第22話 プライベートビーチ大作戦!⑤
「ヒール!」
アルフェイオスを取り戻したトライブがビッグシーマンから離れると、アリスも一緒になってビッグシーマンから離れ、トライブの体と、自分自身の体の傷を癒す白い光を灯した。
「ありがとう。アリス」
アリスがトライブにうなずくと、今度はビリーに手を挙げた。
「遠隔攻撃があった方が、この勝負、絶対いいです!」
「よし、分かった!
僕たちアレマの誇る、最強の力を見せてやる!」
アリスたちがそうやり取りしている間にも、ビッグシーマンはゆっくりとアリスたちに向かって歩みを進める。
アルフェイオスを失った手に、ウニの棘にも似た鋭い突起が生え始めた。
『何が最強の力だ。
みんなまとめて、食らいつくしてやる……!』
ビッグシーマンが腕を振り、新たな武器を遠くから見せつけた。
その瞬間、ビリーは空に手を伸ばした。
「その体に纏うは、正義を貫く一途な情熱。
その体が解き放つは、邪悪を焼き尽くす勇ましき炎。
熱き心を授かりし紅炎の王者よ、いま汝の力を大地が欲するとき。
いま、永久に燃える汝の生命力で、この地を絶望から解き放て!」
ビリーの目の前に力が集まってくる。
だが、その力が集まるよりも早く、ビッグシーマンの腕の横に付いたヒレが上下に動く。
「飛んだ……!」
10mの身長があるビッグシーマンが、さらに10m、一瞬で飛び上がり、上空からアリスたちを見上げる。
手のトゲを、早くもビリーに向けている。
「この状態のビリーを狙うなんて、卑怯よ!」
トライブはアルフェイオスを構えたまま、ビリーの前に立つ。
だが、ビッグシーマンのヒレが再び羽ばたき出し、素早くアリスたちに襲い掛かったきた。
『召喚が失敗すれば……、こっちの勝ちだ!』
「はあああっ!」
襲い掛かってきたビッグシーマンの手を、トライブがアルフェイオスで止める。
手の大きさが、ちょうどアルフェイオスの剣身の長さだ。
幅は明らかに相手の方が上だが、トライブは懸命に耐えている。
そして、ビッグシーマンの手の力が弱まったところを見計らって、アルフェイオスで手に斬りかかる。
「後付けで生えてきたトゲは、簡単に斬れる!」
『なんだと……!』
トライブの右に、無数のトゲが落ちていく。
攻撃手段を封じられたビッグシーマンは、それでも手に再びトゲを生やし始めた。
そこに、ビリーが力強く叫ぶ。
「降臨! キングブレイジオン!」
ビリーは、あえてビッグシーマンから背を向けて、青白い光を解き放った。
前線をトライブに任せた形だ。
ビッグシーマンの手が次々とトライブに襲い掛かり、トライブはそれを受けるものの、相手の動きの素早さに同じ局面から脱却できない。
「クイーン……、耐えて……。
ロイヤルナイツが揃えば、間違いなく勝てるから……!」
青白い光の中で、早くも紅炎の王者が戦況を見つめている。
自身の召喚が成功するまでトライブが耐えていることは、その目ではっきりと捉えていた。
だが、いよいよ青白い光が消え、中から金属の体がはっきりと見え始めたとき、ビッグシーマンがヒレを羽ばたかせて飛び上がり、トライブから一旦離れた。
「今しかない……! バスターウイング!」
トライブも剣の力で飛び上がり、ビッグシーマンへと迫る。
心臓を狙って、曲線を描くように突き進んだ。
だが、次の瞬間、ビッグシーマンがヒレの動きを突然止め、急降下した。
『上からでは、ダメージにならないっ!』
トライブも、向きを変えようとするものの、アルフェイオスで頭をかすめることしかできなかった。
その直後、ビッグシーマンの拳が、背中からトライブに襲い掛かる。
拳の攻撃をかわすタイミングは、なかった。
「だはっ……!」
トライブが、アリスたちとは反対側に投げ飛ばされ、アルフェイオスの意思とは関係なく落ちていく。
数秒も経たないうちに、ブシャッという音を立てて、海の中に落ちていった。
『さぁ、遠隔攻撃とやらはこれか……』
ビッグシーマンが再び砂浜に降り立って、先程よりも明らかに速いスピードでアリスたちに近づく。
「口の中から、水を出そうとしている……!」
アリスが、ビッグシーマンの口の中を見て、思わず人差し指を向けた。
この地に降り立ったキングブレイジオンが、すぐに二人の前に立ち、体じゅうの炎を右手に集める。
だが、その瞬間に、ビッグシーマンの口から、大量の水が渦を巻いて吐き出された!
『ウォータートルネード……!』
キングブレイジオンが、襲い掛かる水に向けて右手を伸ばした。
「炎よ、邪悪なる力を食い止めよ……! 燃えさかる盾、結成!」
激しく燃える炎の盾が、ビッグシーマンから解き放たれた水を食い止めようとする。
だが、最初は一瞬で水蒸気へと変わっていった炎が、徐々に水の渦に押されていく。
「くっ……!」
キングブレイジオンも炎の盾を次々と編み出していくが、耐えるのがやっとで、押し返せない。
アリスが、呼吸を速めながら、状況を見守り続ける。
「なんか……、ビッグシーマンがずっと押してるような気がする。
私たち、守ることしかできてない……!」
トライブを召喚し、キングブレイジオンを召喚したにもかかわらず、1対1の勝負に持ち込まれては押されていく。
この5分ほど、同じことの繰り返しだった。
この状況に、再びアリス自らが走りだそうとしていた。
だが、そこに光が差した。
「はあああっ!」
ビッグシーマンが、背後から聞こえる高い声に振り向くと、水の中から這い上がったトライブが再びアルフェイオスで飛び上がり、背中を深く斬りつけた。
『なああああああ……!』
キングブレイジオンを苦しめていた水の向きが、下へと変わっていき、炎の盾も勢いを取り戻す。
その横に、トライブが着地し、キングブレイジオンと一緒にうなずいた。
「「我ら、アレマ領を守る正義の力、王室騎士団!」」
『おのれええええ!』
ついにロイヤルナイツが束になったのを、ビッグシーマンが鋭い目で睨みつける。
だが、口は水を吐き切っている上、背中にはまだアルフェイオスで突き刺された痛みが残っており、それまでのように高速で動けるような状態ではない。
ヒレで飛び上がるのが体力的にやっとのようだ。
「さぁ、これが俺たちの……、勝利への執念だ!」
キングブレイジオンの右手に、半径3mにも及ぶ巨大な炎が輝く。
ビッグシーマンが、キングブレイジオンの手となるべく一直線にならないように動き出すものの、キングブレイジオンは全くためらわなかった。
「勇敢なる炎、発射!」
『なにいいいいいいいいっ!』
ビッグシーマンの足元から、頭へと一気に突き上げる炎。
海の力を集めたはずの巨人が、砂浜の上に崩れ落ち、やがて灰へと変わっていった。
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「砂浜、形まで変わっちゃったね……」
ロイヤルナイツの二人を元の世界に戻すと、後にはアリスとビリー、それに浜辺に積み上がったビッグシーマンの燃えカスだけが残った。
「あまりよくないけど……。
というか、ここには来ちゃいけなかったのかもね……」
「たしかに」
アリスが笑うと、ビリーも一緒になって笑った。
「でも、ロイヤルナイツ、こういう未知の相手にも勝てるんだから、すごいと思うよ。
二人とも、だてに戦いを重ねているわけじゃない。
そうだね……、もしかしたら、ドリー領との境界付近のモンスターも、何とか倒せるんじゃない?」
「そうですね。
その時は、もう一度勇者アリスも立ち向かって……」
そこまで言ったアリスは、両手を広げた。
それから、息を飲み込んだまま、呆然と立ち尽くした。
「砂浜に突き刺したんだから、もうアリスはアルフェイオスを持てないね。
クイーンも、あれだけは本気で怒ってたし……」
「ですね」
アリスは、ビリーに向かって力なくため息をついた。
それから、ビリーに小さな声で「ドリー領に行こうか」とだけ告げ、海に背を向けた。
次回、23話。
ロイヤルナイツを凌駕する「最強」が登場……?
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