第22話 プライベートビーチ大作戦!③
クラゲ取り vs 海藻取り。結果は、袋からクラゲが逃げ出してしまったため、アリスの負けとなった。
アリスは仕方なく、再び海に入ってクラゲをいくつか出したものの、その表情は浮かなかった。
「そう言えば、私、負けたら罰ゲームと言いましたよね」
「言ったよ。
アリスが自分の罰ゲームを考えたらロクなことないから、僕が罰ゲームをいくつか考えるよ」
アリスは、自分で蒔いた種ということがよく分かっているかのように、うなずいた。
「じゃあ、罰ゲーム候補1は……、僕がサメを召喚して、アリスが海の中を逃げ切れたら勝ち」
「えっと……、ビリーは、リアルで私を抹消する気ですか」
「そんなことはしないよ。
ガブッと言ったら、僕がサメを消すから大丈夫。
あの恐竜ショーみたいに、僕の制御が効かなくなったら、慰謝料くらい払ってあげようと思うけどね……」
「うわぁ……。
慰謝料という言葉が出てくるほど、私たち、ドロドロしてましたっけ……?」
「冗談! 冗談!
僕が領主を殺しちゃったら、それこそ大問題になるもんね」
アリスが苦笑いする中、ビリーは首を上に傾けて、次の罰ゲーム候補を考え始める。
徐々に潮が満ちてきたようで、先程まで波が来ていなかったところに立っていても、足に水を感じ始めた。
「じゃあ、罰ゲーム候補2。木の棒を立てて、その周りを10回回ってワンと言う」
「今度はまともな罰ゲームですね。
じゃあ、これを棒にして、回ってみましょうか……」
そう言うと、アリスは着替えの横に無造作に置かれたアルフェイオスを持ってきた。
「一番身近な棒って、これですよね」
「それを棒と言った時点で、クイーンが悲しむぞ、オイ」
ビリーがアリスにツッコミを入れるのも空しく、アリスはビリーのすぐ横で、砂の上にアルフェイオスを突き刺し、アリスの腰の高さになるまで埋めた。
「じゃあ、10回ですよね。いきます」
「ちょっと待って、アリス。
そこまで剣を埋めちゃって、剣も10回回るのかなぁ……?」
「ギクッ……! ドキッ……!」
アリスは、その魂胆がバレたかのように息を飲み込んだ。
「ズルはいけないからね。せっかくの罰ゲームなんだし」
「ズルなんかする気はないですよ~。私、大の大人なんですから!
ただ私は、ビリーが言ったとおりに罰ゲームを実行すればいいんですから」
「アリスがやりそうなこと、僕にはみんな分かってるし、そもそもアリスが自分で大人と言うのはキモいから」
アリスは、ビリーに苦笑いを浮かべて、やや不自然にビリーから目線を反らした。
そして、いきなりアルフェイオスの柄を掴んで時計回りに回り始めた。
「い~ち、に~、さ~ん、し~、ご~、ろ~く、じゅう!」
「早っ! というか、数字いくつか飛ばしてたような気がするけど……!」
「あ、バレました?」
そう言いながら、アリスはアルフェイオスを砂から引き抜こうとした。
ビリーがそこで回ると予想していないうちに回りだし、終わったら証拠隠滅を図ろうとする作戦だったのだが。
「ビリー、抜けないです……」
「そりゃ、7周した後にさ……、体の力を使って引き抜かなきゃいけないからじゃん」
ビリーが、アルフェイオスの前に立って、半ばフラフラの状態になっているアリスの手を剣の柄から離させた。
それから、ビリーが強く持ち上げようとするが、ビリーがどれだけ力を入れても持ち上がらない。
「な……、な……、何だよ……! 抜けねぇ、これ!
アリス、どこまで深く突き刺したんだよ……!」
「えっと……、私の腰の高さになるあたりまでです」
「そうじゃなくてさ……。
例えば、50cmとか60cmとか……、たぶん、アリスの腰までだと70cmは突き刺したんじゃないかな、と……」
そう言っている間にも、ビリーは懸命にアルフェイオスを抜こうとするが、アルフェイオスはびくともしない。
ビリーの全裸の体から、大量の汗が流れ落ち、その粒が空の光に輝いている。
「こんなに突き刺したら、ホントに抜けなくなるんだよ……! ねぇ!
よく、物語でも、剣を抜いたら英雄だとか、剣を抜いたらその剣の持ち主だとか言われるけど、
いま僕たちがやろうとしていること、まさにそんな感じなんだからね!」
「なるほど……。
クイーンが、私によく言ってますよ。強い剣になるほど、剣が人を選ぶって」
ようやく、立っている感覚を取り戻し始めたアリスは、ビリーの下に手を当てて、ビリーが引き抜こうとするタイミングで力を入れた。
それでも、アルフェイオスは全く動かなかった。
「……ったく、どうしてくれるんだよ!
王室騎士団の勝利のために、僕たちがアルフェイオスを預かることになったのに、
この砂浜で抜けなくなりましただったら、シャレにならないからね……!
たぶん、これ、本人じゃないと抜けないんじゃないかな……」
「いまクイーンを召喚したら、絶対怒られますよ。
アルフェイオスに『バーカ』と書いたときと同じくらい……!」
「自分がやったんだから、素直に怒られればいいじゃん!
ていうか、こんなことをしたんだから、クイーンに謝るしかないと思うけど……」
「はぁ~い……」
アリスは、力なく歩き出し、空に右手を伸ばした。
「不可能を斬り裂く風を呼び、未来へと導く光を纏う、誇り高き女剣士よ。
我が大地の命運を、いまその腕に託す。
その魂が許すなら、我が声に応え、凛々しくも勇ましき一撃を下せ。
そして、この地にもたらせ! 穢れなき、正義の輝きを!」
いま目の前で起こっている「不可能」を斬り裂くことが出来なければ、トライブの剣が未来の世界に葬り去られる結果になる。
あの剣を引き抜けるのは、トライブだけ。そう信じて、アリスは生きてきた世界に祈りを捧げた。
「降臨! 剣の女王、トライブ・ランスロット!」
アリスの目の前に、青白い光が輝きを放つ。
真夏の空の色をも白く変えるほどの強い光から、これまでいくつもの強敵を打ち破った女王のシルエット。
トライブの目は、光の中でさえ、アルフェイオスを探しているように見えた。
「お願いします……。私のした過ちを……、無事に解決して下さい……!」
アリスが静かにそう呟いたとき、青白い光が姿を消し、中からトライブが飛び出した。
トライブは、何千回、何万回と手にした剣を、1秒も経たないうちに見た。
その瞬間、アリスの表情から血の気が引いた。
「アリス……。
まさかと思うけど、砂の上に突き刺したんじゃないでしょうね……」
「はい……。
10回回るとか、そういう罰ゲームをするのに適当な棒がなかったので、アルフェイオスにしました」
「そうなの……」
次の瞬間、トライブがゆっくりアリスの前に立ち、静かにうなずいた。
こうなると、アリスはいつものように固まるしかない。
――パァン!
「すごい……。
クイーンが怒ると、本気で頬を叩くんだ……」
初めて目の前で説教をされるアリスを見たビリーが、息を飲み込み、思わず一歩、二歩と後ずさりをする。
そして次の瞬間、トライブの表情がすぐに元に戻るのを見て、ビリーはさらに震え上がりもした。
その中で、トライブは静かにアリスに告げた。
「アルフェイオスは、私にとって命に等しいものよ。
私はアリスに、何度も言ってきたけど……、まだ分かってないのね」
「はい……。それと……、怒られる覚悟で言いますけど……」
アリスは、目に涙を浮かべながら、それでもトライブから目線を反らさなかった。
そこで、アリスがこれまでにやってしまったことを、トライブに告げるしかなかった。
アルフェイオスでキャンプファイヤー用の木を切ったこと、スイカ割りをやろうとしたこと。
それに、これからアルフェイオスでクラゲを調理しようとしていたことも。
「……そう。やってしまったことは仕方ないわ。
でも、斬ったり戦ったりする要素すらない罰ゲームだけは、アルフェイオスも許してないと思う。
そんなことをやったアリスたちには、もう使わせないって思ってるのよ。
分かった?」
「はい……」
トライブは、最後にアリスに笑顔を見せると、砂の上に突き刺さっているアルフェイオスの前に立ち、柄に手を当てた。
アリスが見るからに、アルフェイオスが持ち主を認識しているかのように映った。
だが、次の瞬間、砂浜がガタガタと動き始めた。
「じ……、地震……?」
トライブが怒ると、こうなります。
あまり長くは怒らないのが特徴だったりします。
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