第23話 アリスが寝ている間の出来事④
「ここから出なさい!
ここは、人間の畑よ……!」
フレイムフォックスの群れの先頭に移ったトライブが強く叫んだところで、群れのほとんどは言うことを聞かない。
山から下りてきた理由が、エサを探し求めていただけとはっきり告げるように、群れのほとんどが土の中に口を突っ込んでは、食べられそうなものを口にして、鋭い牙で食べている。
「出なさいよ!」
トライブは威嚇するためにアルフェイオスを一振りしたが、動かない。
トライブの目が細くなり、意識的にアルフェイオスの向きを変える。
なるべくアルフェイオスの刃を向けないようにしていた女王も、ついに斬ることもやむなしと判断した。
「はあっ!」
まずは、アルフェイオスの剣身を、土の中に首を突っ込もうとするフレイムフォックスの頭に叩きつけた。
その直後、そのフレイムフォックスの体から、炎が解き放たれた。
「くっ……!」
ある程度露出している服で戦っているとは言え、間近に炎が迫って来たトライブは、一度身を引いた。
「長い時間相手にしていたら、体に火が回ってきてしまう……!」
同じフレイムフォックスに、続いてトライブはダッシュしながらアルフェイオスの剣身を叩きつける。
一瞬、アルフェイオスに火が付くようにも見える、ギリギリのタイミングだ。
『よくも……っ!』
人間の持つ剣に二度も叩きつけられたフレイムフォックスが、突然向きを変えてトライブに飛び掛かってきた。
トライブも、その気配を感じたのかすぐに振り返り、フレイムフォックスに向けてアルフェイオスを刃の面で一振りし、ついにその身を深く切り刻んだ。
『グオオオオ……!』
よろけながら着地したフレイムフォックスは、再びトライブに振り返るものの、そこから動けない。
トライブは、アルフェイオスを高く上げて、とどめを刺そうとした。
その時、トライブの目の前に、群れのフレイムフォックスたちが次々と集まり、群れのリーダーだと思われる1匹が大きな声で叫んだ。
『我が同胞の体を傷つける、人間の女。
我らが怒りに焼き尽くされ、この地で灰となれ……!』
トライブが左右に首を回すものの、一瞬にして10匹のフレイムフォックスに取り囲まれてしまった。
トライブは、とりあえず目の前に立ったフレイムフォックスに剣を振るものの、それを見計らったいくつかのフレイムフォックスがトライブの背後から迫ってくる。
「なかなか……、この状況を抜け出せないわ……!」
後ろから襲ってくるフレイムフォックスを薙ぎ払うと、トライブがアルフェイオスを天にかざした。
「バスターウイング!」
服に火が付いたトライブは、剣の力で天高く飛び上がり、間一髪のところでフレイムフォックスの群れから抜け出してビリーの横に戻った。
肩で呼吸をするほど体力を消耗しているわけではないものの、トライブの思考回路でも、次の作戦がすぐに思い浮かばない様子だ。
「大丈夫かよ、クイーン……」
トライブの目が、一瞬だけビリーに向けられる。
「えぇ……。大丈夫よ。
ただ、残された手段が少なくなってるのは、間違いないわ……」
トライブの目は、まだ諦めを見せていない。
力を出せる限界まで戦い続けると、ビリーにはっきりと伝えるような、冷静な表情だった。
「フレイムフォックスが纏っている炎が、邪魔なのよ……。
だから、やや離れたところから、剣先で、しかも剣を体と垂直にして攻撃しないといけない。
それで、私が本気のパワーを出せる間に、あらゆる方向、全てにダメージを与える。
倒すまではいかなくても、これ以上の攻撃はしないと思う……!」
「分かった……。
数多くのバトルに勝ってきた、『剣の女王』の出した答えを信じるよ」
トライブがビリーにうなずくなり、再びアルフェイオスの先を高く上げた。
その間にも、しびれを切らしたフレイムフォックスの群れが、ゆっくりとトライブたちに近寄って来る。
逆に、群れの全てがトライブを狙いながら固まっている。
トライブには、チャンスだ。
「バスターウイング!」
トライブがアルフェイオスに導かれるように飛び上がり、今度はフレイムフォックスの群れの中心に斬り込んでいく。
「はああああああっ!」
これまで、王室騎士団のバトルで決して見せなかったスピードで、トライブがフレイムフォックスたちに剣を次々と叩きつける。
その力、まさに女王の本気。
致命的なダメージとはいかないものの、その一撃で次々と土の上にフレイムフォックスが薙ぎ倒されていく。
だが、一通りダメージを与えたトライブの周りで、再びフレイムフォックスの体から炎が湧き上がる。
『その程度の傷で、我らが死んだと思うな……。
我らは、聖なる力を持った魂。
我ら生命のエネルギーは、纏う炎のもと、決して滅びぬ……!』
再び、リーダーと思われる1匹が大きな声で叫ぶと、その声を合図に、薙ぎ倒されてフレイムフォックスが次々と起き上がり。再びリーダーの前にまとまる。
どのフレイムフォックスも、トライブを睨みつけている。
体から湧き上がる炎も、今度こそ焼き尽くそうと言わんばかりに、激しく燃え上がっていた。
「どうすればいいのよ……!」
やや息が上がったトライブは、再び残された選択肢を考えなければならなかった。
フレイムフォックスの体から炎が上がっている限り、剣士にとっての圧倒的不利な状況は変わらない。
その時、トライブとビリーが、フレイムフォックスの群れの背後で、何かが動いているのをその目で見た。
やがて、フレイムフォックスの周辺に立ち込める煙の中から、一人の男の姿が映し出された。
「アレマの平和は……、我々の手によって作り出される!
伝説の聖獣よ、この地で息絶えるがよい!」
「あの声は……!」
ビリーは、聞き覚えのある声に息を飲み込んだ。
フレイムフォックスの群れが、トライブから目線を離し、その新たに襲ってくる「敵」に向けられる。
フレイムフォックスの炎が暗闇を照らした先に、モヒカンの男がゆっくりと近づく姿がはっきりと見えた。
「ジェイド……。
なんで『ネオ・アレマ解放戦線』がいるんだよ……!」
ビリーは、ジェイドと、その周辺に立つ数名の男性にはっきりと聞こえるように叫ぶ。
すると、向こうもビリーとトライブに気付き、二人を睨みつけた。
「フレイムフォックスが山を下りてきたと聞いて、我らの手柄になると思えば、やっぱりいたか領主軍。
だが、炎を纏う相手に、そっちの力では手も足も出ないようだな……」
「なんだって……!
アレマの平和は、僕たちが責任をもって守るんだ……!
解放戦線に、手柄を取られてたまるか……!
なぁ、クイーン」
ビリーがトライブに振り向くと、既に解放戦線と戦った経験のあるトライブはうなずいた。
だが、三つ巴の軍勢の中で、次の一手を全く考えられないのは、むしろロイヤルナイツのほうだった。
「お前たちからわざと避けていたこの2ヵ月の間に、解放戦線は優秀な召喚術師を手に入れた。
歴代最強クラスの魔術師を呼び出す。
それも、氷属性だ……!」
「なんだって……!」
属性を聞いたとき、ビリーは思わず右往左往する。
トライブの口からは、「まさか」という言葉がこぼれてきた。
「さぁ、召喚術師ダイス・ディブリーズ。
お前が誰よりもリスペクトする魔術師で、この局面を一瞬にして終わらせろ」
ダイスと告げられた赤髪の青年が、ジェイドに無言でうなずく。
それから、フレイムフォックスの群れが見つめる中、空に手をかざした。
「その声で眠らせよ。この混沌とした世界を。
その力で無に還らせよ。邪悪に染まったあらゆる魂を。
汝の従える、絶大なる氷の艦隊に、抗いうるものなし。
氷雪の世界の化身と認められた力を、この地で解き放て!」
ビリーも、トライブも、そしてフレイムフォックスたちも、ダイスの手に集められた大きすぎる力を、まじまじと見つめていた。
キングブレイジオンを召喚するときに、何十倍、何百倍ものエネルギーが、この空間で動き始めている。
その空間を操るダイスの口が、大きく開かれる。
「出でよ、絶対零度の創造主、ミシア・ロックハート!」
「どうして……、どうしてミシアまで……!」
ここまで、この世界で常に落ち着いた声を放っていたトライブが、その名を聞いた瞬間に、震える声で叫んだ。
ビリーは、トライブの言動を含め、戸惑い続けるしかなかった。
絶対零度のアーティスト、ミシア。
次回、ビリーはそのオーバースペックの強さを目にすることとなる。
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