第22話 プライベートビーチ大作戦!④
ズドオオオオオオオン!
アリスたちにもはっきり聞こえる音で、アルフェイオスが地上に刺さったまま、砂浜が盛り上がった。
そしてその中から、水色の体をした巨大な人間が姿を見せた。
『我が名は、ビッグシーマン。
我が魂を、眠りから覚ませたお前らには、怒りの制裁を加えるしかないようだ……』
太い声が海岸に響く中、ビリーは真っ先に腰を抜かした。
「な、な、な……、なんだぁ?
なんで、こんなところにモンスターが潜んでいるんだよ……!」
「南海岸には、それほど強くないモンスターが出るとか、ビリー言ってませんでしたっけ?」
「言ってたけどさ……!
僕が書庫で読んだ本には、こんな巨大な人魚がいるなんて書いてなかったぞ!」
地面を強く踏みしめ、高さ10mはゆうにある大男、ビッグシーマンがアリスたちを見下ろしている。
背中にヒレがついているものの、それとは別に手があって、その手が頭へと伸びる。
そこでようやく、トライブはアルフェイオスの姿を目で捕らえた。
「アルフェイオスが……、頭に突き刺さってるわ!」
「「なんだって……???」」
アリスとビリーは、一斉にビッグシーマンの頭を見つめる。
頭に深く突き刺さっているものの、その頭は海藻のようなゼラチンになっていて、そのゼラチンが接着剤のようになっているのだった。
それこそが、頭に剣が刺さっても平気な理由であり、またアリスたちがいくら強く引いてもアルフェイオスが抜けなかった理由でもあった。
『幸運にも、なかなか切れ味の良さそうな剣のこと……』
ビッグシーマンが、アルフェイオスを軽く振る。
巨大な腕に操られるだけあって、剣そのものは目立たないものの、それでもトライブが操るときと同じほどの力強い風がアリスたちに吹き付ける。
そこに、トライブがビッグシーマンの目を見つめる。
トライブは、ビッグシーマンの足下に立ったまま、動こうとしない。
「これは、私の剣よ。返しなさい」
だが、ビッグシーマンはにやけながらトライブを見下す。
『そこに使い手がいたとはな……。
お前を倒せば……、この剣は名実ともに我が力となる!』
すると、ビッグシーマンの足が地面から勢いよく離れ、空へと駆け上がる。
「こっち来る……!」
トライブの真上にビッグシーマンの足が届いたとき、トライブは真っ先に右に逃げ出す。
攻撃手段のない女剣士の足が、走りづらい砂浜の上を懸命に逃げ続けた。
だが、地上8mほどの高さにあるビッグシーマンの目が、トライブの動きを追っている。
『逃げても無駄だ……!』
ビッグシーマンが、トライブの逃げる方向に体を傾け、勢いよく足を振り下ろす。
逃げるトライブは、振り向かない。
「あっ……!」
ビッグシーマンの足が、地面を叩きつけ、砂埃が舞い上がる。
その砂埃で、トライブの姿が見えなくなり、アリスは一瞬息を飲み込んだ。
それでもトライブは、砂埃の衝撃でよろけるものの、間一髪のところでビッグシーマンの足から逃れ、走り続けていた。
「みんな、なるべく高台に逃げた方がいい!」
トライブは、海に背を向けて、アリスたちが降りてきた坂道のほうに走り始めた。
アリスとビリーも、トライブの声とともに、海岸から逃げだそうとした。全裸で。
『今度こそ、お前を踏み潰してやる……!』
再び、ビッグシーマンの足が地面を叩きつけ、トライブが間一髪で逃げ切る。
しかし、今度はそれで終わらなかった。
「ぐはっ……!」
「クイーン……?」
アリスは、トライブのあえぎ声に立ち止まり、海岸のほうに振り返った。
ちょうどトライブが、うつ伏せになって砂浜に投げ飛ばされるところだった。
地面を踏んだ後、ビッグシーマンが前に足を蹴り上げたのだ。
「……っ!」
トライブは、起き上がろうと両手で体を持ち上げようとするが、すぐさまビッグシーマンの足がトライブの背中を踏みつける。
こうなると、トライブは動くことが出来ない。
『これで終わりだ……!』
「ああっ!」
ビッグシーマンが、手に収まったアルフェイオスの先を、トライブの頭に向ける。
上を向くことすら出来ないトライブは、足から抜け出そうともがいているが、間に合いそうにない。
そこで、アリスは一足先に坂道へと逃げるビリーに振り返った。
「ビリー、キングブレイジオンを……!」
だが、アリスの声に立ち止まったビリーは、アリスに振り返って首を横に振った。
「無理だよ!
そんなことしたら、アルフェイオスが灰になっちゃうって……!」
「あ……、そうか……!」
キングブレイジオンは、ビッグシーマンの体半分ほどの大きさまで炎を広げることが出来る。
もしそのような炎が腕に達してしまえば、今度こそアルフェイオスに明日がなくなるのだった。
「……何とかしなきゃっ!」
アリスは、トライブの捕らえられた場所に向かって走り続けた。
ここまで面倒を見てくれた女王の命が、自らの剣で失われるのを、アリスは黙って見ているわけにはいかなかった。
今にも剣を振り下ろそうとしているビッグシーマンの前に、アリスは仁王立ちした。
「砂かけアリス、参上!」
『なんだ……?
砂かけなんて……、子供じみた真似か……?』
少しだけ手を止めて、軽く笑うビッグシーマンを、アリスはにらみ続ける。
「だって、私は武器を持たない子供だもん……!
剣の女王は、私が守るっ!」
「アリス……」
トライブが、苦しそうな声を浮かべながらも、それでも真剣な眼差しでアリスを見つめている。
その中で、アリスはしゃがんで、両手いっぱいに砂を握りしめた。
「えいっ!」
アリスは、ビッグシーマンの目に届く角度で砂を投げた。
だが、冷静に考えて欲しい。
相手は、軽い砂だ。当然、すぐに下に落ちる。
「ああああああ……!」
アリスが投げた砂は、トライブの金髪の上に、ものの見事に被さった。
トライブが、口に入った砂を吐き出すのに必死だ。
『やっぱり、考えることが子供のようだな……!』
今度こそ、ビッグシーマンの肩がかすかに動き、アルフェイオスの剣先を勢いよくトライブに振り下ろした。
その時、アリスが無意識にトライブに向かって走り始めた。
「えっ、なっ……、何するんだよ!」
後ろから聞こえてくる、ビリーの戸惑いの声にも、アリスは一切振り返らない。
全力で走ったアリスが、トライブの背中に勢いよくうつ伏せで飛び乗った。
それから1秒も経たないうちに、アルフェイオスの先が突き刺さった。アリスの腰に。
そこで、トライブが数秒間に起きたことを理解した。
まだ首を自由に動かせない中でも、トライブは目だけをアリスに向けた。
「アリス……?
ど、どうしてアリス、そんな危険なことをするのよ……!」
「私が、クイーンを守るしかないじゃないですか……!
アルフェイオスを粗末に扱った私が、全部悪いんですから……」
アリスの目から涙がこぼれ始めていた。
だがトライブは、「そんなことはない」と言い放ち、この状況にも関わらず、落ち着いた声でアリスに告げた。
「やってしまったことは仕方がないのよ。
今は、私たちがどうやったら勝てるかを考えるとき……。
アリスは、アリスなりに、今だってちゃんと考えてくれたじゃない……!」
「分かりました……」
普段、何度も言われている言葉のはずなのに、この時ほどアリスの耳にはっきり響いたことはなかった。
アルフェイオスが突き刺さった背中の痛みなど、剣を持てない女王の前では大したダメージに思えないほど、アリスは戦闘に集中していた。
「こうなったら……!」
再び、ビッグシーマンの手がアルフェイオスをトライブに向けて振り下ろす。
その瞬間、アリスはビッグシーマンの足下に飛びかかり、足の指をくすぐった。
「こ~ちょこちょこちょこちょ!」
『ぬああああああああ!』
どうやら、ビッグシーマンのツボに効いたようだ。
トライブに向かって振り下ろしたはずのアルフェイオスが、トライブの右に反れる。
さらに、反動で、トライブを踏んでいたはずのビッグシーマンの足が、トライブの背中からわずかに離れた。
次の瞬間、トライブがアルフェイオスの刃に飛びついた。
「離しなさい……!
これは、私の剣よ……!」
柄を持ったビッグシーマンに、刃を持つトライブ。
鋭い切れ味を持つ武器と誰よりも分かっているトライブが、その愛する剣を取り戻そうともがく。
手に刻まれる傷は、勝利以外の全てを捨てた、女王の意思。
アリスも、共に戦ってきた仲間のその意思に応えるように、さらにビッグシーマンの足をくすぐる。
『や……、やめろ……!』
足をくすぐられたビッグシーマンの体が、笑う。
腕を振り上げれば、アルフェイオスごとトライブを空中に突き上げられるはずなのに、その余裕すらなかった。
「はあっ!」
トライブは、ついにアルフェイオスの柄に手を当てた。
そして、腕を強く引いて、アルフェイオスを力ずくで奪い返した。
「クイーン……!」
ボロボロになりながらも、力の証を取り戻した女王。
その姿は、アリスにとって普段をはるかに超えるほどたくましく見えた。
さぁ、次回はロイヤルナイツがビッグシーマンに立ち向かいます!
応援よろしくお願いします!




