第22話 プライベートビーチ大作戦!②
ビリーが、海岸で男を捨てた。
「はい、僕の全裸!」
「うわぁ! す、す、すごくたくましいボディしてますね……!
なんか、召喚術じゃないと戦えないなんて、この体からじゃ信じられないです……」
「そうだね。
体を動かすことは不得意じゃないんだけど、僕はそれよりものんびりしてた方が好きだったから……」
ビリーは、右手で胸をポンと叩いた。
「オメガピース」に所属している兵士は7割が男性だが、アリスは当然にして異性の裸など見ることはない。
ルームメイトのトライブが女性の時点で、異性の体を知らないまま、「オメガピース」での生活をすることが決定してしまったと言っても過言ではない。
だからこそ、アリスが初めて見るビリーの裸は、何もかもが新鮮過ぎた。
「じゃあ、私も……、脱ぎますね……。せっかくの全裸タイムなので」
こんなやり取りを続けていて大丈夫か。
なんかこの小説が、ノクターンノベルズに連れて行かれそうな雰囲気すら漂ってくるのだが。
「じゃあ、ビリー。海に入って何をしましょう!」
「そうだね……。
そもそも、海に入ろうって言いだしたのはアリスだから……、ここはアリスが一番やりたい遊びかな?」
ビリーの手がアリスの肩に触れると、アリスは持ってきたバッグから袋を二つ取り出し、それを広げたまま砂の上に放り出した。
「クラゲ食べたいです!!!!!!!」
「クラゲ?????」
ビリーが激しく息を飲み込む音が、真顔を見せるアリスの耳に聞こえた。
ビリーが書庫で見てきたアレマ領の自然に関する本の中に、クラゲのような生物が書かれていた記憶がない。
「はい。だから、今から二人でクラゲ取り対決をするんです」
「えー……」
アリスは、さっさと海に向かって進んでいくが、なかなかビリーが歩き出さないのを感じ、波が足首ぐらいの高さまで届くようなところで止まる。
ビリーの顔は、難色を示していた。
「ビリーはもしかして、クラゲ触るの苦手ですか?
もちろん、電気クラゲは見極めますから、一緒に取りませんか?」
「そうじゃなくてさ。
そもそも、クラゲって世界中で泳いでるし、特にこのあたりの海でいっぱい取れるわけじゃないと思うけど。
それに、僕……」
ビリーは、手でクラゲが動くようなしぐさを見せる。
アリスは振り返ったまま、ビリーを見つめるしかなかった。
「僕、くすぐってくるような気持ち悪い生物、本当はあまり好きじゃないんだよね……」
「つまり、ビリーはクラゲに触ること自体が、あまり好きじゃないってことなんですね……」
ビリーは、申し訳なさそうにうなずく。
そこに、アリスが何かを思いついたかのようにはっとなり、ゆっくりビリーへと近づいた。
「じゃあ、ビリーは海に生えている、珍しい海藻を探してきてください。
勿論、食べられるものです!
取ってきた量が少ないほうが罰ゲームです!」
「よし、だったら僕も参加するよ!
海藻もぬめぬめしてるけど、クラゲと比べたらまだ平気だから!」
「よし……、じゃあ勝負スタート!」
ビリーが大股で海に向かって駆けてくるのを見て、アリスも急いで海に戻った。
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「はい、クラゲゲット~! もひとつおまけにゲット~!」
アリスは、クラゲを捕まえると、砂浜に置いた袋の中の前まで進み、クラゲを投げ入れた。
アリスが成り行き上、袋を遠くに置いてしまったため、一度砂浜まで往復しなければならないのがもどかしい。
「ビリーは、何か海藻取れましたか!」
「結構取れてるよーっ!
両手にいっぱい掴んだから、僕もそろそろ袋に入れに行かなきゃいけないよ!」
ビリーが手を水の上に出すと、そこには両手いっぱいの海藻が握りしめられていた。
アリスは、ビリーの結果に息を飲み込み、急いで海へと戻った。
「よし、こうなったら、私が次に取ってきたクラゲを使って、私の周りにある海藻を全部食べさせちゃえ!
海藻がなくなったら、絶対にビリーに勝ち目がなくなるもん!
というか、もっと簡単なのは、私がこっそり海藻を食べちゃえばいいんだ!」
アリスは、生態系を破壊しようとしているのだろうか。
「な、なんで僕のエリアにやってくるんだよ!」
30秒もしないうちに、アリスの体はビリーのすぐ近くにあった。
ちょうど、海から出ようとするビリーとすれ違い、異変に気付いたビリーが振り向いたのだ。
「へへーん!
私の作戦に引っ掛かりましたかー!」
「作戦だって?
あー、なるほど。アリスだからやりかねない作戦だよね……」
ビリーが、アリスの作戦に気付いたようだ。
だが、ビリーはあえてその作戦を止めようとはしなかった。
そして、ビリーが再び袋に向かって歩き出したとともに、アリスは水中に顔を突っ込んだ。
「|うぃちゃじゃくぃむぁ~しゅ《いただきま~す》!」
海の中だろうが関係なく、アリスが海藻を捕らえた声が響き渡る。
次の瞬間、アリスの右手が海藻を掴み、根こそぎつかみ取った。
それからアリスは、海中に顔をつけたまま、取った海藻を食べ始めてしまった。
「ふぅ~!」
口の中に海藻を入れたところで、アリスは水から顔を出し、ビリーの動きを見た。
ビリーは、波打ち際に立ったまま、腰に手を当てて立っていた。
「やっぱり、食べてたね……」
ビリーが、アリスの顔に向けて、真っ直ぐ人差し指を伸ばす。
アリスが海藻を飲み込もうと口を動かせば動かすほど、ビリーにその証拠が伝わってしまうのだった。
「とりあえず、アリスが海藻を取ったということで、オウンゴールということにしていい?」
「ええええ? お、オールゴール?
オルゴールは持って来てませんけど」
「オルゴールじゃないっつーの!
オウンゴールって言葉、どこかで聞いたことあるでしょ?
それをやったら、相手の点数になるっていうことだよ!」
「あああああああああ!」
アリスは、ビリーに言われた瞬間に、両手で首を押さえ、吐き出そうと何度かゆすった。
だが、根っからの食いしん坊なアリスに、一度食べた食べ物を吐かせることなど、不可能に等しかった。
「ビリー、ごめんなさ~い! もう食べちゃってま~す!」
「どれくらいの量を食べたか、分かる?
そうじゃなかったら、僕のところにどれくらいプラスすればいいか分からないから!」
アリスは、ビリーの声が聞こえた瞬間に、ビリーから目を反らした。
立て続けに口の中に入れたので、1本だったか2本だったか、あるいは3本だったかも分からない。
下手したら、先程ビリーが両手に持っていたのと同じ量にも思えてならなかった。
「分からないです~!」
「じゃあ、アリスの反則負けということでいいかな?
というか、ズルをしたのはアリスだから、いいよね」
次の瞬間、ビリーが思わず飛び上がった。
アリスはその気配を感じて、再びビリーに体を向けたが、アリスも水中で震え上がった。
「ぼ……、僕の足の上に、クラゲが乗っかってるうううう!」
アリスが捕まえたはずのクラゲが、袋から飛び出し、生息場所を求めて自力で海岸に戻り始めたのだ。
そのうちの1体が、ビリーの足の上に乗っかり、くすぐり始めた。
アリスは急いで岸に上がったが、その時にはビリーが足の上に張り付いたクラゲを振り払おうと、砂浜を駆けまわっていた。
足に宿ってしまったクラゲは、走ったところで振り落とされなかった。
「なんかビリー、クラゲと戯れてますね!
クラゲ触るの、苦手じゃなかったでしたっけ?」
「クラゲのほうから、僕に近づいてきたんだああああああ!」
ビリーは、アリスの横を高速で駆け抜け、海に戻っていった。
次回、女王の剣アルフェイオスに悲劇が……?
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