第23話 アリスが寝ている間の出来事②
ドリー領との境界付近のモンスターと戦うために、グロサリの家に立ち寄ったアリスたち。
翌朝は早目に出ないと山道で夜を過ごすことになりそうだったので、夕食後、アリスたちはグロサリとの会話もそこそこに、離れに向かった。
この日も、二人分の布団が離れに積んでいて、二人は難なく布団を敷いた。
そして、アリスがその上にダイブする。
「あ~っ! 久しぶりに布団で寝られる~!」
「ちゃんと布団で寝なよー!
昨日まで地べたで寝てたから、布団の掛け方とか忘れちゃったとは言わせないぞ?」
「忘れました。てへへっ!」
そう言いながら、アリスはうつ伏せにダイブした体を起こし、電気を消し、そのまま布団にもぐり込んだ。
「言ってるそばから、布団での寝方を覚えていたりする。それが、ここの領主のいいところなんだよなぁ」
「いいところですか? これ、ただのネタですよ?」
アリスが苦笑いを浮かべると、ビリーはため息をついた。
「それにしても、明日はどんな敵と出会うんだろう。
スワール領のことは、道がいくつかつながってるから分かるけど、
ドリー領はアレマからつながってるの、山道だけだもの……」
「たしかに、ドリー領がどういう場所か、僕も見当が付かないよ……。
ただ、モンスター図鑑によれば、結構高いレベルのモンスターが出てくるって話だけど……」
ビリーも布団に入って、天井に息を吹きかける。
それから、アリスに顔を向けると、アリスは納得がいかないような表情を浮かべていた。
「このモンスター図鑑はフィクションです。
実在の人物や団体などとは関係ありません。
だったら、どうしますか……?」
「オイオイオイ、アリス! そこを否定するんかよ!」
「だって、世の中いろいろなニュース、記事、噂話、ゴシップ、眉唾が出てるじゃないですか。
でも、自分の目で見ていないことを、本当に信じていいんですかね?
ビリーは、どういう基準で、信じることと信じないことを決めてますか?」
「眉唾は信じちゃダメだけど……、名前の通った発信元から出ているニュースは信じるな。
たまに、オメガプレスは嘘記事ばっかりを書く、とか言ってる人いるけど、多くの人はそこの記事を信用しているわけだし……」
アリスは、何も突っ込まずに、ビリーに向かってうなずく。
「他のものを一切信じない。
例えば、アリスにとっての僕とか、クイーンとかさ……。
『オメガピース』に入る前に面倒見てくれた、親御さんでもいいや。
そういうものまで信じられなくなったら、人間って生きていけないと思うよ。
頼りにするってことは、信じるってことの裏返しなんだからさ」
「あー、たしかに……。
やっぱり私は、信じるものは信じて、頼りたいものには頼らせてくださいと言いますね……」
「そういう意味で、僕が書庫で見たモンスター図鑑はさ……。
他にドリー領との境界のことが書かれてないから、すっごく信頼していいと思うんだ」
ビリーは、アリスから目を反らして、再び天井を見上げた。
「それでも私は、モンスター図鑑がフィクションだと信じたいです……」
「なんでだよ」
「考えてください?
もし、ドリー領に棲んでいる強いモンスターが、何かの拍子に山を下りてきたら、どうなりますか?」
「アレマ領に下りてきたら、ってこと?」
アリスがうなずくと、ビリーが布団の中で腕を組んだ。
すると、アリスが突然布団から体を出して、ビリーの耳元に顔を近づけた。
「あまり大声では言えないですけど、モンスターが下りてきたら、グロサリさんの農場、ひとたまりもないです」
「アリスが気にしてるの、そこなの?
もしグロサリさんの農場がモンスターに食い散らかされたら、領主の館に野菜が……」
その時、ちょうど窓から差し込む星明りが何者かに遮られた。
ビリーが窓に振り向くと、見覚えのある白髪のおばさんが中を覗き込んでいた。
「離れを暗くして、何ヒソヒソ話してるのかしらね……」
夏場なので窓が開いていることに、アリスは気付いて、ビリーは全く気付かなかった。
ビリーは、グロサリと目が合った瞬間、勢いよく布団を飛び出し、離れのドアを開いた。
「こんなところで、農場がダメになるとか、そんな話をしてすみませんでした……!」
ビリーが再び顔を上げると、意外にもグロサリは普通の表情でビリーを見つめていた。
「いいの、いいの。
領主さんと何か積もる話でもあったんだから、そこは気にしちゃいけないわ。
でも、ここの家にやって来る人が、悪い意味で予言者になってしまうこと、今まで結構あるから、私、耳にした言葉はどうしても気にしちゃって……」
「つまり、僕がその予言者……、っていうこと?」
「そうね……。
最初に会った時は、領主さんほど予言者には見えなかったけどねぇ……。
だんだん領主さんといる時間が長くなって、いつの間にか領主さんと同じくらいの予言者になってるかもね」
グロサリのその言葉で、アリスも飛び起きる。
それから、ビリーが見せたようにドアの前までダッシュし、そこで土下座をした。
「すいません。
か弱い召使いを……、こんな一級フラグ建築士の私と同レベルにさせてしまって!」
「なぁ、アリス。僕、か弱くないし。
それに、フラグ建築士って言葉、聞いたことないんだけど……」
ビリーの鋭いツッコミに、アリスは舌を出して頭を撫でた。
「ビリーは、『オメガピース』のテレビで流れている深夜アニメの世界とか知らないですものねー」
「どんどん、僕の知らない世界の話に持っていくな――っ!」
二人のやり取りを、グロサリがクスクスと笑いながら見つめていた。
「本当に、お二人さん、いつ見ても面白いわね……。
領主替えという風習もなくなるくらい、二人の治めるアレマ領が続いて欲しいわ……」
「ありがとうございます」
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その後、グロサリも離れに入り、グロサリの農場で起こった事件を手短に告げた。
その中には、怪談話のようなものもあれば、本当に夜中にモンスターに奇襲されて、イオリ草を1列全て食い散らかされたこともあるのだった。
それらが全て、「グロサリの家で泊めて欲しい」と尋ねてきた旅人がうっかり漏らした「予言」と一致していた。
「ここ、怖いというか、曰くつきの土地ですね……。
私やビリーが一級フラグ建築士だから、と言うよりも、この場所がスピリチュアルな何かに満ちてますよ」
「スピリチュアル、ねぇ……。
農作物は豊富に取れるから、そこまで悪い場所ではないのだけどねぇ……」
アリスが真顔で言ったものの、実際に数多くの災難を経験してきたグロサリの表情は浮かない。
そこに、アリスがもう一押しの提案を告げた。
「せっかく、アレマ領特産品のイオリ草生産者がここにいるんです。
領主の私が、大事な産業を守らなきゃいけないじゃないですか。」
「領主さんたち、いろいろな召喚できるから、そういう怖いものを相手にしても怖くないのよねぇ……。
頼りになるわぁ」
「そうですよ! 私たちは、アレマを守る王室騎士団ですから!
少なくとも、今夜は私たちが一晩中見守って、そのスピリチュアルな何かを壊します……!」
「そう、アリスの言う通り!
この領土を守るのは、ロイヤルナイツの本来の役割なんだから!」
ビリーの言葉にグロサリが笑って、その場はそこでお開きになったのだが……。
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「結局、アリスが真っ先に寝てるよ……」
グロサリが離れを出て5分もしないうちに、アリスは眠ってしまった。
普段以上に、アリスのいびきがビリーにけたたましく聞こえてくる。
「僕が予言したから、アリスはここを守るって言ったのに……、本人寝ちゃったし。
これがアリスの言う『フラグ』ってことかよ、もぅ……」
こうなった以上、起きなければいけないのは「言い出しっぺの」ビリーだ。
いや、小声ながら最初に不吉な言葉を言ったのがアリスなので、ビリーもとばっちりなわけだが。
「これはもう、徹夜かな……」
ビリーが何度目かのため息をついたその時だった。
突然、外の闇が白く輝き始めた。
「なっ……、何で空が明るくなるんだよ!」
アリスが寝ている間に、本当にモンスターが襲来?
最悪のフラグが回収され始めた?
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