……、ある意味友達かよ!」


 ビリーは、ミシアのことをもう少し理解しようと、二人に近づこうと右足を踏み出した。

 だが、ミシアがあまりにも凄すぎる戦士なのか、ミシアの姿が徐々に薄くなり始めていた。


「ミシア、もう時間切れのようね……。

 でも、ミシアが来てくれたからこそ、フレイムフォックスを倒せたのは間違いないわ……」


 トライブの声に、消えかけたミシアが顔の向きを変えた。

 ミシアの目は細かった。



「トライブ。

 一緒に倒したように見えるけど、私たちはこの世界で敵同士になってしまった……」


「敵……」


 トライブが言葉を詰まらせるその前で、ミシアは姿を消した。

 ビリーも何も言うことが出来ず、消えゆくミシアを見つめるしかなかった。

 少なくとも、ダイスから「ロイヤルナイツは敵」だと教わっているのは、間違いなかった。


「解放戦線、とんでもない戦力を持ってしまった……」


 フレイムフォックスの放っていた煙すらも消えた夜空に、ビリーの言葉が通り過ぎていった。



~~~~~~~~



「ビリー、なんで壁により掛かって寝てるんですか~?」


 激闘から離れに戻って4時間後、ビリーはアリスの声で起こされた。

 目をこするビリーは、一度首を左右に振ってアリスを見つめた。


「アリス……。僕、疲れた……」


「グロサリさんに怒られますよ……」


「というか、グロサリさんが農場見たら、真っ青になるよ……。

 アリスが寝ている間に、ドリー領のほうから炎の聖獣が降りてきて……、食い散らかしたんだから」


「え? それ、本当ですか?

 ということは、真夜中にビリーが王室騎士団(ロイヤルナイツ)を呼び出したんですよね?」


 ビリーは、残念そうに首を横に振った。


「いや、解放戦線が倒したんだ……」


「はい、このドラマはフィクションでーす!」


「オイオイ! 一晩明けて、まだフィクションって言葉を覚えてるんかよ!

 それに、これマジだから! フィクションじゃないから!」


 ビリーが半ば笑いながらアリスに告げるが、アリスは全く信じない様子だ。


「だって、解放戦線がロイヤルナイツを上回ること、絶対絶対ぜ――ったいにありません!」


「それが……、あったんだよ……。

 属性的にキングは呼べない。奴の炎を消さなければ復活するから、クイーンもほとんど倒せない。

 だから……、解放戦線がミシアというとんでもない魔術師を召喚したんだよ……」


「えっ……」


 その名が告げられたとき、アリスはその場で固まった。


「フィクションじゃなくて、マジ……?」


「そうだよ。

 アリスも、勿論ミシアの実力を知ってるよね……?」


 ビリーが言い終わる前に、アリスはうなずいた。

 その表情は、一気に重くなった。



「ミシアさんを解放戦線が手に入れたのなら、本当にまずいことになります……。

 ミシアさんを破った人、たぶん一人もいないです」



 その時、グロサリの姿が離れの窓に映った。

 グロサリは、二人に礼をしている。

 特に、起きてしまったことを知っているビリーは、思わずグロサリを見返した。


「ごめんなさい。

 僕、炎の聖獣から農園を守れなかったんだ……」


「いいのよ……。

 襲われたところ、休耕農地だから、農作物には全く影響出てないから……。

 逆に、土が踏み固められて、畑の手入れの手間が省けたわ」


「そうなんだ……。

 じゃあ、フレイムフォックスは土を食べていただけ……」



 ビリーは、グロサリの言葉を聞いた瞬間、突然気が抜けたように崩れ落ちた。


「よかったああああああ……」


「ビリー、しっかりしてください!」



 その日、ドリー領との境界に向かう予定だったが、ビリーの反対で出来なかった。

 アリスは、一夜の間にビリーとの間にできてしまった「体験の差」を気にするしかなかった。

どんな相手も、一瞬にして氷の世界に眠らせる魔術師、ミシア。

キャラ自体は2005年に作っているのですが、本格的に戦わせたのは今回が初めてだったりします。


次回、第2期最終回!

応援よろしくお願いします!

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