第22話 プライベートビーチ大作戦!①
「ビリー、朝ですよー!
お目覚めになりましたかー!」
キャンプファイヤーの火を消し、星以外の全ての光が消えたところで、アリスとビリーは眠った。
開けた大地が光を取り戻すとともにアリスは目を覚まし、一度立ち上がってからビリーの耳元で叫んだ。
「な……、なんだよ……。
いま、耳がキーンと鳴ったぞ……?」
アリスがビリーを起こすシーンですら、半年近くに及ぶ領主生活の中でほとんどないのに、ここまでの騒音で叩き起こされたことなど、少なくともビリーの記憶には全くなかった。
「おはよ! 海に朝日が沈みましたよ!」
「そうか……。ここだと、朝日も見えるからね……。
で、沈んでどうするんだよ。沈んで」
「えへへ。
昨日の夕方、沈んでいく夕日がきれいだったから、つい朝日も沈ませちゃいましたー!」
「アレマ領では絶対に見られない、極夜じゃないんだからさ。
ほぼ1日中夜とか、そういうことでもない限り、朝日は沈まない」
ビリーは、前日寝落ちしたままの服装で、朝の海を遠目に眺めた。
波は穏やかで、日が昇ってからほとんど時間が経っていないこの時間帯は、波が空の光に照らされていた。
「それにしても、この海、僕が思った以上にきれいだよな……。
なんか、ここから見ても透き通ってるんだ……」
「画像に収めたいくらい、素晴らしい海です。
だから、今日はあの海で泳ぎたいです!」
アリスの右手が真っすぐに海に伸びると、ビリーがアリスの表情を覗き込んだ。
「海岸で僕と二人で過ごす、じゃなくて……、そもそも泳ぐんだ……」
「えっ、ビリー泳げないんですか? 人生損してますよ!
だって、夏と言えば海! 海と言えば海岸! 海岸と言えば泳ぐ! ……じゃないですか」
「で、水着は?」
「あ」
アリスは、ビリーのツッコミが入った瞬間に、固まった。
念のため、バッグから着替えを取り出し、水着になりそうなものを探してみたものの、お菓子ときどき衣類のバッグから、水着の形をしたようなものを見つけるのは、あまりにも難しかった。
「水着、持って来てないです……」
「だって、アリス。
そもそも、今回の冒険、アルフェイオスが手に入って勇者になりたいから、動き出したんだよね。
しかも、最初は海と真逆の方向に行こうとしてたわけだし……」
「ギクッ……!」
アリスは、領主の館を出るときにどういうくだりがあったかを、ビリーの言葉を頼りに思い出した。
そして、全てがつながった瞬間に、音を立てて息を飲み込んだ。
海水浴を遠くから連想させるワードと言えば、せいぜい「バカンス」ぐらいだろう。
「僕だって、冒険しに行くって言ったから、水着なんて持ってこようとも思わなかった……」
「なるほど……。水着は特に持ってきていないですか……」
そう言い終わると、アリスはスカートを下に動かし始めた。
「あのさ……。
まさか、3ヵ月ぶり2度目のアレ、やらないよね……?」
ビリーは、アリスのスカートを指差しながら、腕を震わせていた。
だが、ビリーの抵抗も空しく、アリスはスカートを膝下まで下げた。
「やりますよ。
3ヵ月ぶり2度目の、ホモサピエンスの全裸ですね」
「言ってるそばからやるなあああああ!
それに、いくら海に全裸で入りたいからって、まだここから海までは歩いて1時間ぐらいあるんだからさ!」
近所迷惑という言葉など無縁の場所だからか、ビリーが大声で叫ぶと、アリスはようやくスカートを元の高さまで戻した。
それから、何事もなかったかのようにキョトンとした表情を浮かべた。
「分かりました。
全裸ホモサピエンスで海に入ることはやめます。
せっかく木がいっぱい生い茂っている場所だから、その葉っぱを使って水着を作りましょう」
「葉っぱで水着……。
どう考えても、海水に浮くような気がするけどさ……、アリス、それで大丈夫なの?」
「やってみなきゃわからない、ってクイーンがよく言いますから、やってみます。
最悪、出る時は、映しちゃいけないところに『禁』のマークを入れるように、葉っぱでアソコを押さえます」
「『禁』マークの代わりになるのかな……。
少なくとも、僕はアリスに生殖器を見られるの、本当に嫌だからね!
まだ僕とアリスの間に子どもを作るなんて、アリスの年齢を考えても早いんだからさ!」
ビリーの叫んだその言葉が、山に跳ね返ってこだまする。
何度か聞こえた声でビリーが我に返ると、アリスがじっとビリーを見つめた。
「こんな朝早くから、生殖器という下ネタワードを言ってる召使いがいまーす。
南アレマにお住まいの皆さーん、バカ領主の召使いのこと、○ニスさんと言っていいですからねー!」
「お、おい! よせ!
僕、ビリーじゃなくなるってことかよ!
嫌だよ、生殖器呼ばわりされるなんてさ!」
「じゃあ、分かりました。ペニ○の王子様って言いますね」
それは版権的によろしくないネタである。
「そもそもさ!
いい歳をした15歳の少女、太ってるけど、が、若い男性にペ○スを連呼するなんて考えられないよ!
しかも、アリスは領主だからね! いい加減分かってよ!」
「すいません。ペさん」
「ペじゃねぇし! せめて、ビにしてくれよ!」
アリスが苦笑いを続ける中、ビリーのほうから「行くよ」と手を招き、二人は長い下り坂を海に向かって降りていった。
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「さぁ、海に着きましたーっ!」
つい1時間ほど前にアリスたちの目に飛び込んできた青々とした海が、砂浜の向こう側に見えると、アリスは靴のまま走り出した。
何度か転びそうになりながらも、アリスは波打ち際まで走り、そこで大きく両腕を広げた。
「これが私の領土が誇る、海いいいいいいい!」
アリスの力強い声がフェードアウトしていくとともに、遠くの岩に波が当たるザザーン、ザザーンという音が、声の余韻にうまく調和した。
やがて、歩いて波打ち際までやって来たビリーが横に立つと、アリスは海を指差した。
「なんか、ここに立つだけでも……、素晴らしいです。
海の広さ、力強さ。そして、私たち人間がどれほど無力な存在なのか、そんなことを考えます」
「最後、やけに哲学的だな……。
でも、その言葉を言えるくらい、アレマの海は素晴らしいよ……」
ビリーは、いつの間にかアリスの肩に寄り添っていた。
アリスが自然にビリーに振り向くと、ビリーがかすかに笑っていた。
「アリスさ。さっきは、本気で怒ってごめん」
「どうしたんですか。急にかしこまっちゃって……」
アリスが尋ねると、ビリーはゆっくりと首を横に振った。
「アリス、時々場を考えないで言葉を言っちゃうことがあるけどさ。
もしアリスがクイーンみたいな真面目な人間だったら、それはそれでつまらないかなって、あの後考えてた」
「バカな私が好きってことですか……?」
「単純に言うと、そうかな。
純粋に好きという気持ちにならないはずなのに……、いつの間にかアリスの世界観に引き込まれそうなんだ」
「私の、ドジとバカとお菓子に染まった世界観に引き込まれる……。
へぇ……、そう思ってたんですね……」
「そう。これだけ長く、二人で一緒にいるとね……、もうこの世界から抱きしめられてる感じだよ」
ビリーの両腕が、アリスの体の後ろから回り込み、アリスを軽く抱きしめた。
アリスは「あ……」とだけビリーに返すと、ビリーはまるでアリスになったかのように、苦笑いを浮かべた。
「とりあえずさ、泳ごうか。
今は、僕たちしか海岸にいないんだし、僕もアリスのネタに乗っかって、全裸ホモサピエンスをやるよ……」
「い……、いいんですか……?」
ビリーが右手の人差し指を立てる中、アリスは右手で口をふさぐことしかできなかった。
実生活で一言も口にしていない言葉を連呼しました。
申し訳ございません。
22話は、いよいよアルフェイオスが本来持つべき人のところへと回収される話。
応援よろしくお願いします。




